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6 迎え

一階 主人部屋前


「残す所はここだけだな」

部屋の前に立ち刀を構えるドールガ。傍らで少し不安そうな顔をしている少女。

少女をあの場に一人残しておく訳にも行かず、行動を共にしていた。


『いいか、オレはこれからそのご主人ってヤツの所に行く。お前は行きたくは無いだろうが、一緒に着いて来てくれ。ここに一人で残すのは気が引ける』

驚いた様子でドールガを見つめる少女。

『心配しなくていい。お前は絶対に助ける。カミューリと一緒に』

少女の両手を握りしめ少女の大きな目を見つめ続けた。

『オレを信じてくれ』

一呼吸の後、少女はゆっくりと頷いた。


それからは二人でさっきまで大男が居たであろう場所に戻り、手当たり次第扉を蹴破っていた。


そして、ここが最後の部屋。

扉を破ろうと刀を構えると、反対側から聞き覚えのある足音が聞こえた。

咄嗟にドールガと少女は物陰に隠れ息を潜めた。


その足音の主はあの大男だった。

もう一つ、明らかに違う足音がした。

鎖で繋がれ、白いローブを羽織ったカミューリだった。

(カミューリ!)

ドールガは飛び出しそうな自分の足をどうにか制し、少女の手を握る。少女もまたカミューリの姿を見て、驚いた。自分が地下の部屋から出される時に隣に居た子供だと分かったからだ。


二人は出来るだけ小さくなり気配を消し、飛び出す機会を伺っていた。

大男が部屋の扉に手をかけ、扉を開けた。

「おぉ、待ちくたびれたぞ」

金持ち特有の嫌みったらしい声がした。”ご主人”の声だろう。

大男が一礼して、カミューリを部屋に押し込んだ。その瞬間、ドールガは少女の手を離し、刀を握りしめ大男にその刃を立てた。


その瞬間はスローモーションだった。

駆け出して来たドールガをカミューリは見逃さず、刀が大男に向かっている事に気付いた。

咄嗟に大男の喉元に鎖を当て態勢を崩した。

そこですかさずドールガの刀が大男の心臓を貫いた。


「もう、しくじらねぇ。これなら一発だろ」


大男の巨体が倒れ込む。


「ドールガ!」

駆け寄るカミューリ。

足にも鎖が付けられている為、躓きながら、その目には涙が溜まっている。

「ドールガ・・・」

カミューリがなんと言っていいか分からないような表情で困惑している。

「迎えに来た」

カミューリの頭に手を乗せ、微笑むドールガ。

傍らで、それを不思議そうな目で見ている少女。


「な、なんなんだ、君たちは!」

しっかり腰が抜けているようで、この屋敷のご主人は半裸で床にへたり込んで居た。

見事に肥えたその腹は憎らしいの一言につきる。

とても間抜けで滑稽な格好をして。


ドールガは大男に刺さったままの刀を抜き取り、血の滴り落ちる刃先をご主人に向けた。

「おい、デブ。お前は、カミューリとこの子をどんな目に遭わせて来たんだ?」

抑揚もなく冷たい表情のドールガは刀の刃先をご主人の肥えた腹に這わせる。

刃先が当たっている箇所からは一筋の血が流れ出た。

「や、やめろ!」

その姿に似つかわしすぎる間抜けな命乞い。

そんな命乞いにはまったく聞く耳を持たないドールガは刀を握る手にいっそうの力を込め、腹に刀をめり込ませようとする。

「ドールガ!」

少女の声かカミューリの声か、二人の声なのか判断する暇もなくドールガは脇に衝撃を受け吹っ飛んだ。

「なっ・・・」

不意打ち。

ブレた視線の焦点が合うとそこには大男が2発目を繰り出そうとドールガに向かっていた。

(なんで!さっき心臓を突き刺したのに!)

2発目をぎりぎりで避け反撃の態勢を整えようとするドールガ。

不意打ちの一発目は効きすぎているようで、呼吸が荒れる。

攻撃を受けた脇腹からは鈍い痛み。

肋骨は何本か折れているようで、下の内蔵にすら影響があるように思われた。


「何をしているんだね?さっさと止めを刺さないか」

この騒ぎを聞きつけたのか、初老の男が扉のすぐ横に立っていた。

「あぅっ・・・」

男の手にはカミューリの髪の毛が握られている。

その言葉に反応するように大男が両手を握りドールガに向かってその拳を振り下ろし始めた。


ゴッツ・・・


鈍い音と倒れる音。


倒れたのは大男だった。

「チッ、薬が切れたか」

顔面から倒れた大男は痙攣している。

大男の身体からは大量の血が流れていた。

フラフラのドールガに近付く初老の男。

「お前のような汚らしいガキは買い手があまりないんだが・・・

まぁ、二束三文にはなるだろうな」

杖でドールガの痛む脇腹を打つ。

「ぐぁ・・・!」

その場にへたり込み脇腹を押さえるドールガ。

小刻みに震えるその身体を涙を流しながら見ているカミューリ。

「ドールガぁ!!」

髪の毛を掴んでいる男の手を振りほどこうと頭を振るが自分の髪の毛が抜けるだけだった。

「申し訳有りません。鼠が紛れ込んでいたようで。立てますか?」

暴れるカミューリを無視して初老の男はご主人に問いかける。

ご主人は最初こそ呆気に取られていたが、その問いに力なく頷き腰をあげようとする。

思うように力が入らないのかすぐにへたり込んでしまうので初老の男は手を貸す。

「お楽しみの時間を削ってしまい、申し訳有りません。ですが、時間が迫っています。早く地下のモノを処分しないと大臣に気付かれてしまいます」

なおも手を振りほどこうと躍起になっているカミューリをよそに淡々としゃべる初老の男。

悔しくて、キツく唇を噛み締める。

踞り、気を失っているドールガの姿が目に映る。

(なんで、なんで、なんで、なんで!)

自分だけがこんな目に遭うんだ!

ドールガを巻き込みたく無かった。

ドールガはいいヤツだ。

自分に優しくしてくれた。

行く当てのない自分に希望をくれた。

なのに、自分はドールガを傷つけただけだ。

(ドールガ、ドールガ、ごめん)


ふっと髪の毛を掴んでいた初老の男の手が解かれた。

「?」


ドザッ


人の倒れる音。

何故か初老の男はカミューリの足下に転がっていた。

「な、ん・・・」

振り返るとそこには少女が居た。

ドールガの落とした刀を手に。

さっきドールガが刺した大男の血とは違う、鮮血がその刀にはついていた。

「君・・・」

「にげ、る。ド、ルガが言ったから・・・」

少女は泣きすぎて赤くなった目を見開きカミューリに言った。


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