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エルク ーアメリアを手にした男ー  作者: kairi
サフラム王国
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副官カグヤ

今回はカグヤ視点です。


女の子は難しい…。

 

  私の名前は、輝夜 咲 (かぐや えみ)。


  日本に住む、ごく普通の女子高生だ。


  これといった特徴があるわけでもなく、何か特技があるわけでもない。


  あえて言うなら、少し頭が良かった、というだけ。


  どれだけ没個性なのだろうか。


  そんな普通な私は、今、異世界で生活している。





  この世界に来てから今日で何日目になるだろうか。


  何日?


  いや、何年と言った方が正しいだろう。



  毎朝目覚める度に、この世界での生活が夢であることを願ったりもしたが、結局一度も叶わなかった。


  逆に日本のことが夢にまで出てくるくらいなのだ。


  そのうち、いやでも現実を見つめるようになった。





  私は、ほんの数年前まで、本当に日本で生活していた。


  普通に勉強して、友達がいて、両親がいて。


  そんな生活が楽しかった。


  それなのに私はいきなり日本から消えて、この世界に飛ばされてきた。


  ある日、学校から帰る途中、足元が光ったような気がして、次の瞬間には意識を失った。


  そして、気付いたら山の中にいたのだ。


  初めは何がどうなっているのか、わけが分からなかった。


 自分は誘拐されたのかとか、拉致されたのかとか、いろいろ考えてはみたけれど、飛ばされてきたこの世界では全てが違っていた。


 そして、地図を見せてもらって、異世界に飛ばされたのだと分かったときが、今までで生きてきたなかで一番絶望した瞬間だった。




 それから幾度となく考えた。


 なぜ私だったのか。


 私はどうなるのか。


 なぜ飛ばされてきたのか。



 私には彼氏はいなかったけど、現実には満足していたはずだ。


 どうせなら他の人を……。


 そんな風に何度も何度も考えたけれど、答えなんか分からなかった。





 それでも私はラッキーだと思わなければならない。


  この世界で最初に会った人に拾ってもらい、その人の勧めで剣術を習うことができたのだから。


  私を拾ってくれた、優しい人は、何も見返りを求めずに養ってくれた。


  落ち込んでいる時は励ましてくれた。


  どんな危険な時も守ってくれた。

 



  だから安心してここまで生きてこれた。




  いつからだろうか。


  あの人を大切に思い始めたのは。


  あの人から離れるのが怖くなったのは。


  はっきりと思い出せないし、もしかしたら出会った瞬間にはそう思っていたのかもしれない。



  今も気持ちはあの人に傾いている。



  ずっと二人きりでいたいと思うほどに。





  でも、最近は、ルーナ様やミーシャ様もエルク様に好意を抱いているように感じられる。



  他の女の人にそういう感情が見えた時、私はとても嫌な人間になってしまう。



  エルク様には醜い嫉妬だと思われているのかもしれない。


  自分でもやめようとは思っている。


  でも、自分の気持ちを自覚した時から、胸の奥から湧き上がってくる想いを抑えることができなくなった。


 昨日の会議の時もそうだ。


 ミーシャ様が泣いていた時、本来ならば私が慰めるべきだった。


 でも私からすれば、恋敵のような人に優しくすることなど到底出来なかった。




 私はなんと心が狭いのか。


 こんな私でもあの人は受け入れてくれるだろうか。


 嫌ったりはしないだろうか。


 普通に接してくれるだろうか。


 ……ああ……。他の事を考えよう。





 昨日の会議の結末のこと。


 あれは本当に意外だった。


 エルク様のことだからどんなに諭されようと自分の決意を曲げないと思ってた。


 ていうか今までそうだったし。


 いつも自覚の無いまま無茶ばかりして、紙一重でなんとか切り抜けてくる。


 そしてまた笑顔で帰ってくるのだ。


 ちょっと怪我しちゃったとでも言いながら……。



 今までは大体それで済んできた。


 問題の規模も小さいことが多かったし、関わる物も小さかった。



 だが、今回は被害者になるのが自分だけというわけにはいかない。


 あの人は今、良くも悪くも、この国の命運も背負っている。


 だから、私は賢い選択だと思っていたし、内心そうするのが正しいと考えていた。





 あの人の辛そうな顔を見ない限りは、だけど。


 どうやら、あの人は、自分だけではどうにもできないことがあるのが嫌らしい。


 


 全てを自分でやってしまいたい。


 他の人には無事でいてほしい。




 いつもそう考えている。


 今回もそうしたいのに、内心では皆と協力するのが一番いいと分かっている。



  あの顔には、そんな心情が見えるようだった。





  そういえば、今日は朝の訓練にも来なかった。


 この国に来てから、毎日続けてきた訓練なのに。


  今まで来なかったことなんて一度だって無い。


 屋敷にいさえすれば、必ず皆と剣を打ち合う人なのだ。



 ……こんな時こそ私が力に……なるだろうか?


 逆に気を遣われて邪魔になるんじゃないか?


 いや、そもそも嫌われてる?




 ……またこんなことばっかり考えてる。



「カグヤ~? どうかした~?」


「え? ……あ、ごめん。ちょっと考え事」


「仕事中に考え事なんて珍しいわね。雪でも降るんじゃないかしら」


「……そうかもね」


「本当にどうしたの? 悩み事なら私に相談してよ? いつでも話聞くから」


「大丈夫。ありがと」



 そうだ。


 考え事なんて私に似合わない。


 今は集中だ。


「カグヤさん、これ団長のところに持ってってください。いなかったらそのまま置いといてください」


「分かった。すぐ行ってくる」


 基本的に許可なしで、エルク様の自室に入っていいのは私とルーナ様ぐらいだ。


 ミーシャ様は例外だ。


 何の用事がなくてもズカズカと部屋に入っていくのをよく見かける。


 すぐに追い返されてヘコんでいることも多いのだけど。



 そういう事情から、必然的に届け物類は、私が一手に引き受けることになっている。


  正直ちょっと面倒くさい。


  細々とした書類から上奏文、報告書など、そんなに重要性のない書類まで運ぶことになるからだ。



「まぁ会えるからいいんだけどさ……」


 コンコン


「カグヤです」




 …………………


 シーン



「エルク様?いますか?」



 ……………………


 シーン



 ガチャ


 いないのか。



 この忙しい時にどこへ行ったのやら……。



 そう思って机の上に書類を置こうとすると、置き手紙があるようだった。


「カグヤへ


 俺はしばらく城を空ける。昨日言ったようにカルロスを説得しに行く。可能性は低いと思うがこれが国を救うのに一番良い方法だ。いきなり将軍にそんなことを言ったら謀反だと言われるかもしれないし、カルロスなら勝手に捏造しかねない。だから俺がしばらく帰ってこなくてもお前達で部隊を編成して集合地点に向かってくれ。よろしく頼む。


 エルク」



 もう行ったのか。



 もしかしたら朝にはもういなかったのかもしれない。



 そうか。



 一つ謎が解けた気がする。



 私がなんであのいい加減で面倒くさがりな人を好きになったのか。




 あの人は、気に食わないことも全力でやりきる。


 自分の命を賭けて。


 そして、やっぱり基本的に無茶なのだ。


 全部一人でやろうとするから。


  人に頼らないから。


 だから、守ってあげたいと思う。




 そういうところなんだな。


 私が好きなのは。



 


  今は信じよう。


  自分の気持ちとあの人を。


 きっとあの人ならまたやってくれる。


 そしてまた笑顔で帰ってくるんだ。


 だから私はこの屋敷で笑顔で迎える。


 エルク様がまた全力で頑張れるように。


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