1 出会い
パチッ・・・パチ・・・・
やめて!やめて!
その子はダメ!
『次は君だよ』
『きっと君だ』
『わたしのようになってはダメだよ』
いやだ!ここからだして!
ここはいやだ!
『さぁ、こっちだよ』
『今日は君にしよう』
「泣いてるのか?」
見た事のない景色?
違う。
昨日、この森に来た。
でも、こんなに明るくなかった。
目の前には見知らぬ男。
男と言うには少し幼さが残る青年。
じっと見つめるその目には子供を責める感情も、不気味な気配もない。
昨日と同じシーツが体に巻かれている。
昨日と同じ服。
昨日とは違う、包帯が足や腕に巻かれている。
昨日?本当に昨日?
「おい、大丈夫か?」
ボーッとする子供に青年は話しかける。
その言葉が子供に届いているか子供は感情のない顔で青年を見ている。
その顔は泣いていた。
「ここは、天国?君は天使?」
「はぁ?お前、頭打ったのか?」
ここには、おいしい食べ物がない。
暖かい暖炉がない。
でも、歪な形の果物と固そうなパンがある。
その辺の木々を集めて焚いた薪がある。
「神様はとても意地悪なのかも」
青年から視線をズラし腕に巻かれた包帯を見る。
「本当に大丈夫か?さっきから何言ってんだ?」
横になったままの子供の顔を怪訝な表情で見ている青年。
「お前、なんでこんな森の中で倒れてたんだ?そんな薄着で」
「私を見て何も感じないの?カラダ、見たんでしょ?」
「ッ・・・・」
子供のカラダには明らかに誰かに故意に傷つけられた痕が多く有った。青年はその傷跡を見ていたハズだ。
ジッと青年の顔を見つめ、反応を伺う。
「・・・服の下は見てねぇ」
「は?」
予想外。少し視線をズラし、赤くなった顔をした青年。
「あんた、もしかして他所から来たの?」
睨むように、青年を見つめ体を起こす。
「あぁ、昨日の夜中にこの森に入った。オレの居た街が戦争に巻き込まれてな」
赤ら顔のままチラッと子供を見る。
「なんだ、人買いじゃないの」
「人買い?」
「そう、私はペドフィリア用の愛玩具だから」
「愛玩・・・?」
「汚くてイヤらしい大人のおもちゃ」
腕に巻かれた包帯が気になるらしく指で弾いたり、引っ掛けたりしている。
「おもちゃって・・・」
「この街には当たり前に居るんだよ。そーいうのが」
包帯を弄っているうちに、徐々に赤いシミが滲み出て来た。
昨日、森に入った時には気付かなかったがどうやら枝かなにかで結構深く切ったらしい。
「・・・なんで、そんなヤツがこんな所に?」
「逃げて来たんだよ、他に理由ある?」
「・・・」
あまりに当然に言うものだから、青年は言葉に詰まってしまった。
「あんたも早くこんな街出た方がいいよ。あんたみたいなゴツいのでも、物好きはいるからね」
「お前は、どうするんだ?」
子供の腕の包帯から滲み出た血が雫になって下に垂れる。
痛みも悲しみもこの血の雫のように体から出てしまえばいいのに。
「・・・さぁ。何にも考えてない。どこに行ってもどうせ一緒だし」
垂れた血の雫が固まりになって土の上に留まる。
きれいな丸い形の血の固まり。
それを見つめ、反射する自分の顔がとても醜く見える。
傍らでパチパチと音を立てる炎の音がとても五月蝿い。
いつの間にか、青年は子供のすぐ隣に来ていた。
無言でしゃがみ込み子供の腕を手に取ろうとする。
「やっ・・・!!」
咄嗟に青年の手を払いのける。
「・・・あ、すまない」
両手を胸の前に広げて何もしないアピールをする青年。
「えっと・・・とりあえず、包帯変えないか?」
睨みつける子供におずおずと問いかける青年。
少しの沈黙。
ため息を一つ。
「オレはドールガだ。お前も行く所がないなら、一緒に居ないか?」
「・・・え?」
触れられた腕を庇いながら眉間に皺を寄せドールガと名乗る青年を見つめる。
「名前、教えてくれないか?」
唇を噛み締め、血が滲む腕の包帯を見つめる子供。
その包帯が少し綻びていた。
「・・・カミューリ」
ドールガは微笑みかけながらカミューリに新しい包帯を渡す。
戸惑いながら受け取るカミューリ。
「あぁ、よろしく」
ドールガの笑顔を優しく感じた。