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池  <第1部>  作者: M:SW
19/30

進む先に見えるもの

何だか、次のステージに進む為の課題をだされているかのようだ。

今のステージのままでも、生きていく上で、何ら支障はない。けれど、やっぱり先に進みたい。

ゲームなら、多少困難な場面に出くわしても、何度もチャレンジし、次のステージに進む。

現実は、ゲームのようにはいかない、じゃない。

ゲームと同じように、何度もチャレンジしたりしないだけだ。

失敗が怖い。陣地が広がらなくても、今いる場所を守りたい。そんな思いが先に立つ。


でももう決めた。

次のステージに進む。

失敗したら、立ち止まって、やり直せばいい。

自分の場所がなくなってしまったら、新しい場所を作ればいい。


小説家になりたい、と思った十歳の頃の俺がもたらしたものは、やる気と勇気だ。小学生の男子らしい単純でシンプルな思考。


今は“小説家になりたい”気持ちは、仕事と平行線で進める事にしよう。

逃げ道を作る訳じゃなく、両方やりたい。

今は、新しい仕事にチャレンジする気持ちも固まっている。


それぞれ弁当を買い、コンビニを出る。


会社に戻り、ほとんど使われていない、荷物置き場となっている第三会議室に向かい、三人で弁当を食べる。


こうして三人で昼飯を食べる事は、そう多くない。

昼休みが、時間通りに取れる事は少なく、各々空いた時間に食べていた。今このタイミングで、こうして飯を一緒に食う事にも、意味が有るのかもしれない。


『まぁ、でも、長いよなー。オレっち。よく続いてるよ。』

しみじみと、遠藤が呟く。

『ほんと。いつまでこの会社でこの仕事、続けてくんだろ。』

田島が続く。

『オレも、こんな事がなかったら、自分じゃ考えなかったよ。ずっとこのままでいいと思ってたし。』


『お?このままでいいと思ってたのに、なんでまた、チャレンジコースに進もうと?』

遠藤が、ふざけた感じで聞いてくる。

『色々あんだよ。』

『あ、まさか、例の女から敢えて離れよう、とか?』

そこに話を戻されるとは、思ってもみなかった。

何を、どう答えていいか分からなくなり、

『その話はもういいんだ。』

としか言えない。

それでもそんな返事に納得するはずもなく、

『もういい、って、諦めたって事?』

やはり追求される。

自分でも考えながら、言葉を導き出す。

『なんつーか、あれはあれで、オレにとっては必要な出会いで、おかげで、他にちゃんと、いい人見つけた、とゆーか。』


ちょっと言うのを迷ったが、本当の事を話すと、遠藤は怒っているようだった。


『松本って、そんな軽い男だったっけ?モテ期、的な?』

遠藤とは対照的に、田島は面白がっている。

『モテちゃいないだろ。なんなら両方片想いみたいなもんだ。』


『なんかもう、全然わかんないよー。』

そう言った田島の携帯が鳴り、相手を確認すると、急に慌てて、ごめん、と何故か小声で言い残し、電話に出ながら会議室を出て行った。


何時もなら、この手の話には食い付き、茶化しにかかる遠藤が、ずっと怒った顔のままだ。

遠藤を覗きこみ、聞いてみる。

『何か、怒ってる?』

『え?え?怒ってないよ。なんで?』

『顔、怖かったぁ。』

安心して、笑いが漏れる。


少し間があり、遠藤はさっきよりも顔を強ばらせながら

『お前が好きなのは、女だよな?』


ドキッとした。こいつは何か知ってんのか?

そんなはずはない。最初に追いかけた相手が男だった事は、誰にも知られるはずがない。“好き”とは違うが、そう思わせたのはオレだ。

でも、

『なんで?』

違う、とは言えるはずもなく、そうだ、と嘘をついてはダメな気がして、質問に質問で返す。


『男を好きになったり、しないよな。』

変な質問に戸惑う。

『しない、ね。なったことないな。』

『どう思う?』

『?何?同性愛?』

『そう。』


遠藤の質問の意図が分からなかったが、取り敢えず答えていく。

『よく分かんねーけど、どーでもいい。っつーか、好きになった相手が人間なら、ガチロリ以外はいいと思う。だって、しょうがないじゃん。好きなもんは。?こんな考えじゃ、ダメ?』

遠藤が納得のいく答えかどうかは分からなかったが、答えてから、食べかけのハンバーグを口に入れる。


『じゃあさ、松本の事を好きな男がいても、本当にそんな風に思えんの?』

本当に遠藤の考えが分からず、少しイラついて、ハンバーグを頬張ったまま聞き返す。

『何なんだよ、何がいいたいんだよ。そんなヤツいんのかよ。』


『オレだよ。』


二度目の“青天の霹靂”だった。二度目の方が衝撃がでかかった。


噛みきれていないハンバーグも含め、口の中に残っていた物を一気に飲み込んでしまった。

大きな塊が、食道をゆっくり下りていくのが感じられた。


頭が真っ白、じゃない。真っ黒だ。

今までの、点と点を結んだ“線”が複雑に絡み合い、ダマを作ってしまったかのようだった。ダマになった所が元に戻らなかったら、切っちゃうのか?最低な事を考えてしまった事に気付き、心の中で反省する。


進み始めた新しい道の先には、まだ知らない事が沢山ある。

知らない事だらけだ。

新しい景色がキレイとは限らない。でも、どんな景色でも、知れる事は人生をより豊にするだろう。


ハンバーグの塊が、胃袋に到達したように感じた。


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