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第2章「山岳地帯の道場」 第1話:風の道、剣の試練

山の空気は、鋭い刃のように肌を切った。


 アキラたちは、城塞都市を旅立って数日、聖剣ソウルバーストに刻まれた第一の鍵——「風斬の鍵」が眠るとされる山岳地帯へと向かっていた。険しい岩山を登りながら、旅の疲れと薄い空気が容赦なく体力を奪っていく。


 「はぁ……はぁ……この道、いつまで続くんだよ……」


 アキラが荷物を背負いながらぼやくと、先を行くリオが振り返る。


 「甘ぇこと言ってんじゃねぇ! 山道で息が切れるようじゃ、鍵の守人には勝てねぇぞ」


 「わかってるって……けどさ、もう三時間は登ってる気がする……」


 「事実、登っている。標高差、おそらく六百メートル以上」


 冷静な声で答えたのはミナだった。彼女は魔法で荷物を軽くする簡易魔法を展開し、他の二人よりも余裕のある足取りだった。


 彼らの目的地は、かつて聖剣の使い手が修行を積んだという「風刃道場」。その頂には、風と剣を極めし老剣士が今もなお、鍵を守り続けているという。


 「それにしても、山って……こんなに静かなんだな」


 アキラがつぶやいた瞬間——風が鳴いた。


 ヒュウ、と耳を裂くような音とともに、岩陰から黒衣の影が現れる。


 「敵だッ!」


 リオが叫び、すぐさま前に出る。牙のような二本の短剣を持つ魔族の使徒が、風のような速度で突撃してきた。


 「アキラ、下がって! 結界、展開!」


 ミナが魔法陣を描き、淡い光がアキラを包む。その隙を縫って、リオが咆哮と共に拳を振るった。


 「ぐあっ……こいつ、速いっ!」


 アキラは剣を抜き、呼吸を整える。修行の中で覚えたばかりの「風舞剣・壱ノ型」。


 「……風よ、導け」


 地を蹴る。剣が風と共に唸り、斬撃が敵の肩を裂いた。使徒は呻き声を上げて後退したが、すぐさま姿を消す。


 「消えた!? いや、風の中に……!」


 ミナの叫びと同時に、再び影がアキラの背後から現れる。だが——


 「読んでた!」


 アキラは振り向きざまに斬撃を繰り出し、使徒を地に伏せさせた。静寂が戻り、ただ風だけが吹き抜けていく。


 「やるじゃねぇか、勇者様」


 「……手が震えてるけどな」


 アキラは剣を握る手を見下ろし、深呼吸した。


 その夜、三人は山の中腹にある避難小屋で休むことにした。焚き火の灯りがゆらゆらと揺れ、山の静けさの中に心を落ち着かせる。


 「なぁ、リオ。あんたはどうしてこの旅に参加したんだ?」


 「……部族のためだ」


 リオは少し間を置いてから答えた。


 「人間の都市からは忘れられた俺たちの村がある。魔族が動き出しゃ、真っ先に狙われるのは辺境の集落だ。聖鍵の力があれば……守れるかもしれねぇ」


 その言葉に、アキラは言葉を失った。自分の覚悟の浅さが突きつけられるようだった。


 「私も、理由は似たようなものです」


 ミナが静かに口を開く。


 「私は……王都の魔法学院の落ちこぼれです。でも、それでも誰かを守れる魔法使いになりたくて。だから……この旅を選びました」


 「……俺は……」


 アキラは言葉を詰まらせた。


 翌朝、彼らはついに道場の門前へとたどり着く。


 風が強く吹きすさぶ山頂。その中心に、巨大な木造建築——「風刃道場」が姿を現した。


 その前で、一本の木剣を背負った老人が立っていた。


 「……来たか。聖剣の継承者よ」


 その眼は、まっすぐアキラを見据えていた。

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