#プロローグ 2
さくらは、けたたましいアラームの音で目を覚ました。
ジリジリと鳴っている目覚まし時計。それを止めるべく枕元に手を伸ばし手探りで探すが一向に止まる気配がない。
じろり。と、布団の中から時計を睨みつけ、その見た目に合わないような低い声で唸る。
「あぁ…っ!もう、うるさい!」
止まる気配のないアラーム音に流石に痺れを切らしたさくらは、掴んだ目覚まし時計を思いっきり壁に叩きつけた。
ガンッ…!と音を立てて時計が床に落ちる。
ジリジリジリジリジリジリッ…‼︎
容赦なく大音量のベルがさくらに襲いかかる。
「徹夜したんだから少しは人を労われっての!」
さくらはいっきに布団をかぶり、アラーム音から逃れようと耳をぎゅっと塞ぐ。
が、時計より先にさくらが折れ、渋々布団から出て大音量で鳴るベルを止めた。
__部屋に静寂が訪れる。
はぁ…。と、さくらの重いため息が部屋に響く。
「もう…昨日はスザクさんの手伝いで大変だったんだから、少しぐらい融通利かせてよね」
二度目の溜息をつきながら、ぼそりと呟く。
さくらの顔は酷く疲れきっていた。
昨日のこともあるが、ここ最近さくらは決まって同じ夢を見る。
忘れていたと思っていた幼い頃の記憶。
そして、彼女には思い出したくはない記憶だった。
(まぁ、今更どうこう言うものじゃないか…)
さくらはブンブンと首を大きく振り、考えるのを止め、朝の支度に取り掛かった。
♦︎
さくらの住むこの屋敷はそれなりの広さがあり、外観に引けを取らず中も少し、いやかなり広かった。
しかも、この屋敷の造りは少々変わっていて、洋と和が合わさった独占のデザインをしている。
例えば、さくらが毎日使っているベッドなんかは、アンティーク調の豪華な品物だ。しかも、天蓋というおまけ付き。
他にも、ソファー、カーテン、テーブルにチェア。
さくらの部屋は洋式で違うが、和式の部屋の襖の絵には蝶や月が描かれており、「神秘的」な。あるいは「幻想的」なイメージが強いものが多い。
洋と和。対極のようなデザインなのだが不思議と違和感がなく、落ち着いた雰囲気のあるのが、この屋敷の凄いところである。
屋敷の主人によれば、そんな絶妙なバランスの取れたところが魅力的らしい。
それにさくらはこの屋敷が好きだっだ。屋敷の雰囲気が彼と似たオーラを放っているためだろうか。家にはその人の個性が出るとよく言うものだ。不思議と人を惹きつける彼のイメージそのものがこの屋敷にはあった。
妖艶で、人を酷く惹きつける。なのに人間離れしたなにか。
そんな普通じゃないところをさくらは気に入っていた。
「あ、そうだ。ペンダント」
大きめなライトストーンをちりばめたシンプルなデザインのジュエリーボックス。
開かれたその中に、大事に置かれている赤い宝石でできたペンダント。
父がさくらに遺した遺品だ。
別に思い入れなどはなかったが、なんとなくつけていなくてはいけない気がしてさくらはいつも手放せずにいた。
「よし。これで完璧っと」
全身の身だしなみを鏡の前で確認して、満足そうに笑みを浮かべる。
さくらの通う学校の制服は、男子はワイシャツの上に(ボタンが二列になっているタイプの)赤いブレザー。それにダークブラウンのスラックス。ネクタイの色は学校の指定で黒に統一されている。
女子は、ブラウスの上に茶色のベスト。胸には赤いリボン。そして下には、黒の膝丈スカート。さくらはそれにスカートと同じ黒のニーソを履いていた。
学校の規則に、下に履く靴下などの種類に関してさして決まりはなく、自分で好きに選べるところがさくらはなかなか気に入っていた。