会合
少し短めになってます。
そしてルーナさんがデレを見せようと頑張ります。
王都イシリスのほぼ中央部に、サブラムの王城、クラジム城がある。
その造りはかなり質素で、豪奢なネティス門と比べると些か見栄えの良さに欠けるところがある。
その代わりと言うわけではないが、この城には実際の戦争に使う設備が充分に揃っている。
砲台や抜け道はもちろん、広大な地下牢や隠し扉など、他国の城と比べると歴然とした差があるのだ。
特にその地下牢は迷宮のような造りが特長で、看守といえども地図を持っていなければ歩き回ることさえままならない。灯りが少なく、目印といえば白骨化した囚人の残骸ぐらいのものだ。
たとえ囚人が脱獄したとしても、すぐに迷って飢え死にするのがおちである。
上には衛兵、下には脱出口のない迷宮だからだ。
故に、監獄から囚人が消えたとき、看守はこう言うのだ。
「また迷宮に呑まれた」と。
この地下牢では、行方不明者を探すことはしないため、今も白骨遺体が数多く眠っている。
そうしてこの地下牢は長い間墓場として恐れられてきたのだ。
ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー
エルクは、その墓場と呼ばれる地下牢に閉じ込められていた。
カルロスの要望により、その中でも最上階にいることができたのは不幸中の幸いである。
エルクは気絶したまま運ばれ、牢の中で目を覚ましたのだが、牢獄で目を覚ましても、まったく焦らなかった。
そこはさすが団長、といったところである。
さらに、焦らないどころか、牢獄が狭すぎてくつろげないと思ったエルクは、壁を削ることでスペースを広げることに精を出していた。
しばらく何も起こらないまま時間がすぎ、エルクが牢獄の壁を削ることにも飽きてきた頃、看守がエルクを呼んだ。
「エルク殿、付いてきてください。面会希望者が待っています」
「分かった。すぐに行く」
看守は牢の広さと残された多量の土砂に驚きながら、エルクを上へと案内する。
看守とエルクは、最初の会話以降、一切言葉を交わすことない。
黙々と、長々とした螺旋階段を上り、看守の詰所を通り抜け、その先にある面接室まで歩いていく。
この時までは一応手枷があったが、部屋に入る前に外された。
そして、もともとは尋問室であるはずのその部屋に入ると、そこでは金髪美人のルーナがしかめっ面で座っていた。
ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー
俺はカルロスにしてやられ、捕まりこそしたがそれはある意味予想通りだった。
苦し紛れにいっているのではなく、本当にいくつか想定していたパターンの一つにすぎない。
ただ一つ予想外だったことと言えば、ミーシャがすでに捕らえられていたことだけだ。
だから事前に相談していた通りにルーナは来てくれたし、ここまでは問題ない。
大切なのはここからだ。
「ルーナ、悪いな……。やっぱりこうなってしまった」
「そのようだな。お前が簡単に捕まるなんておかしなこともあるものだ。カルロスにやられるなんて、エルクも衰えたな」
「ちょっと待て。そんなことあるわけないだろ。俺があのおっさんに負けるだと……。冗談でもやめてくれ」
「分かっている。そう怒るな」
ルーナの笑った顔を見ると、本気でさっきのことを言ったのではないことが分かる。
どうやらからかわれただけらしい。
そう思うと少し悔しい。
しかし、それと同時に、この状況で冗談を言ってくれる精神力の強さが、少し頼もしくもあった。
「ああ。その時の状況を簡単に説明するとだな……。カルロスがミーシャを縛って俺の前まで引っ張ってきて、俺が逃げたらミーシャを殺すとかなんとか言ってきた」
ガタッ
「なんだと⁉ ミーシャを……。すでにそこまで準備を進めているのか!?。そ、それは……少しまずくないか?」
「落ち着けよ。そしてとりあえず座れ」
「……分かった。すまないな。少し取り乱した。続けてくれ」
急な出来事にまだルーナは落ち着かない様子だが、今は話を進めることが重要だ。
あまり時間がないかもしれない。
「いいか、ミーシャが捕らえられているからには、多分テロアもすでにそのことで抑えられていると考えるべきだ。それに城の貴族達もある程度は寝返っている可能性が高い」
「その通りだな。もしかしたら他の団長にもすでに寝返った者がいる可能性がある」
「ああ。ガリアーノとサリエスは、もとからカルロスの部下みたいなもんだ。あいつらはまず駄目だろうな」
「ということは第一騎士団と第二騎士団が駄目ということか……。他にも一体どれくらいの人達が……」
ここまで整理すれば、サフラムの現体制が相当危ないことは誰でも分かる。しかし、それではまだ足りない。問題はここからどうするかなのだ。
とりあえずルーナの考えでも聞いてみるか。
「なぁ……ルーナはどうするんだ? 俺と一緒にいても損するだけだ。今なら、まだ知らん振りしても間に合うぞ?」
ガタッ
「エルク!! 本気で言っているのか? いくらお前でも今の言葉は許しがたいぞ! それに私は「冗談だ。からかっただけさ」」
元気良く立ち上がり、勢い良く捲し立てていたルーナは、急にしゅんとする。
「………うぅ……。あんな真剣な声音で言うのは卑怯だ……」
エルクがさっきとは打って変わったような表情をしたのを見て、ルーナはしてやられたことを理解したようだった。
さっきの仕返しだ。
「さっき何を言おうとしたんだ? ちょっと遮ったから聞こえなかったんだけど?」
「!!……それは…えっと…そ、その…何と言うか…」
ルーナが普段の会話でここまで詰まるのも珍しい。
今が普通の状況ではないからなのか。
いつもの理路整然とした口調はどうしたのだろうか。
なんか変なこと聞いたか?
それに、ここらなしか、さっきよりルーナの顔が赤くなってきている気がする。
一体何なんだ?
「だ、だからな……私は…私は「そんなに言いにくいなら言わなくてもいいぞ。申し訳ないしな」」
そんなに言いづらいことだったのか?
「今言おうと思ったのにっ……。後少しだったのにっ……。恥ずかしいの我慢したのにっ……。頼まれても、絶対もう言わないからなっ!」
なんか怒られた……?
まぁいいか。
そのうち言ってくれるよな。
それより話が全然進んでない。
さっさと決めないと時間がなくなってしまう。
……エルクは終始何も気付かない鈍感男だった。