友
田島と遠藤がまた揃って出勤してくる。
『どうした?』
オレの顔を見て、何かを察した遠藤が、おはようよりも先に聞いてきた。
『おはよう。ハハッ、鋭いな。相変わらず。』
話そうか、どうしようか迷ったが、行く事が決まれば、いずれ分かる。この二人には
先に話しておこうと思った。
『オレ、異動になるかも。東京。』
言ってから、本社なのか都内にある支社なのか、まだ分かっていない事に気が付いた。
『何?何?栄転?松本が?なんで、なんで?』
食いついてきたのは意外にも田島だった。
『栄転では、ないと思う。オレ的には左遷。』
『どういう事?』
聞いてきた遠藤あてに電話が入り
『じゃ、後で聞かせろよ。』
と背中をおもいっきり叩いて、電話の方へ向かった。
『じゃ、後でね。』
と田島も自分のデスクに向かい、各々の仕事についた。
販売戦略部、なんて、配属された当初は、名前がかっこいい、くらいの事しか思っていなかった。同期入社で、同じ支店だったのは六人。半分はマーケティング部に配属されたが、三年以内に辞めていってしまった。同じ部署で、こんなに長く一緒に続けているヤツらはそうそういないんじゃないかと思う。
それほど、仲良し三人組って訳じゃないが、お互いに守っている距離感が程よく、居心地が良かった。当然、文房具での繋がりも大きかったとは思う。
二人の事を、こんな風に考えた事はなかった。
単なる仕事仲間で、同期で、文房具マニア、だとばっかり思っていた。だけどもっと、大事な存在だったのかもしれない。気付かないうちに繋げていた“点”は、いつの間にか太い線で繋がれていたんだ。
自分の今週の予定を確認しながら、もう少しで終わりになるかもしれないと思うと、後悔しないよう、いつも以上に真剣に作業に向き合えた。
昼になると、遠藤が背後にピッタリと張り付いていた。
『何だよ、こえーよ。』
『さぁさぁ、さっきの続きを聞かせてもらおうか。』
『続きなんか、ないよ。』
『東京行きで、左遷の意味がわかりませーん。』
『本社か支社か、確認するの忘れた。』
『そこ、忘れる?』
『いや、うん。』
『まぁね、まぁね、それにしたって、だよ。今まで異動で東京行った人はさ、本社にしろ支社にしろ、昇進街道まっしぐらな人達じゃん。』
『その人達とは、違うよ。』
電話が長引き、会話に入れずにいた田島が、チラチラこちらを見ていたが、ようやく電話から解放されると、
『ずるい、ずるい、ちょっと、ちょっと待ってよ。』
と自分の席から大声で訴える。
『何が違うんだよ。』
田島の訴えは遠藤には聞き入れてもらえず、遠藤は構わず続ける。
『ちょっとー、何?違うの?何が?』
ようやく会話に加わることができた田島が勢いで割って入ってくる。
『飯、食おうよ。』
ちょっと面倒臭くなり、飯に誘う。
『あー、また。また誘ったぁ。』
『いや、昼飯買いに行こう、くらいは、今までも言ったことあるでしょ。』
『あー、そらそうだな。ハハッ。』
先週、仕事終わりで飯に誘った事がよほど印象に残っていたらしく、誘われる事に敏感になっていたようだ。
『行く行く。いくけど、それで?何が違うの?』
何も聞けていない田島が話を戻す。
すぐ近くにあるコンビニに向かいながら、結局は話さなければならなかった。
『だからね、別にエリートコースじゃないんだよ。全く別物。敢えて言うなら、チャレンジコース。』
『ハハッ、何だそれ。』
『そんなコース、いつから出来た?』
『今日から。』
『意味わかんねーって。』
あんまり真剣に話さない方がよさそうな気がして、少しふざけ気味に言ってみる。
『それに、まだ決定じゃないんだなー。部長から、どうかって、話の段階で。まだ返事もしてないし。』
『でもさ、お前の中では、もう行くつもりでいるんだろ?』
遠藤は、やっぱり鋭い。
『でもさ、でもさ、まだ決定じゃないんでしょ?』
『うん。オレの返事次第。』
『なんか偉そうだなぁ、おい。』
『エラかねーし。福祉部門だぞ。』
並んで歩いていた二人の足が止まる。
『マジかよ。』
呟くように遠藤が言う。
『全然、管轄外じゃん。』
田島も驚きを隠せない様子で、オレに同情の目を向ける。
『だから。チャレンジコース。でしょ?』
『だな。でも、そんなコース選ぶなんて、松本らしくない気がするけど。』
もっともだ。遠藤は、オレの事を良く知ってる。
『オレも、チャレンジコース、行きたいなぁ。』
のんきな田島は何を考えているのか分からない。
『マジかよ。お前はのんきでいいな。』
『えー、のんきじゃないよ!本気だよ!』
『オヤジギャグかよ。』
この天然に、時々救われる。
やっぱり、この二人と居るのは心地いい。
だからって、ずっとこのままでいられる訳じゃない。
自分が成長するためには、どこかで変化は必要だ。




