4 救出
屋敷内
まるで迷路だ。
同じ景色がずっと続く廊下でドールガは慎重に行動していた。
「何なんだ、ここは。地下に通じる階段とかなんかねぇのかよ」
悪態をつきながら、先に進む。
此処に来るまでに、2、3人の大人を伸していたドールガは奪い取った刀で所々、床や壁に印を付けながら進んでいた。
ドールガが侵入してから結構な時間が経っていた。
地下に通じる階段どころか、それらしい部屋や気配すらない。
「当然か。そんな簡単に見つかるような所には隠してねぇよな」
何個目かの印をつけ、廊下の角を曲がろうとした。
鞭を持った大男が見えた。
ドールガは素早くもとの角に戻り息を潜めた。
大男の後ろには口に布を押し込まれ後ろ手に縛られた少女がいた。
(何してやがる・・・?)
大男は少女に何か言っているようだが声は聞こえない。
少女の顔をよく見ると泣いた後のような顔をしている。
初めて会った時のカミューリのような表情だ。
(あの子はもしかしてカミューリと同じ・・・)
何かを思いついたように辺りを見回すドールガ。
あの男一人ならなんとかなるか。
思うよりも早く、ドールガは大男目がけて突進していた。
足音もなく素早く身体を翻し、大男の後頭部に刀の柄を命中させる。
ヒット。
間髪入れず2発目をくれてやる。
今度は柄ではなく刃の部分を耳の後ろに立ててやる。
抉るように刃を突き立てるが手応えがない。
「!」
本能的に後ろに飛んだ。
大男は少しバランスを崩しただけで、ダメージはナシ。
柄の一撃の後、一歩引き紙一重で刃を避けたようだ。
「・・・おいおい、なんだよ」
2撃目は躱されたが、一撃目は確実にヒットしたハズ。
「脳天揺れてもおかしく無い当りだったのに」
ドールガの目の前で無表情で立っている大男。
攻撃してくるでもないその様子はかなり不気味だ。
なんだこいつ、頭オカシイのか?
男の手がドールガに迫る。
避けようと後ろに下がるが、そこには少女がいた。
目を見開き、腰を抜かした少女はドールガを見つめていた。
一瞬、目を奪われたドールガはモロに男の攻撃を食らう。
少女を巻き込む訳にはいかないと、その場で踏ん張り耐える。
男が2発目を構えた瞬間、ドールガは少女を抱え逆方向に走り出す。
しばらく走り、男が追ってこない事を確認すると一息ついた。
「痛ぇし鉄臭いな」
攻撃を食らった瞬間、どうやら口の中が切れたらしい。
血の固まりを吐き出し少女の口に詰められた布を取ってやる。
「おい、あいつはなんなんだ?」
呆然とする少女に問いつめる。
「あ、う、、、」
うまく言葉にする事ができないようだ。カタカタと身体が震えている。
(無理もないか)
ドールガは大きく息を吐いて少女の頭に手を乗せた。
「しゃべれないなら、首を振ってくれ。オレは味方だ。分かったか?」
多少の震えが止まったらしい少女はゆっくりと首を縦に動かす。
「いい子だ。お前は地下から来たのか?」
優しく頭を撫でながらドールガはなるべく脅かさないように優しく問いかける。
「・・・そ、ぅ」
か細いながらも声に出しながら首を縦に振る少女。
「あな、たは、だれ?」
絞り出すような問いかけ。ドールガは少し表情を和らげ答える。
「オレはドールガって言うんだ。カミューリってヤツを探しに来た、知ってるか?」
「し、しらない・・・」
少女は首を横に振りながら困惑した表情を受けベている。
「そうか。多分、お前が居た所にいると思うんだが・・・どうやったら地下に行けるかわかるか?」
「わかん、ない。わたし、泣いてた、から・・・」
「・・・そうか。地下にはお前みたいな子供が他にもいるのか?」
「いる・・・いっぱい」
「そうか・・・」
視線を床に落とし少し考え込む。
ここにいても埒があかない。
かと言って闇雲に歩くのも得策と言えない。
「・・・お前、どうやってここに来たんだ?」
ふと視線を上げ少女を見つめる。
一瞬ビクっとしたが、すぐに少女は話してくれた。
「さっきの・・・大きい人に連れられて・・・たぶん、ここのごしゅじんさまの所に行くはずだったんだとおもう・・・」
「ご主人?」
「うん・・・」
さっきの大男は尋常じゃなかった。多分話なんて通じない。
あいつの所に戻っても地下への道は分からないだろう。
ドールガはそう考えた。
「そのご主人ってのはこの屋敷にいるのか?」
「たぶん、さっき『もうすぐ、ご主人の所につく。いいこにしていろ』って言われたから・・・」
「そうか」
恐らくそのご主人はこの階のどこか、少女と大男がいたところから近くの部屋にいたんだろう。
あの大男さえ居なければ何とかなるかもしれない。
刀を持つ手にチカラを込め、堅く握る。
まっすぐに少女を見据え、深呼吸をする。
「おい、オレを信じられるか?」