プロローグ5
『先日、市内のホテルで男性が遺体で発見されました。今回の事件で被害者は五人目とのことで、警察は同一犯の可能性があるとして捜査を進めており__』
『また、被害者は全員ガスによる一酸化炭素中毒にた症状であるとして__』
「…物騒な世の中だ」
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三階 会議室前
さくらは扉の前に立つと、ノックもなしに遠慮なく扉を開ける。
「生徒会長はいるかしら?わざわざ来てやったのにいないだなんて、神があなたを許しても、この私は断じて許さないわよ」
扉を勢いよく開けてそう言い放つと、部屋の奥の方から眠そうな声が聞こえてくる。
声の主は椅子に背中をあずけ、黒の猫耳フードをかぶっていて顔を見ることができない。が、ピョコっと彼の髪が一部はねているのを見てプッと笑いそうになる。
足を組み、口の中にあるキャンディの棒をくるくる回してあそんでいるのを見ると、ただの不良にしか見えない。少なくともさくらの彼に対する第一印象は気まぐれな黒猫の不良少年。顔立ちはかなり美形なのが彼のキャラをより一層濃くしていた。
先ほどまで何かを聞いていたようで、イヤホンの線が机の上に置かれているスマートフォンにつながれている。
(これでもこの学園の生徒会長なのよね、実際。まあ、やるときはやる人なんだけど…)
「来ていきなり怒ってる?もし君が怒っているのならカルシウムを摂ることをお勧めするな。カルシウムなら煮干しがいい。あんな小さな体でも、牛乳飲むよりは栄養を摂ることができるんじゃないかな。あ、それとも飴食べる?甘いものと辛い味のやつがあってさ、今ならプリン&カステラ味とカキ氷キムチ鍋味があるよ。どっちか欲しいなら一つあげる」
「なに、その味のレパートリー。プリンとカステラならまだましだけど、カキ氷とキムチ鍋って…。あなたいったい、いつも何を食べてるのよ」
手を顎にあて考える素振りを見せると、遥は「あ、」と声を漏らし、ぽんっと手を叩く。
「フツーのお菓子とか、」
「お菓子だけかっ⁉︎」
「あとは…パンとかごはん?」
「主食があとにくるって…。栄養かたよるじゃない。栄養のバランスって大事よ?私たちは今が一番大切な時期なんだから」
右手の人差し指を遥の顔の前に出し、左手は腰にあてピシッと子供を叱るように言いつける。
「あ、そうそう。暁君、君さ今日のニュースとか見た?」
いきなり話題を変えられて反応に遅れる。
さくらは机の近くにある椅子に座り、少し間を空けて答える。
「いいえ…、見てないけど…。それがどうかした?」
「いやさー、最近物騒じゃない?暁君は女の子なんだから、気をつけた方がいいって言いたいのさ僕は」
「はいはい。要らぬ心配ありがとう。そうそう、忘れてたわ。はい、書類。」
皮肉にも聞こえる言葉をするりとかわし、渡すよう頼まれた書類をスッと遥の前に出す。
「あー。それ生徒会の書類?本堂寺先生から受け取ったのかい?」
「そうよ。あー‼︎今思い出してもイライラする‼︎あのクソメガネ⁉︎流暢な関西弁をペラペラと…⁉︎私がわからないことをわかってて言ってると思うと…、」
「キーィッ!腹立つー⁉︎」と怒りをあらわにしているさくらの横でペラペラと書類をめくる遥。
ぱらりと最後の書類をざっくり見終わると、
手を後ろに組み一つあくびをすると、また椅子に座り直し寝る体勢にはいる。
「まあ、心配で終わればいいんだけど…」
ほんの一瞬、遥の目が鋭くなる。
その視線に背筋が凍るような何かを感じると、さくらはブルリと体を震わせた。
「なによそれ。やめてよ、あんたが言うと洒落にならないじゃない⁉︎」
さくらがそう言うには理由があった。
前にさくらも何度か経験したことがあるのだが、遥の感とやつはよく当たる。しかも、悪い意味で、だ。
例えば、放課後教室で遥と雑談していたとき「なんか嫌な感じがする…」と、遥が呟いた直後、グラウンドで練習していた野球部の打ったであろうボールが二人のいた教室の窓を割る、などの事故があったり…。
他にも掃除をしていた生徒が誤って階段からバケツをひっくり返して水浸しになる。水道の蛇口が壊れて使えない。車に轢かれかける…。と、とにかく遥の感が当たるのはさくら自身、身をもって知っていた。