汚部屋(おべや)
ミドリガメを家族で飼っている。
もう20歳のカメ吉だ。
バカな派遣社員の息子がキレイ好きだから水替えはあいつがやる。
ある日、30にもなって派遣社員の分際で俺に文句を言いやがった。
「お父さん、水替えやった直後にエサやらんといてや」
「亀が腹減ってそうやからあげただけや!」
「水替える前に俺がやってるから、水キレイな日はいいで」
「うるさいな!じゃあお前が全部やったら良いやんけ!俺は一切やらん!早く家から亀持って出て行け!」
いつまで家おるんや。鬱陶しいのう。
おっ!カメ吉が近付いて来よる。エサ欲しいんやろ。あげよう。
キレイな水やったけどあげた。息子?
あんなん知らんよ。また、キレイにしよるやろ。
エサをあげ過ぎると残して水が汚くなる。
キレイにしたばっかりを汚されるのが息子は嫌だった。
水替える人がエサの適量知ってるのに。息子は親父に適量を言った事もあるが
「腹減ってる亀にちょっとで悪い思わんのか!」
「大は小を兼ねるんじゃボケ!」
罵られた。
ある日、親父の部屋から凄い生魚の異臭がした。
原因を探すと部屋の4角にカメのエサが撒かれてた。
息子のイタズラやと思い呼び出した。
「30歳にもなって小学生みたいな事すんなや!」
「してない!」
否定した事にさらに腹が立ち、殴った。
「お前は30にもなって派遣でしょ〜もないイタズラして親不孝もんじゃ!」
次の日
今度は部屋のど真ん中に大量にエサが撒かれてた。
俺はブチ切れて、息子に部屋掃除させた。
「なぁ、俺は正社員で忙しいねん!お前みたいに昼からちゃうねん。朝にしょ〜もない事してるんやろ。俺の部屋掃除しとけ。エサ全部取れよ!」
息子が俺の部屋から戻って来た。掃除機の音は聞こえなかった。
「エサなんか無いやん」
「ちょっと来い!」
息子と部屋に入った。ど真ん中にエサが散乱したままだ。
「お前の目は節穴か?目の前にあるやんけ!早よ掃除機で吸え!」
「だから無いやんけ!」
「お前、何やその口の聞き方は!誰のおかげで飯食えてる思ってるねん!」
ガラッ!
ベランダから海ガメが入って来た。
海ガメ、息子、俺
の構図やから息子を盾にした。
海ガメは2足歩行でエサをばら撒いてる。
「おいっ!あいつ何とかせぇって!」
「えっ?」
「亀のでっかいの何とかせぇって」
「えっ?何言ってるん?」
エサを撒き終えた亀はこっちに近付いて来た。
俺は部屋から出ようと思うも体が動かない。
盾の息子目掛けて噛み付いて来た!
首ナガッ!
バッ!
はあっ!はぁっ!……夢か。
何だここは。病院のベッドか?
いつもの家の布団じゃない。入院してるのか病院の部屋っぽい。個室の狭い部屋だ。
しばらくするとガチャっとドアが開いた。
さっきの2足歩行の海ガメが4匹入って来た。
全員ポリバケツを持ってる。
4匹でエサをばら撒き始めた。
恐い!めっちゃ恐い!
ポリバケツのエサは無限にあるのか、ずっと撒かれてる。
しばらくして、部屋はエサ浸しになった。カサが上がってベッドの高さと同じぐらいになった。
ベッドの高さになると4匹は出て行った。
部屋は亀のエサで異臭がする。魚臭い。
臭い、臭い、助けて!
そう思ってると天井がパカっと開いた。
空は青かった。換気されて臭いがマシになる。
ん?
これ、カメ吉から見た空じゃないか?
しばらくするとおっさんがエサ袋を持ってやって来た。
「大は小を兼ねるんじゃボケ!」
ザーッ
俺はエサにまみれて息が出来なくなった。
耳、鼻、口にエサが入って苦しいのに、ずっとエサが降ってくる。
水を替えてくれ!
親父が変な事言って、急に突然死や。
部屋に亀のエサがどうたら言うてたわ。
そんなん無いのに。
天国でたらふく良いモン食ってるんちゃう?
グルメな人やったし。
助けてくれ!
出してくれ!
あいつ、水替えの時、亀を外に出してたやんけ!