表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

第8話 お願いだから連絡させて

「カイシャ? それはユージの国のモノなのか?」




「いや、物じゃないけど……働いている場所のことでさ。とにかく連絡しないと、後ですごく怒られるし、心配もされると思うんだ」




「怒られる? なぜだ。連絡を怠ると叱責される理由は何だ? 誰に叱責されるのだ? 国王か?」




「いや、王様じゃなくて……室長なんだけど」




「シツチョウ? それはまた聞き慣れぬ言葉であるな。さぞ高貴な身分なのであろう。だが我は、その“カイシャ”というものも、連絡の術も知らぬ。今は諦められよ」




「ですよねぇ……」




「では、参ろうぞ!」




――駄目だ。この世界。




とりあえず王都とかに行って、詳しい事情を説明するしかない。


それにしても、この先一体どうなるんだろう。




俺は半ば強引に、この大柄で古風な物言いの男の後ろに座らされ、凸凹の轍を馬の背で駆け抜けていくことになった。




腕時計を見る。針は、とっくに十時を回っていた。




日本ではもう十時か……。


会社の連中、心配してるだろうな。




そういえば、星谷さんはどうなったんだろう。あのままログアウトしてたりして・・・


他のプレイヤーのことも気になる。




もっと他にも、こっちに飛ばされたプレイヤーがいるんじゃないのか?




……ああ、なんか服が臭くなりそうだ。


そういえば、馬に乗るのって初めてかもしれない。




一刻も早く状況を整理したい俺は、この髭面の大男たちと共に王都へ向かうことになった。




どこまでも続く土の道を、俺はフィゼルの後ろに座って進んでいく。


初めての乗馬だったが、思ったより悪くない。適度な揺れが、妙に心地いい。




やがて、遠くに大きな街並みが見えてきた。


その最奥、丘の上に――見たこともない巨大な城がそびえ立っている。




「ここが……スレニア王国の首都、グランスレニア城? なんて迫力だ……」




遥か道の先に広がる街並みと、その奥にそびえる白亜の城に、俺は目を奪われた。


石造りの城壁が陽光を受け、白く輝いている。




ゲームの中で見てきた城とは、まるで違う。


画面越しではなく、小高い丘の上に“実在”しているせいか、やたらと荘厳に見えた。




「これが……城……」




「何だ? ユージ殿の世界には城はないのか?」




前に座るフィゼルが、振り返らずに問いかけてくる。


いい加減、頭越しの会話はやめてほしい。上司に説教されている気分で落ち着かない。




「城はあるけど、ここまで綺麗なのは初めて見たよ」




「そうであろう。グランスレニア城は、この世界でも屈指の建築。建立より二百年の歴史を誇る城なのだ」




二百年――?




二百年前には、ここは存在していなかったということか。


ん?そんな設定作ったっけ?




やがて街の入口に辿り着く。


遠くから見た印象とは違い、城下町はかなり賑わっている……はずなのに、どこかおかしい。




関所には衛兵らしき男が二人立ち、俺たちに敬礼してきた。


フィゼルと同じ、銀色に光る甲冑を身にまとっている。




巨大な石の門をくぐると、城へと続く大通りが目に飛び込んできた。


通り沿いの建物はどれも堅牢な石造りで、明らかに俺たちの文明とは異なる。




文明が違うというより――


古代ローマの都市に、突然放り込まれたような感覚だ。




だが、どうにも街の空気が物々しい。


甲冑姿の兵士がやたらと目につく一方で、民間人の姿が少ない。




この違和感は……何だ?




「しかし……こんな街、ゲームにはなかったよな……」




俺の呟きに、フィゼルがすぐ反応する。




「ほう。ユージ殿の世界には、このような街はないのか? 確かに、この王都はスレニア王国の中でも群を抜いて大きいがな」




「ふーん……」




気のない返事をしながらも、胸の奥では不安が膨らんでいく。




これは夢なのか?


それとも、現実なのか?




もしこれが現実で、元の世界に帰れなかったら――。




大通りを抜けると、先ほどから見えていた城が、ついに目の前に現れた。




「……でかい」




近くで見ると、迫力がまるで違う。


某テーマパークどころの話じゃない。




俺があんぐりと口を開けて見上げていると、フィゼルが誇らしげに語る。




「どうだ、ユージ。我が王国が誇る壮大にして厳粛なるグランスレニア城は! この大きさ、大陸一。いや、アルファズル世界随一と言っても過言ではない。とくと眺めるがよい」




「はぁ……確かに、すごいな……」




感嘆は本物だが、状況が状況だけに心は落ち着かない。




「では、ここで降りていただこう。足元に気をつけられよ」




その時になって、俺は初めて馬の背の高さに気づいた。


足が、届かない。




鞍の下の足掛けにも気づかず、盛大に地面へ転がり落ちる。




「ガッハッハ!」




フィゼルの豪快な笑い声が響く。


少しムッとしたが……まあ、自業自得だ。




「では、この先は我が案内しよう。神官兵の諸君、ご苦労であった。職務に戻るがよい」




その一声で、同行していた神官兵たちは隊列を組み、街の入口へ引き返していった。




――さて。




流れに乗るまま、王城まで来てしまったが。


これから一体、どうなるんだろうな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ