7 脱出
そこから先はあまりよく覚えていない。
屋敷のご主人がなにか叫んでいた気がする。
カミューリはドールガに駆け寄り肩を貸し、少女を連れて屋敷を出た。
途中何人かの傭兵や倒れた大男のようなヤツもいたが、どうやって逃げたかは定かではない。
気がついたら街の郊外、川の畔に来ていた。
ドールガを寝かせ、少女を座らせたカミューリは呼吸を整える。
「ハァハァ・・・もう、大丈夫・・・」
にっこりと少女に向かって言う。少女は安心したのかカミューリの顔を見た途端また涙があふれて来た。
「大丈夫。何もないから。もう、何もされないから」
少女を抱きしめ、頭を撫でて囁くように優しい声を掛ける。
「・・・カミューリ・・・」
寝ているドールガが苦しそうにカミューリを呼ぶ。
少女を抱きしめたまま、ドールガに近付き手を取るカミューリ。
「ドールガ、ありがとう、来てくれて・・・」
ドールガの右手を握りしめ、何度もお礼を言う。
「無事、だな。あぁ、また傷が増えたな、顔を上げてくれ」
ドールガの左手がカミューリの頬に当たる。
沢山の涙を流すカミューリの顔はとても汚れていたが、その汚れを拭うようにドールガはカミューリの顔を撫でた。
起き上がろうとするドールガをカミューリは必死で支え、少女とともに何度も何度もありがとう、ごめんさいと呟いた。
「そんなに謝らないでくれ。一人にしたオレが悪かったんだ」
優しく、微笑みかけるようにドールガは言う。
少女が傍らで二人を見つめ心配そうにしている。それに気付いたドールガは少女の頭を優しく撫でてやる。
「助けるつもりが助けられたんだな。ありがとう」
少女はドールガの顔を見てまた泣きそうになったが堪えて、笑った。
つられてカミューリも笑った。
ドールガも。
ドールガの痛みが引くのを待ってから、三人はいつものボロ小屋に帰った。
「カミューリ、コレを」
ドールガが差し出したモノは真っ白い布だった。
「何?包帯?」
それを受け取りカミューリは広げてみた。
「わんぴーす?」
驚いた表所のカミューリ。隣で目をキラキラさせてワンピースを見つめる少女。
「きれい・・・」
少女がぽつりと呟く。カミューリは少し困ったような顔をしてドールガに視線を投げた。
「えっと・・・これは・・・?」
「似合うと思って買って来たんだ。気に入らないか?」
ドールガが少し照れたような顔でカミューリを見る。
「・・・ありがと、うん。嬉しい、かな」
ワンピースを見つめて自分に言い聞かせるようにカミューリは呟く。
「気に入らなかったか?」
ドールガの表情が不安な色に染まる。
慌てて顔を横に振り否定するカミューリ。
「違うよ!すごい嬉しいよ!でも・・・」
「でも?」
少女とドールガは同じような不安な表情に変わった。
「でも、私・・・おとこなんだよね・・・」
そこから先は大変。
驚きすぎて脇にチカラが入ったドールガは床に転がり回るし、少女もそんなドールガを見て泣き叫ぶ。
痛みと驚きで分けの分からない事をぶつぶつ呟くドールガはとても不気味で。それをなだめるカミューリもよく分からない事を言い訳のように必死で話す。
まさに阿鼻叫喚。