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「おい、あいつ『銀色』だぜ」


 遠くから俺を見てひそひそとつぶやく冒険者達。同情しているような目にすこし疑問が浮かぶが、今はそんなことはどうでもいい。

 やっと、やっと、念願の剣士になれた。気分は爽快。自然と口角が上がってしまうのを必死に抑えながら俺は冒険者ギルドを出て、武器屋に向かった。剣士になったのだから、剣を買わなければ。


 武器屋は冒険者ギルドに隣接していた。さすが冒険者の街というべきか、他の店と比べて武器屋は明らかに大きい。

 中に入るとすぐに剣が並んでいる区画へ向かった。壁にかけられて展示されている剣は値段が異常に高い。タルに何本も差して売られている剣の数百倍はする。

 参った。何がいい剣なのかさっぱりわからん。まあ一番高いやつを買えば問題ないだろう。

 近くを通りかかった店員を呼び止め、この店で一番高い剣はどれかを尋ねる。

 訝しげに全身を下から上まで見られたが、リュックから金貨の入った袋を取り出すと態度が一変した。


「もちろんですとも! さぁさ、こちらの商談室へどうぞどうぞ。すぐにお持ちいたしますので、おかけになってお待ちください!」


 案内された部屋のソファに腰掛けてしばらく待つと、身なりのいい店主らしき人物がいやらしい笑顔で手をもみながら入ってきた。

「これはこれは、お待たせいたしました。お探しなのは長剣でお間違いないですかな?」

「ええ、私は剣士なので、長剣を買いに来ました。剣士なので」


 名実ともに堂々と剣士と名乗れることに嬉しさを覚えながらも、店主が用意してきた長剣を手に取った。

 お、重い。完全に持ち上げられず、剣先が床に刺さってしまう。剣士にステータスが下がったからか。ドヤ顔で良い剣を買いに来たのに持ち上げられもしないというの恥ずかしい。恥ずかしすぎる。咄嗟に、さっき見たジョブチェンジ魔法を真似て自分のジョブを魔法士に戻してしまった。片手で剣を再び持ち上げ、剣を眺める。

 しまった、カッコつけるためだけに、魔法士に戻してしまった。しまった。やばい、屈辱だ。俺は剣士なのに。とはいえ、剣士のままでは剣が持てないのでしばらくジョブを戻せない。


「こちらはエーラン切っての鍛治職人集団が丹精込めて作り上げた、数十年に一度の傑作でございます。アイアンワイバーンの牙を素材としておりまして、決してミスリルやオリハルコンなどに負けない強度を誇っております。強い魔物の素材が豊富に入ってくるここエーランでしか作れない、逸品でございますよ」

「買います!」


 即答した俺に一瞬目を丸くした店主。すぐにいやらしい笑みを浮かべ、手をもみもみする。

「これはこれは英断でございますなぁ。ありがとうございます、こちら300金貨でございます」


 手持ちの金貨は498枚。旅道具や食料を買った時の相場を考慮すると、とんでもない値段だ。もちろん買う。良い剣士になるためには良い剣でなくてはならない。気がする。

 金貨の入った麻袋を取り出し、ソファの前にあるテーブルに置いた。すぐに店主が、横に控えていた店員に金貨300枚を数えさせる。


「ところで、さぞ高名な剣士様であるとお見受けいたしますが、冒険者証などを拝見してもよろしいでしょうか。大変恐縮ではございますが、冒険者証や騎士登録証などがないと武器が販売できないことになっておりまして」


 剣士レベル1のざこざこステータスが見られてしまうのではないかと少し焦る。先ほどもらった銀色のプレートをリュックから取り出してパッと見せ、すぐにしまった。


 店主が、横の店員と顔を見合わせた。困惑したような表情だ。

 さきほどのいやらしい笑みは消えていた。


「で、では金貨300枚しっかり確認させていただきました。商品はこのままお持ちいただいて結構ですので、出口まで案内させていただきますね」


 用意された鞘に剣を納めると、すぐに出口へと案内された。ありがとうございました、と素っ気ない感謝の言葉とともに、すぐに店の扉を閉められた。明らかに態度が変わったことに違和感を覚え、眉を顰める。

 まさか、あの一瞬で書かれているステータスを見られたのか?

 いや、相当な数の冒険者を相手に商売をしている店主ならあり得る。剣士レベル1と書かれたプレートを見て態度を変えたのだ。


 少し悔しい思いを抱きながらも、俺は再び冒険者ギルドに向かった。クエストを受けよう。剣士としてレベルを上げよう。強くなろう。店主が言ってた高名な剣士に、本当になってみせる。

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