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2 逆戻り

それから何日か後。

街の南側、郊外の川の畔のボロ小屋にカミューリが居た。

ドールガは街に行きパンや果物、カミューリの新しい服を調達していた。

本当ならこの街を出てどこか遠くに二人で行く予定だったが、カミューリの怪我の状態が芳しく無い事が分かり、完治するまでこの郊外で過ごす事になっていた。

ドールガと出会った頃、街の大きな屋敷を逃げ出した時よりかは幾分かマシになった痣や火傷の痕をなぞりながらカミューリはボーッとドールガの帰りを待っていた。

ドールガはその傷跡をあまり見たがらない。

少し前に怪我の具合が良くなった所を見せようとしたら、やんわり拒否された。

「・・・そういば服も大体、大きめとかだしな・・・」

着ている服の袖を伸ばしてみたり、裾を玩んでみたりした。

「あ、そろそろ包帯変えないと」

いそいそと新品の包帯を篭から出しテーブルに置いた。

そのとき、扉の付近に人の気配がした。

「!ドールガ??」

少し嬉しそうに扉に駆け寄る。

ノブに手をかけると同時にノブが回り、扉が開いた。

「おかえりー・・・」

そこにはドールガではなく、見知らぬ大男が立っていた。

「・・・え、誰?」

よく見ると一人ではない。大男の後ろに細身の品のいい初老の男が立っていた。

「まさか、まだこの街にいるとは・・・」

「は?何・・・ウッ!」

ドサッ!

「まったく、出来れば死体で見つけたかったがね」

倒れたカミューリを大男が担ぎ出す。

「行くぞ」

初老の男と大男がカミューリを連れ小屋を後にする。


「ただいまー・・・ん?」

夕暮れ時、ドールガが小屋に戻って来た。

扉を開けたがそこにはカミューリが居ない。

いつもなら迎えてくれるはずだが・・・。

「水、でも汲みに行ってるのか?」

そう広く無い部屋を探してみるがどこにもカミューリがいない。

今日調達して来た食べ物や服をテーブルに置く。

「ん?」

そこには新品の包帯が転がっていた。

「包帯、変えなかったのか」

新品の包帯を手に取り、違和感を覚える。

「なんで、ここに包帯が・・・?」

新品の包帯と薬は篭の中に入れておく事。

それはこの小屋を見つけ住み着く時に二人で決めた事だった。

服を置きっぱなしにしても、食べ物を散らかしても、薬と包帯だけはちゃんと篭に入れる。

無くなったら大変だから、早くカミューリの怪我が治るようにと二人で決めた事。

「どこ行った!?」

包帯を投げ出し、小屋から走り出るドールガ。



カミューリが自ら出て行ったのなら多分、何かしらのメッセージを残すはず。

今日は確かにいつもとは違う時間帯にドールガは小屋を出た。

いつもは夜・夜中に街に行き盗みを働く。

しかし今日に限っては、新作の服の入荷が有るというのでカミューリの為に早くに出かけ新作の服を調達した。

カミューリが行きそうな場所なんて分からない。

でも、攫われたなら連れて行かれる所は一つしかない。

カミューリが満身創痍で逃げ出した場所。

街の中心地にある、バカでかい屋敷。

カミューリはあまり話したがらないが、あの屋敷には黒い噂がある事をドールガは知っている。

戦争で親を亡くした子供達は人買いにより一部の裕福な貴族達に売られるという。特に少女、カミューリのような色の白い、色素の薄い少女は高く売れるらしい。

飽和状態の孤児院の職員が子供を人買いに売る事もあるという。

ひどい場合は実の親が子供を売る事もあるらしい。

特にあの屋敷にはそうした売られた子供が多く居て、近隣の異常な性癖者の貴族達がこぞって買いにくるという。

その金があの屋敷の貴族の主な資金源だと。

屋敷の主人も異常な性癖者らしいが。


もう一つ、気になる事がある。

数日前から街で耳にしている噂。

政府が変わるらしい。

戦争孤児を救う為に事実、黙認されてきた人身売買を本格的に取り締まる、というもの。


追いつめられた売買業者はどうするか、想像に堅い。

元々身寄りのない子供がほとんどだ。

居なくなったとしても誰も困らない。

売れなくなった商品は破棄するしかない。

屋敷の人間にとって商品さえ処分してしまえば事実は消滅する。

完全に事実消滅させるには一つ残らず処分するしかない。

あの小屋を見つけたとき、あそこなら街の人間も近づかない、そう思ったから、カミューリを一人であそこに残した。


怪我なんて気にせず直ぐに街を出ればよかった。

カミューリ一人くらいドールガが背負ったって大した事ではないはずなのに。

だけど、カミューリは無意識にドールガに触れる事を拒否している。

男に触れる事、触れられる事がイヤなのだろう。


自分の甘さ、愚かさにドールガは後悔しか感じなかった。


屋敷の前に着いたドールガは素早く門番を気絶させる。

「こういう時は大概、地下がセオリーだな」

気絶させた門番の鍵の束を奪い取り、屋敷の中へ走って行く。


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