母
そこに座っていたのは、かつて私を柔らかに抱いてくれたふっくらとした母ではなく、目も虚ろにやせ細った女でした。
箸が上手く使えないので、食べ物を食べることもままならず、物を飲み込めないので、食べた物を吐き出してしまうことさえありました。
私はそんな様子の母が痛々しく、とても見ていられないので、隣で黙々と米を口に運ぶばかりでした。
物事を理解する力も衰弱し、傍らに置いてあった寿司醤油に気がついていなかったようなので、袖が醤油に浸ってしまっていました。
軽く肩を叩き、醤油の皿を示しましたが、その服越しに触った肩のか細いこと。
あんなにも肉のついた肩は、今では骨と皮ばかりになってしまっていたのです。
居たたまれなくなって、急いで残りの米を口に押し込み、御馳走様と呟いて、勉強をするからと、足早に階段を降りました。
勉強机に向かい、シャープペンシルを持ち、幾つか数学の問題を解きながら、泣きました。
母が死ぬことが悲しかったのではないのです。
あの頃の母がもう戻らないことに、泣いたのです。