進む先に見えるもの
何だか、次のステージに進む為の課題をだされているかのようだ。
今のステージのままでも、生きていく上で、何ら支障はない。けれど、やっぱり先に進みたい。
ゲームなら、多少困難な場面に出くわしても、何度もチャレンジし、次のステージに進む。
現実は、ゲームのようにはいかない、じゃない。
ゲームと同じように、何度もチャレンジしたりしないだけだ。
失敗が怖い。陣地が広がらなくても、今いる場所を守りたい。そんな思いが先に立つ。
でももう決めた。
次のステージに進む。
失敗したら、立ち止まって、やり直せばいい。
自分の場所がなくなってしまったら、新しい場所を作ればいい。
小説家になりたい、と思った十歳の頃の俺がもたらしたものは、やる気と勇気だ。小学生の男子らしい単純でシンプルな思考。
今は“小説家になりたい”気持ちは、仕事と平行線で進める事にしよう。
逃げ道を作る訳じゃなく、両方やりたい。
今は、新しい仕事にチャレンジする気持ちも固まっている。
それぞれ弁当を買い、コンビニを出る。
会社に戻り、ほとんど使われていない、荷物置き場となっている第三会議室に向かい、三人で弁当を食べる。
こうして三人で昼飯を食べる事は、そう多くない。
昼休みが、時間通りに取れる事は少なく、各々空いた時間に食べていた。今このタイミングで、こうして飯を一緒に食う事にも、意味が有るのかもしれない。
『まぁ、でも、長いよなー。オレっち。よく続いてるよ。』
しみじみと、遠藤が呟く。
『ほんと。いつまでこの会社でこの仕事、続けてくんだろ。』
田島が続く。
『オレも、こんな事がなかったら、自分じゃ考えなかったよ。ずっとこのままでいいと思ってたし。』
『お?このままでいいと思ってたのに、なんでまた、チャレンジコースに進もうと?』
遠藤が、ふざけた感じで聞いてくる。
『色々あんだよ。』
『あ、まさか、例の女から敢えて離れよう、とか?』
そこに話を戻されるとは、思ってもみなかった。
何を、どう答えていいか分からなくなり、
『その話はもういいんだ。』
としか言えない。
それでもそんな返事に納得するはずもなく、
『もういい、って、諦めたって事?』
やはり追求される。
自分でも考えながら、言葉を導き出す。
『なんつーか、あれはあれで、オレにとっては必要な出会いで、おかげで、他にちゃんと、いい人見つけた、とゆーか。』
ちょっと言うのを迷ったが、本当の事を話すと、遠藤は怒っているようだった。
『松本って、そんな軽い男だったっけ?モテ期、的な?』
遠藤とは対照的に、田島は面白がっている。
『モテちゃいないだろ。なんなら両方片想いみたいなもんだ。』
『なんかもう、全然わかんないよー。』
そう言った田島の携帯が鳴り、相手を確認すると、急に慌てて、ごめん、と何故か小声で言い残し、電話に出ながら会議室を出て行った。
何時もなら、この手の話には食い付き、茶化しにかかる遠藤が、ずっと怒った顔のままだ。
遠藤を覗きこみ、聞いてみる。
『何か、怒ってる?』
『え?え?怒ってないよ。なんで?』
『顔、怖かったぁ。』
安心して、笑いが漏れる。
少し間があり、遠藤はさっきよりも顔を強ばらせながら
『お前が好きなのは、女だよな?』
ドキッとした。こいつは何か知ってんのか?
そんなはずはない。最初に追いかけた相手が男だった事は、誰にも知られるはずがない。“好き”とは違うが、そう思わせたのはオレだ。
でも、
『なんで?』
違う、とは言えるはずもなく、そうだ、と嘘をついてはダメな気がして、質問に質問で返す。
『男を好きになったり、しないよな。』
変な質問に戸惑う。
『しない、ね。なったことないな。』
『どう思う?』
『?何?同性愛?』
『そう。』
遠藤の質問の意図が分からなかったが、取り敢えず答えていく。
『よく分かんねーけど、どーでもいい。っつーか、好きになった相手が人間なら、ガチロリ以外はいいと思う。だって、しょうがないじゃん。好きなもんは。?こんな考えじゃ、ダメ?』
遠藤が納得のいく答えかどうかは分からなかったが、答えてから、食べかけのハンバーグを口に入れる。
『じゃあさ、松本の事を好きな男がいても、本当にそんな風に思えんの?』
本当に遠藤の考えが分からず、少しイラついて、ハンバーグを頬張ったまま聞き返す。
『何なんだよ、何がいいたいんだよ。そんなヤツいんのかよ。』
『オレだよ。』
二度目の“青天の霹靂”だった。二度目の方が衝撃がでかかった。
噛みきれていないハンバーグも含め、口の中に残っていた物を一気に飲み込んでしまった。
大きな塊が、食道をゆっくり下りていくのが感じられた。
頭が真っ白、じゃない。真っ黒だ。
今までの、点と点を結んだ“線”が複雑に絡み合い、ダマを作ってしまったかのようだった。ダマになった所が元に戻らなかったら、切っちゃうのか?最低な事を考えてしまった事に気付き、心の中で反省する。
進み始めた新しい道の先には、まだ知らない事が沢山ある。
知らない事だらけだ。
新しい景色がキレイとは限らない。でも、どんな景色でも、知れる事は人生をより豊にするだろう。
ハンバーグの塊が、胃袋に到達したように感じた。




