第4話 階段を登った後は、坂道を駆け下りるのかよ!
「階段を登った後は、坂道を駆け下りるのかよ!」
誰に対しての文句なのか、自分でも分からない。
だが、そうツッコまずにはいられなかった。
さっきまで俺は――
謎の階段を登り、草原に出て、昼寝して、
起きたら戦闘音がして、
気がつけば全力疾走で坂道を駆け下りている。
……RPGって、プレイヤーを休ませる気ある?
草の生い茂った斜面を駆け下りる感覚は、紛れもなく現実だった。
足裏に伝わる地面の感触。
肺が悲鳴を上げる感じ。
汗が額から垂れる感覚。
「……夢なわけ、ないよなぁ」
俺は息を切らしながら、小刻みに鳴り響く音の正体を探して走り続けた。
すると――
数百メートル先に、集落のようなものが見えてきた。
「あれは……家?」
斜面を下るにつれ、風景がはっきりしてくる。
十数軒ほどの粗末な家。
そして、その中央に――人だかり。
「……やっぱり、人がいる!」
思わず声が出た。
今の俺にとって、人間の存在はオアシスだ。
スライムより、人。
魔物より、人。
俺は状況を理解したい一心で、その人だかりに向かって走り続けた。
――が。
距離が縮まるにつれ、
俺はようやく何が起きているのかを理解する。
「……あ、これ、やばいやつだ」
十数人の群衆が、
二人の男女を追い詰めている。
しかも――
群衆の手には、武器っぽいもの。
棒。
フォークみたいなやつ。
スコップ。
どう見ても農具だが、
数の暴力は正義をねじ曲げる。
「なんだよ、これ……」
追い詰められている二人は、丸腰だった。
逃げ場もない。
一方的すぎる。
「……近づきすぎたら、俺も巻き込まれるな」
俺は即座に判断し、
前進をやめて身をかがめた。
幸い、草の丈は膝ほどある。
しゃがめば、ほぼ完全に隠れる。
――こういう時だけ、RPGの草は優秀だ。
俺は耳と目をフル稼働させ、様子を窺った。
「お前らは一体何者だ!」
「ダニーとリミじゃねえのは分かってんだぞ!」
「悪魔憑きだ!その身体、悪魔に操られてるに違いねえ!」
……あ、嫌なワード出た。
「二人をどこにやった!」
「元に戻せ!」
どうやら村人たちは、
**“誰かが入れ替わった”**と考えているらしい。
追い詰められた男が必死に叫ぶ。
「ま、待ってくれ!俺たちは何も知らない!」
「気づいたら、見たこともない村にいて、しかも別人になってて!」
「何が何だか分からないんだよ!」
女性も続く。
「そうよ!私たちだって被害者なの!」
「話くらい聞いてくれてもいいじゃない!」
……ああ。
「俺と同じパターンだ」
間違いない。
この二人も――巻き込まれ組だ。
だが、村人たちは聞く耳を持たない。
「やかましい!」
「悪魔は平気で嘘をつくって決まってる!」
「村を焼き払うつもりだろ!」
「そうだ!」
「悪魔め!」
「殺せ!」
……おいおいおいおい。
「展開、重すぎない?」
RPG序盤で、
いきなり魔女狩りイベントとか聞いてない。
俺は草むらで冷や汗をかいた。
「今出て行ったら……」
「間違いなく、俺も悪魔扱いだな」
最悪だ。
三人まとめて串刺しエンドが見える。
でも――
あの二人が嘘をついているようには、どうしても見えなかった。
そもそも――
「悪魔って……いるわけないだろ」
……いや。
ここ、ゲーム世界だった。
「……いや、いる可能性は否定できないのか?」
思考が混乱する。
だが、冷静に村人たちを観察すると、
ある違和感に気づいた。
顔立ち。
服装。
生活道具。
「……日本人じゃない」
西洋の中世以前。
貧しい農村。
映画や絵画でしか見たことのない出で立ち。
――なのに。
「言葉は、日本語……?」
どう考えても、おかしい。
「……なんなんだよ、この状況」
俺は草むらに伏せたまま、動けずにいた。
助けたい。
でも、出たら死ぬ。
知識はある。
だが、力はない。
「はぁ……」
小さくため息をつく。
一難去って、また一難。
いや、去ってすらいない。
「そうそう楽にはいかない、か」
自分で自分に言い聞かせる。
「……だってRPGだもんな」
さて。
この状況、
どうやって切り抜ける?




