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魔法中年の契機。

魔法少女がいるのなら、魔法中年もいたっていいはずだを

そういう発想のもとでこの作品を書き始めてみました。

楽しんでいただければ幸いです。


この世おいて、魔法というものはフィクションの中にしか無いものであるとされています。想像の産物でしか無いとされています。そんなこの世にて、私、鈴木は魔法中年というものをやっております。信じられないでしょう?私も魔法中年に初めて変身した時は驚いたものです。ですが、実際に存在するのです。今日もどこがで魔法中年が、悪の結社<シャッキントリ>と戦っていることでしょう。これから物語るのは、みなさんの予期しないような日常です。そして、私がそんな予期しないような日常に入ることになったきっかけの物語です。

「おいてめぇ。そりゃどういうことだよ?」

市立山之上中学の校舎裏にて、惨めに土下座している少年がいる。声も惨めに震え、少しでも気を緩めれば、涙だって溢れてきそうな様子である。鈴木進ニ、中学2年生の姿である。

「ごめんなさい。もうお金無いんです。」

進二の謝罪を無視し、茶髪の不良が進二の頭を踏む。進二からぐえっと情けない声が漏れる。

「はぁ?俺たち友達だろう?友達が今月ピンチなんだよ。さっさと出せよこの野郎。」

「いや、ほんとに無いんです。」

「聞いてねぇ、よ!」

「あぐッ」

進二の謝罪を無視し、不良は進二の横腹を蹴り上げる。またも情けない声が漏れる。目は最早決壊寸前のダムである。

「ゆ、許してください!ほんとにもうないんです。ごめんなさい、ごめんなさい。」

「いや、聞いてねぇって言ってんだろうが!さっさと出せよ!クソムシが!」

ドスッドスッ。幾度となく打たれる体と込み上げる痛み。進二はダンゴムシのように身を縮こまらせて、暴力から身を守るしかない。顔は涙と泥でぐちょぐちょになっている。

「ほんっと持ってねぇーのかよ。つまんねぇな。」

「す、みません。」

「明日の放課後、第2公園な。そんとき持って来いよ。」

不良はさも当然のごとくそんなことを言い捨てると帰って行った。

進二はボロボロになった学ランをパンパンと叩き、砂埃を落とし、不良と会わないように、いつものように遠回りをして帰る。遠回りと言っても、だいたい徒歩20分程度の道のり。そこまで長い道のりではない。だが、進二にはとても長いように感じられた。

家に帰って、親に気づかれないように制服を洗う。制服を洗濯機に放り込み、洗剤をキチンと図って、洗剤トレイに流し込み、柔軟剤も流し込んで、制服を洗う。もちろんネットに入れてある。

そんな丁寧な仕事を終えた後、はじめて

「ただいまー。」と母親に言う。これが進二のだいたいの放課後である。

「あら、進二おかえり。」

進二の母親はこたつに足を入れたまま、にこやかにそう返す。進二はなぜか少し複雑な気持ちになる。

「うん。ただいま。何見てるの?」

「あぁ、お母さんも昔はこんなテレビよく見てたなぁ〜なんて思ってね。少し懐かしいと思っていたのよ。」

「へぇ〜そうなんだ。魔法少女、か。」

テレビ画面には、傷を負いながらも真剣に敵に立ち向かう女の子たちの姿。色とりどりの衣装を纏ってはいるが、最もカラフルなのは魔法だ。(そんなものがあれば、そりゃ立ち向かえもするさ)。

「人が頑張って立ち向かっている姿を見ると、何か応援したくなっちゃうのよね。この画面の女の子たちも、こんなに頑張っているから、つい私も熱くなってしまうわ。テレビなのにね。」

「ほんとはこんなに上手くいかないよ。じゃ、僕勉強するから。」

進二は、そう母親に返すと、逃げるように二階の自分の部屋に引きこもる。

(立ち向かえるかよ…僕が弱いわけじゃないんだ…みんな、立ち向かえたりしないんだよ…)

ベッドの中で苛立ちながら進二は眠りについた。

翌日。授業などは全く耳に入らず、ただ他クラスの例の不良のことだけがぐるぐると頭の中をめぐる。そうこうしている内に終礼のチャイムの音。とうとう来てしまったのだ。放課後が。進二の気分は暗澹たるものになる。行きたくない。それだけしか考えられない。

だが、行かなかったことを考えると足が竦んでしまい、結局公園まで歩く。考え事をしながら歩いていたせいか、人とぶつかりそうになってしまう。

「あっ。すいません。ちょっと、考え事をしてまして。」

「いえ、大丈夫ですよ。ですが、前を見ないと危ないですよ?知らぬ間に車に轢かれてしまっては大変です。」

男性は、柔和な笑みでそう返してくれた。グレーのスーツは、男性の落ち着いた印象とよくあっており、年は40後半であろうにも関わらず、格好よく見える。

「あぁ、すみません。一つ、頼みがあるのですが、お願いできますか?」

「え?」

「初対面の方に不躾だとは思うのですがすみません。」

「ああ、いえ。内容にもよりますが…。」

「有難うございます。ここの自動販売機で売っているものの中で、缶コーヒーを教えてくれませんか?」

「え?」

「メガネを社に忘れてしまいましてね。あまり見えないんですよ。」

「あぁ。それでしたら。」

進二は、了解すると、男性にコーヒーの種類と、それが何番目に並んでいるかなどを伝える。男性は、千円札を入れると、ぴっぴっと二回ボタンを押す。

「これは、ささやかなお礼です。有難うございました。」

「ああ、いえ。感謝されることはなにも。こちらこそありがとうございます。お礼なんて頂いてしまって。それでは、僕はこれから用事があるので、失礼します。」

「えぇ。縁があったらお会いしましょう。」

中年男性はそう言うと、会釈をして進二の行く先とは反対の方に向かって歩いて行く。進二も会釈を返し、第2公園へと急いだ。

「てめぇ、遅えんだよ!」

「す、すみません!」

「やっと来たかよ。悠二の金ヅル。」

「待ったかいあったわ〜〜。」

不良は3人に増えている。もう2人は金髪と黒髪だ。どちらともケラケラと笑いながら進二を見ている。

「おい。クソムシ。ちゃんと金持ってきたんだろうなぁ?」

「す、すみません!あ、あの、その。本当に持ってないんです!」

「なんで、持ってきてねぇんだ、よ!」

「あぐッ!ぐあッ!」

不良は頭を下げた進二を二回蹴る。進二は体を折り曲げてうずくまる。

「さっさとだしなよ!」

「うぐッ!」

金髪の不良が進二を踏みつける。そのとき、ころん。と進二の制服の上着のポケットからさっきの缶コーヒーがこぼれ落ちる。

「なんなんだよあったんじゃんか〜。なんで使っちゃうかな〜?」

黒髪の不良はそんなことを言いながら缶コーヒーのプルタブを開け、中身をうずくまる進二にかけようとする。だが、その液体が進二にかかることはなかった。

黒髪の不良のコーヒーを持つ手が、先ほどの男性に掴まれているからだ。

「ふぅ。こんな所にいたんですか。どこか、嫌な香りがすると思っていたのです。そのコーヒーの香りにつられた、というのもありますがね。」

「なにしてんだよ、おっさん!」

黒髪の不良が乱暴に手を払いのけると、コーヒーが地面に落ちて、中身がとくとくと漏れ出す。

進二は、呆然としてそのコーヒーの流れを辿るしかなかった。

「おい、おっさんよー。正義の味方気取りたいのか知んないけどさー。邪魔すんのは良くないよなー。」

茶髪の不良が男性に近寄ろうとすると、男性のポケットが光を放ち始める。

「アタリ…ですね。少年よ。下がっていて下さい。ここからは、おっさんの仕事です!変身!!」

男性はそう叫ぶと、ポケットからUSB端末を5、6本中に投げ出す。

すると、そのUSB端末が光の糸のようなもので繋がり、淡かった輝きが閃光のようなものとなり、辺り一帯を包む。

進二は固く閉じていた目を開くと、今度は驚きに目を見開いた。

そこには、魔法使いのようなローブに身を包んだ男性と、その男性に向かい合う、三体の異形の生き物がいるからだ。

三体とも、曲がったツノとコウモリのような翼を生やしており、まるで悪魔のようである。

「少年よ。これからの出来事は秘密にしていて下さい。そして、私の後ろから絶対に離れないでください。」

「お、おじさん!あれ!あれなんなんですか!?!?」

「片付け次第説明します。今は、殲滅が先ですから。」

男性は落ち着いた様子でそう言うと、三体に向き合う。

「この少年の痛み、返させて頂こう。」

「なに言ってやがる。お前1人なのわかってんのか?俺たちは全員上級魔人だ。命乞いすんなら今だぜ?」

「ギャハハ!まぁしても殺っちまうんだけどなぁ!」

真ん中の悪魔に同調するように、左の悪魔が笑う。

「まぁそこのガキもついでで殺してやるから安心しろよ!」

左にいる悪魔が進二を指して言う。

「子供を守るのは、大人の役目です。あなた方如きにやられはしませんよ。まぁ私はしがない、魔法中年ですが。」

男性はそう言うと、魔法のステッキのようなゴテゴテの装飾のされたものを取り出し、それをくるくると回す。すると、小さかった魔法のステッキ状のものが本物のステッキのようになる。

「はっ馬鹿め。殺せ!」

真ん中のやつがボス格だったらしく、左右の悪魔が男性に襲いかかる。しかし、悪魔の攻撃は男性に擦りともしない。

「どうなってんだ!?」

「チッ!まるで当たらねぇ!」

悪魔達が動揺する中、男性はステッキをくるくると回し続けている。

「ボーダーフラメンコ<板挟みの立ち回り>。貴方達の攻撃は当たらない。」

「なんてな!!」

悪魔達はそう言うと、さっと男性から距離をとる。

「くらいやがれ!!ロストエンジン<五月病>」

真ん中の悪魔の光線のような巨大な柱が男性に襲いかかる。しかし、その攻撃は霧のように霧散し男性には当たらない。

「調香魔法、ダークネスフューチャー<消えた年金>。言ったでしょう。当たらないと。」

「な!お前何者なんだ!」

悪魔が狼狽しながら男性を指差す。

「やはり、私のことを知りませんでしたか。そこそこ、頑張ってきたつもりだったのですが。安元。それが私の名ですよ。」

(や、安元…?え、それ名字じゃん…)

進二は一気に現実に引き戻された気がした。だが、現実には引き戻っていない。

魔法陣のようなものが地面には描かれており、周囲の人々は止まって見える。

(なにが、どうなってるんだよ…)

進二は少しでも情報を得るため、目の前の男性の戦いに集中する。

「お前、やはりヘブンパフューム<麦とホップの香り>安元だったか!!」

「まぁ今さらそんなことを知ったところで、意味などないのですが。チェックメイトの香りです。」

「「「な、なにを言って……!?」」」

悪魔達が綺麗にハモった後、目を見開く。悪魔たちは幾重にも重なった魔法陣に捉えられていたからだ。

「フレグランスサーカス<宴会芸>。あなたたちは既に、私の芸に引き込まれていたんです。それではさようなら。二次会は、ありません。」

「クソガァああああああ!!」

悪魔たちを捉えていた魔法陣が眩く輝き、爆散する。悪魔たちもろとも消え去る。

悪魔たちが消え去ると、地面に引かれていた魔法陣も消え去り、目の前にいた不良たちはバタリバタリと倒れる。

「ふぅ。終わりましたね。」

「お、おじさんは…いったい?」

進二は男性、もとい安元を見上げ問いかける。

「説明すると約束してましたからね。少年よ。私は安元。しがない魔法中年です。」

「魔法…中年?」

「えぇ。先ほどのようなものと闘う仕事です。これ以上は、機密となっているため教えられませんが。あぁですが少年。一つだけ覚えておいて下さい。貴方を守ってくれる人はこの世には必ずいます。仮にいないとしても、私が守りましょう。だから少年。絶望をしないで下さい。そして、いつか貴方も誰かを守ってみて下さい。少年、君はその時、必ず強くなれます。」

「強く…なれますかね。」

「ええ、なれます。私が、保証しましょう。まぁたかだか魔法中年ですがね。」

「僕、強くなります。いえ、なりたいです。」

「いい心意気です。では、また縁があれば会いましょう。ああ、それとそこに伸びている方々を起こすかどうかはあなたにお任せします。」

安元は、いたずらをする子供のような笑顔を進二に向けると、手を振りながら、歩いて行った。

進二は、その背中を見えなくなるまで見つめていた。

翌日、朝学校に行くと、茶髪の不良が不良ではなくなっており、進二に、土下座をかましてきた。

「す、鈴木!!昨日まで、本当にすまなかった!」

「ど、どうしたの?」

「なんか、ヒートアップしちまって。お前にひでぇことやっちまった!許されることじゃねぇけど、謝らせてくれ!」

茶髪の不良、もとい加藤悠二は床に頭を擦りつけながら謝ってくる。

「ちょ、みんな見てるから。向こうで話そうよ。」

「あ、あぁ悪ぃな。」

場所は男子トイレ、以前なら進二は加藤とここに入ることは出来なかっただろうが、今は自然にできた。それが、あの魔法中年のおかげなのか、それとも加藤の変わりようのおかげなのかは不明であるが。

「本当にすまなかった!これは、お前からとっていた分の金だ。受け取ってくれ。」

ばさっと、お札の束を手渡される。

「お前からとった金はあると思う。足りなかったら言ってくれ!」

加藤は頭を下げたまま言う。

「え!?これ、10万円以上あるじゃないか!僕が貸したのは2万4千6百円だよ!」

進二は色々細かい性格なので、性格に金額を覚えている。

そして、謙虚でもあった。およそこれは、あの魔法中年のお陰でこうなったのだろうが。

「こんなに受け取れないよ。だから、お詫びならこんど何か奢ってよ。」

「あ、あぁ!!2万4千6百円は今日返す!そのあと、美味い飯連れてってやるよ!」

「うん!」

進二には、夢ができていた

(誰かを守ること)

それが、進二の夢。

あの魔法中年が教えてくれた大切なことの夢である。

お楽しみいただけたでしょうか?いやはや、自分語りというのは存外に恥ずかしいものですね。これにて、私のきっかけの話はおしまいです。ああ、残りの2人の不良については、以後会っていないので何も知らないのですが。この後、加藤くんとは友人になれました。まぁ中学生ですから。確執も残りませんよ。

ということで、ほんとうに幕を引きたいと思います。

ありがとうございました。


面白かったでしょうか?

中年サラリーマンが魔法を使い戦うというのは、新鮮な気がして自分も書いていて面白かったです。好評いただけたら続けます。


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