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第1話 ログインしたら、ログアウトできませんでした

どうやら勇者召喚に失敗したらしい。

俺は剣も魔法も使えない、ただのサラリーマンだった。

それなのに、なぜか異世界の“運営役”を任されている。 


プログラマー兼ディレクター――

星谷絵里に俺は呼ばれた。


「……で、その致命的な不具合って、どれくらい致命的なんですか?」


俺はコーヒー三杯目を啜りながら、彼女のデスクを覗き込んだ。

星谷絵里。年齢二十代後半。童顔。メガネ。

そして、この地獄のような開発現場で唯一、笑顔で人を殺せるタイプの天才だ。


「んー? そうだなぁ……」


彼女は軽く首をかしげ、キーボードを叩く手を止めない。


「最悪、ログインしたプレイヤーが――」


嫌な予感がした。

この人が「最悪」って言う時、だいたい俺の想像の三段階上を行く。


「――ログアウトできなくなる」


……は?


「は?」


思わず声が出た。


「え、ちょ、待って。今、さらっと言ったけどさ」

「うん?」

「ログアウト、できなくなるって……あの、冗談だよね?」


星谷はようやくこちらを見て、にこっと微笑んだ。


「冗談だったら、こんなに楽しくないでしょ?」


この人、目が笑ってない。


「いやいやいや! 楽しいとかそういう話じゃないでしょ!?」

「大丈夫大丈夫。再現条件がちょっと特殊だから」


その“ちょっと”が怖いんだよ!


「特定のタイミングでログインして、特定の条件を満たすと――」

「満たすと?」

「意識ごと、ゲーム内に固定される」


…………。


「えっと」

「うん?」

「それって」

「うん?」


「現実に戻れないって意味ですか?」


星谷は一拍置いて、こう言った。


「仕様上は、ね」


仕様で済ませるな。


その瞬間、社内にけたたましいアラート音が鳴り響いた。


《大型アップデート、予定より30分前倒しで開始します》


「……え?」


俺と星谷が同時に天井を見上げる。


「前倒し?」

「前倒しだね」

「誰が許可したんですか!?」

「たぶん、あのハゲ」


あのハゲ……もとい、上司の顔が脳裏に浮かぶ。


「何考えてんだあの人ぉぉぉ!!」


時すでに遅し。

サーバーは起動し、世界は動き出してしまった。


「で、志賀くん」

「はい?」

「ちょっと確認したいんだけど」

「嫌な予感しかしません」


星谷は椅子をくるっと回して、俺を指さした。


「さっき、テスト用アカウントでログインしてたよね?」

「……してましたけど?」

「アップデート直前に」

「……しましたけど?」

「そのまま、ログアウトしてないよね?」


――あ。


「それ、まさか……」

「うん。再現条件、全部満たしてる」


俺はゆっくり、自分のPC画面を見た。


そこには、見慣れたタイトルロゴ。


――Knight of the Gladis World


そして、次の瞬間。


視界が、白く弾けた。


目を開けると、そこは見覚えのある場所だった。


青い空。

石畳の街。

噴水の前で剣を振る初心者プレイヤー。


「……は?」


俺の視界の端に、見慣れたステータスウィンドウが浮かんでいる。


【プレイヤー名:Yuji_S】

【職業:テスター(仮)】


……テスターって何だよ。


「え、待って待って待って」


俺は自分の手を見る。

ちゃんとある。触れる。動く。


「……まさか」


恐る恐る、メニューを開く。


ログアウトボタン。


――グレーアウト。


押せない。


「……ああ」


膝から崩れ落ちた。


「あああああ……」


あのハゲの説教より、

この現実のほうが、よっぽどキツい。


こうして俺は――

現代日本のサラリーマンから、MMORPG世界の住人になってしまった。


しかも、デバッグ担当という名の

世界で一番、死にやすい役職で。


……誰か、ログアウトさせてくれ


そのとき俺はまだ、自分がこの世界で「一番厄介な役職」に就かされたことを知らなかった。

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