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池  <第1部>  作者: M:SW
11/30

再考

改めて、ノートに書かれた物語を読んでみた。

まだ良く分からない、自分が何を書きたいのか。

こんな事に、一日振り回されていたのかと思うと情けなくなった。

何だったんだ、この二ヶ月。夢って何だよ、努力なんて今更したって何も始まらないのに。今までの生活で、十分だったじゃないか。


穏やかで、波なんか立つはずのない池に波が立ち、波の激しさできっと、池の水は溢れたんだ。

池の底にヘドロやゴミがたまっていようと、また水が貯まれば見えなくなるだろう。そしたらもう、そのままそっと、また穏やかな水面を保っていればいい。 


広げたノートを閉じる。

乱雑な机の上を片付ける気にもなれず、そのまま机の前から離れた。


考える事に疲れてしまった。

哲学の本を読み、意味が有るのか無いのかも分からない事を考えている方が、よっぽど疲れそうだが、あれはあれで、楽しめた。

現実逃避していただけかも知れない。


脳ミソが、全く機能していないのか、考えても仕方のないことばかりを考える。

遠藤のあの涙は何だったのか。

田島に、あの万年筆を買うことを決意させたものは何なのか。

あの女は、誰なのか。

シャワーを浴びながら、余計な思考を洗い流すように念入りに頭を洗い続けた。が、思考が洗い流されれるより先に、腕が疲れて諦めた。

答えなんか出せるはずもなく、正直どうでもいいことなのに、いつまでも頭にこびりついて離れようとはしなかった。


それなのに、以外に神経は図太いらしく、気が付くと、しっかり6時間の睡眠を取り、朝を迎えていた。そういえば、何かに悩んで眠れない夜を過ごした、なんて経験はなかったな、と案外能天気な自分を誉めてやりたかった。


また今日も仕事に行かなければならない。

急に部長から呼ばれていた事を思いだし憂鬱になる。昨日、自分でも気付かないうちにミスでも犯したか?不安に駆られながらも、現実的な悩みの方が気持ち的には楽な気がした。


いつも通りに仕事に向かい、今日一日の予定の確認をする。

月に何度かは、車で外回りに出る日があった。そして今日がその日だった。外回りの仕事が一番好きだ。ようやく気分転換が出来ると思うと、少し救われた気がした。

部長に会うよりも前に、誰よりも早く、外回りに出る準備を整えていると、のんびりと遠藤と田島が出勤してくる。

二人の顔を見て、一瞬また嫌な事を思い出し、

『嫁さんに怒られなかったか?』

昨日の話の続きに触れられないように、どうでもいい事を聞いた。

『怒られる訳ないだろー。日頃のオレの行いがいいからな。』

その後もしゃべり続けそうな遠藤を牽制するように

『オレ今日、外。もう行くわ。』

と言うと、

『え?早くね?もう行くの?』

やや不信がられたが、急いで車に向かった。


担当地区に向かう途中、海沿いを走る。昔よりも道路が整備され綺麗になっている。行きは右手に海が見える。運転手がいてくれれば、ずっと海を眺めていたいところだ。波が立っていない日は、穏やかに水面がキラキラと輝く。数日前は、同じ景色を眺めながら、自分の進む道が光輝いているように感じていたのに。今はその輝きに、目が眩みそうになる。それでもやっぱり、キレイなものはキレイだ。

何時もより早く会社を出たのは、今日は空地になっている所に車を停めて、少しゆっくり海を見ようと思っていたからだ。この位のサボリは許してもらいたい。


道も、海も、イチゴ畑も、そこにあるのは変わらない。変わるのは見ている人間の心だ。それでもこの道が好きなのは変わらない。眩しく反射する水面を見ながら確かめる。やっぱり、この景色は好きだ。


横を通りすぎていく他の車を見ていると、自分の誕生日のナンバーを付けた車を発見する。その後ろからは、暗証番号にしている番号のナンバーが通りすぎていく。

なんとなく、ラッキー、と思う。しかもダブルで見かけるなんて、いい事あるんじゃないかと思ってしまう。

こんな些細な事で喜べる。運が自分に向いてきた、とか都合良く考えて、また少し前向きになれたりする。単純と言えば単純。

だけどきっと、こんな事の繰り返しなんだ。




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