第一話 : 待ち合わせ場所に彼がいません
待ち合わせの場所についたら、彼の姿はありませんでした。
汗だくで自転車をこいで駆けつけて、真っ暗な校舎の階段を全力で駆けのぼってドアを押し開け、屋上の隅々まで駆け回りましたが、やはり彼の姿は見当たりません。
星空の下にあるのは小さな花壇といくつかのベンチ。
それと、バカな期待をしていた大バカなジブンだけ……。
傷だらけの腕時計に目を落とすと、時間は夜の八時三十分――。
「……そうですよね。こんな時間まで、待っていてくれるはずがないです……」
急に胸の奥が重くなりました。
疲れているので立っているのも辛いです。肩にさげていたリュックをベンチに置いて、その隣に座ります。背もたれに寄りかかって暗い夜空を見上げると、星が薄くまたたきました。なぜだか少し、にじんで見えます。
「どう考えても、十時間以上も遅刻したジブンが悪いです……」
当然です。そんなことはわかっています。でも……。わかっているのに、なんでこんなに心臓が重いのでしょうか……。
「昨日に行って、今日に戻って、約束を守らなかったくせに、今さら待ち合わせ場所にやって来て……。ほんとにもう、ジブンはいったいなにをしているのでしょうか……」
そんなことは決まっています。お仕事です。お仕事だから仕方がなかったのです。そして、約束を破ったのはジブンです。だからジブンが悪いのです。
でも――。
それでも。
男の子と二人きりで待ち合わせしたのは、初めてだったのです……。
「そういえば、このベンチでした……」
あの人と――。
彼と初めておしゃべりしたのは、ここでした。彼と一緒にお昼ごはんを食べたのもこのベンチです。待ち合わせの約束をしたのもここでした。だけど今は、ジブン一人で座っています。春も終わりだというのに、今夜は少し寒いです。
「なんだかもう、疲れました……」
大きなため息が漏れました。そのままベンチに横になり、中身の詰まった小さなリュックに頭をのせます。硬くてゴツゴツしているので最悪のマクラですが、そんなことはどうでもいいです。彼のために持ってきたのですが、今夜はたぶん、取り出すことはないと思います。
「待ち合わせ、明日にすればよかったです……」
まったくです。できることなら本物の昨日に戻って変更したいです。だけどジブンはただの高校生なので、そんなことはできません。
だけど、もし時間を遡ることができるのなら――。
三日前に戻りたい。
彼と最初におしゃべりしたあの日に戻れたら、もっといろいろ上手にできる気がします。もっと上手に笑えたと思いますし、いきなり泣いたりしないですんだと思います。
だから、そう、あの日です。
ゴールデンウィーク明けの水曜日に戻れたら、きっと、こんなに胸が重くなる結果にはならなかったと思います――。