第3章「海底遺跡」 第4話:崩落の記憶、浮上の決意
想影盤が放った光が天井に届いた瞬間、セラグラード全体が揺れた。
ゴォォォォ……という低く鈍い震動。床が軋み、天井から砂が舞う。
「な、なんだ!? 地震……じゃないよな!?」
アキラが叫ぶ。だが、これは物理現象ではなかった。
「想念の共鳴による崩壊現象です!」
リュミエルの声に、ミナが顔を青ざめさせる。
「記録が“解放”されたことで、都市全体の封印が限界を迎えている……このままじゃ、ここごと崩れる!」
そのとき、残響のような音が響いた。
——“記憶ノ継承ハ完了……封印ハ、解カレ……虚無ヘト還ル”——
それはまるで、遺跡そのものの“声”だった。
「逃げよう、みんな!」
アキラが叫び、三人とリュミエルは扉をくぐって祭壇の間を飛び出す。
外の回廊では、壁の魔導線が赤く点滅していた。まるで都市の心臓が最後の鼓動を刻むように。
「戻るルートはティランティスまで一直線よ!」
ミナが魔法で地図を展開し、最短ルートを表示する。だが、その行く手に黒い影が立ち塞がる。
「っ……また魔族の使徒か!」
霧のような魔力を纏った異形が、次々に遺跡の崩壊に引き寄せられている。
「鍵の力を狙ってる……!」
リオがすぐに前に出て拳を構えた。
「ここは俺が道を開く、アキラ! お前らは先に行け!」
「バカ言うな、一緒に帰るって決めたじゃねぇか!」
アキラが叫ぶ。
「お前が鍵を持ってる。だったら、お前が行くしかねぇだろ!」
リオの声が一喝のように響く。アキラは拳を握りしめ——
「絶対、あとで合流しろよ!」
「……任せとけ!」
リオが敵の群れに突撃し、通路をこじ開ける。その間に、アキラ・ミナ・リュミエルの三人はティランティス号の格納区画へと滑り込んだ。
「魔導駆動、起動します! 結界展開!」
リュミエルが操舵席に座り、急速浮上の魔術を起動させる。海底の構造物が崩れ、光の柱が都市を貫く中、船体が震えるように加速する。
「リオ……!」
アキラが必死に後方を振り返るが、視界は瓦礫と魔力の霧に覆われていた。
だが、船体の脇に巨大な岩片が飛来するその瞬間——
「どけぇぇぇぇぇッ!!」
リオの咆哮とともに岩を砕く拳が飛び込んできた。
「リオ……っ!」
「遅れてすまねぇ!」
ティランティスが再び浮上を始め、全員が乗ったことを確認すると、船体の魔導輪が最大出力を発した。
泡が弾け、光が走り、崩れゆく都市セラグラードの記憶が背後に沈んでいく。
◇
——そして、浮上。
船体が水面を突き抜けた瞬間、空が、風が、音が、一気に戻ってくる。
アキラは息を吸い、空を仰いだ。
「帰って……来た……!」
ミナは肩を震わせて座り込み、リュミエルは静かに両手を胸に当てていた。
「セラグラードは……もう二度と戻らない。でも、記憶は、残りました」
アキラは聖剣を握り直す。
「俺たちは、あの都市の意志を継いだんだ。必ず……七つの鍵を集めてみせる」
リオが横で笑う。
「まったく、休む暇もねぇな」
だが、その声に力があった。
次なる鍵が呼んでいる。