第9話 この年で面接とか、マジ勘弁してほしい
どうやら、この世界は――
ゲームとまったく同じ、というわけではないらしい。
確かに、同じ部分はある。
国名、城、地名、世界観の大枠。
だが、それ以外に「俺の知らない設定」が、平然と存在している。
いったい、どういうことだ?
星野さんはいなくなったままだし、
なんかベタな展開で、これからお姫様とかに会う流れっぽいし……。
俺は何のために、ここに連れてこられたんだ?
状況から見て、扱いは決して悪くない。
少なくとも牢屋に放り込まれたり、剣を突きつけられたりはしていない。
それでも、不安感は一向に収まらなかった。
目の前に立ちはだかる城の入口は、巨大な扉だった。
高さは三メートル以上あるだろうか。
その扉には――見覚えのある装飾が施されている。
「……確か、この模様、藤野がデザインしたんだっけ」
嫌味ったらしい同僚、藤野の顔が脳裏に浮かぶ。
会議で「ここは俺のこだわりなんで」とか言ってた、あの文様だ。
まさか、現実で再会することになるとは。
……ただし。
その巨大な扉が、開くことはなかった。
「こちらからお入りくだされ」
促されたのは、扉の脇にある小さな通用口。
「なんだ、VIP待遇じゃなかったのか……一般市民枠ってことね」
城内に足を踏み入れると、今度は天井が異様に高い。
無駄に広い。無駄に豪華。
よくもまあ、こんな非効率な空間を作ったもんだと、逆に感心する。
俺はフィゼルに導かれるまま、城の中央に位置する螺旋階段を上っていった。
登り切った先に現れたのは、これまで見てきた中でも一際立派な扉だった。
「ここが王族との謁見の間である。本日はクリアーデ妃殿下が直々にお会いになる。汝の国の礼儀作法で構わぬ。だが、くれぐれも無礼のなきよう」
そう言って、フィゼルは扉の前で立ち止まり、俺を手招きする。
……あれ?
俺、あんまり考えずについて来たけど、
これ、めちゃくちゃ緊張するやつじゃないか?
王族?
そんな人種、人生で一度も会ったことない。
礼儀って言われても、知ってるのは接客マナーくらいだぞ。
そんなことを考えていると、部屋の奥から凛とした声が響いた。
「異国の者よ。中に入られよ」
妃殿下――だったな。
豪華な扉が、鈍い音を立てて開く。
言われるがまま、俺は中へ足を踏み入れた。
十メートルほど先。
玉座らしき椅子が二つ並び、その前に一人の若い女性が立っている。
ドレスのような、ひらりとした衣装。
どう見ても、この人が妃殿下だ。
……うん。
ベタだ。すごくベタだ。
俺は背筋を伸ばし、できる限り失礼のないように歩み寄る。
こんなに緊張するのは、就活の最終面接以来だ。
大きく息を吸い、一礼。
これが、俺にできる精いっぱいの挨拶だった。
「異国からの来訪者よ。よくぞスレニア王国へ。
私はこの国の第一王女、クリアーデと申します。王族一同、あなたを歓迎いたします」
声はよく通り、話し方は穏やか。
フィゼルとは違い、非常に聞き取りやすい。
年は二十歳そこそこに見えるが、不思議と品格がある。
……本物の王女様、なんだろうな。
「さて。そなたは、なぜここに招かれたのか、見当がつかぬ――そう思っていることでしょう」
「ええ。つい先ほど、ここに来たばかりです。正直、分からないことだらけです」
できる限り丁寧に答えた。
この口調、ほんと久しぶりだ。
「本来であれば、父王が其方の処遇を決めるのが筋ですが、生憎、国王陛下は討伐遠征に出ており不在です」
……討伐?
いきなり物騒だな。
「其方の話次第では、罰を与えねばならぬ可能性もあります。場合によっては、幽閉も……」
「いえ、妃殿下」
思わず、口を挟んでしまった。
「俺は、この国に招かれた理由を聞いているんじゃありません。一刻も早く、元の世界に戻りたいんです」
「元の……世界?」
王女は、わずかに目を伏せた。
「そのお気持ちは理解できます。ですが、この国を救うため、其方の情報が必要なのです」
……俺の、情報?
「ちょっと待ってください。俺は間違って呼ばれただけなんです。来た理由も、方法も分からない」
「間違い、ですか? いいえ。それはありません」
クリアーデ王女は、はっきりと言った。
「この召喚は、女神デリア様の御意志によるもの。
導師アイラは百年に一人の才を持つ者。失敗など、考えられません」
……女神?
導師?
いや、もうツッコミが追いつかない。
「俺は、日本って国の、ただのサラリーマンです。力もないし、国を救うなんて無理です」
「それでも、間違いだと申しますか?」
「ええ。何度でも言います」
クリアーデ王女は、しばらく考え込むように俯いた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「では、もう一つお聞きします」
静かな声だった。
「其方は――祈り人という言葉を、知っていますか?」
……いのりびと?
その瞬間、はっきりと感じた。
これは、
単にゲームの中に入っただけじゃない。
城や地名は設定通りなのに、
NPCらしき存在が見当たらない。
知っている人名が、ほとんど出てこない。
覚えがあるのは――
女神の名前、くらい。
この世界、
知っているはずなのに、
知らないことだらけだ。
――やっぱり、何かがおかしい。




