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知りたい気持ち

チャイムに急かされ、教室に戻る俺。


席につくまで、視線は自然と片桐に向く。


正利に言われたからといって、あきらめる訳がなかった。


逆に、彼女の目を探ってしまう。


あからさまなその行為は、片桐も気づいてしまう。


席に座るまで、片桐と目が合う。


じっと見つめ合ってしまっていることに気付き、俺は白々しく微笑んだ。


片桐は無視するように、視線を教科書に戻した。


俺はため息をつきながら、席に着いた。


離れている為…彼女の色がわからなかった。


もっと近づきたい。


俺はそう思った。


もっと近くで、瞳を探りたい。


そう願った。


だから、俺は授業が終わると同時に席を立った。



「太一!」


俺の斜め前に座る美佳も立ち上がり、俺に声をかけたけど、俺の耳には入らなかった。


俺はすぐに、後ろを向き、片桐の席に近づいていった。


次の授業の準備をしていた片桐は、俺がそばに来る前に、席を立った。


そして、逃げるように、席から離れた。


「片桐!」


俺は慌てて、後を追った。


教室を飛び出していく2人を追いかけようとする美佳を、総司が止めた。


「追わない方がいい」


その言葉に足を止めた美佳は、睨むように総司を見た。


「いやものを見るよ」


総司は珍しく…冷たい口調で言い放った。


目を見開き、総司を顔を見つめる美佳は、両手を握り締めると顔をそらし、走り出した。


「美佳…」


教室を出ていく美佳の後ろ姿を、悲しげに見送る総司。


唇を噛み締め、少し考えた後、席を立とうとした。


「さっきの台詞…自分自身にかえってくるぞ」


驚いた総司が後ろを振り向くと、正利が立っていた。


「こっちが、心配してやっても…向こうが、あきらめない限り…どうしょうもない」


正利は、総司の肩に手を置くと、立ち上がるのを阻止した。


「今まで、隠してきた気持ちだろう。そんなことで、おかしくするな」


総司は顔を上げ、正利を見た。


今にも泣きそうだ。


「答えは、もうすぐ出る」


正利は、総司の肩をぎゅっと握りしめた。


「だけど…どっちも友達だ!」


総司の叫びに、正利は頷き、


「だからこそ…中立でいろ!今は関わるな!もし…2人とも傷ついた時…お前がいなければ、関係を直すことはできない」


「で、でも!」


「今、お前が輪に入ったら…」


正利の腕が、震えていた。


「お前達は、今のままじゃいられなくなるぞ」


「で、でも」


納得はしている。だけど、気持ちが止まらない総司に、正利は冷たい言葉を敢えて、浴びせた。


「それに…お前が行っても、何も変わらない!お前が勝手に、傷つくだけだ」


その言葉に、 総司はただ…項垂れた。





「はあ〜」


廊下を曲がり、音楽室等がある特別校舎へと繋ぐ渡り廊下の途中で、片桐はため息をつくと、立ち止まった。


俺も止まった。


「どうして」


振り返ると、片桐はきいた。


「あたしに付きまとうの?」


真っ直ぐに俺の目を射ぬくような片桐の視線に、 俺は思わず…息を飲んだ。


「そ、それは…」


君が好きだから。


とは言わなかった。


俺は、片桐の視線から逃げずに、


「片桐のことが、興味あるから…」


「興味?」


片桐は腕を組んだ。


大人しく、冷静だと思っていた片桐の印象が俺の中で、変わっていく。


だから、俺は一歩前に出た。


「…片桐のことを…知りたい」


「知って…どうするの?」


少し怒ったような雰囲気になった片桐に、俺は戸惑っていた。


明らかに、拒否反応が見える。


だけど、そうだからといって…ここであきらめる訳にはいかない。


俺は知っている。


恋愛とは…ある意味、土足で相手のテリトリーに入ることだと。


最初は誰でも、そうだ。


この壁を越えないと、俺は片桐に近づけない。


例え、その結果傷つこうとも。



「知ったら…」


俺は、片桐にさらに接近した。


だけど、片桐は逃げない。


ただ…俺の目を見ている。


その目に吸い込まれそうになりながらも、俺は言葉を続けた。


「俺は絶対…片桐を、もっと好きになる」


「!?」


俺の口から、好きという言葉を聞いた瞬間、 大きく見開いた片桐の目がやがて…ゆっくりと細められた。


その目に、俺は何も言えなくなった。


初めて見る目だった。


俺を哀れむような…獲物を狙うような…何でもとれそうな異質な目。


だけど、それが気持ち悪いとは感じなかった。


ゾクッとくる程、美しいかった。


唾を飲み込んだ俺に気付き、片桐は笑った。


そして、今度はゆっくりと、俺に近づいてきた。


「あたしを好きになるって…本当に?」


「う、うん…」


なぜだろう…追いかけていたはずの俺が、 逆に追い詰められている。


無意識に、後退ろうとした俺は…動けなくなった。


片桐の両腕が、俺の首に絡まっていたからだ。


吸い付くような肌。


前の彼女とは明らかに、違った。


片桐の顔が、すぐそばにあった。


漂う…心地よい香りは、シャンプーだろうか。


「本当に、あたしを好きになれるの?」


片桐の声が近い。


「も、勿論…」


頷く俺から、少しだけ片桐は目をそらし、


「…みんな…そう言うわ」


小声で呟いた。


「え?」


だから、俺にははっきりとは聞こえなかった。


聞き返したが、片桐は繰り返し言うことはなく、 ただ笑顔を向けた。


そして…。


無言で近付く唇が、俺の思考を止めた。


(上手いな…)


触れる前なのに、俺の片桐の唇に震えていた。


このキスは、初めてではない。


そんなことを考えながら、俺が目をつぶった。


その瞬間。


「太一!」


俺の後ろから、声がした。


その声に、片桐は口付けを止めた。


あと…数ミリで、触れあったのに。


俺が目を開けると、片桐は両腕を外し、 髪をかきあげながら、ゆっくりと歩き出した。


すれ違う時は、片桐は言った。


「この続きがしたいなら…放課後、ここに来て」


前を見て、俺の方は見ずに、背を伸ばして歩いていく片桐。


俺は振り返り、片桐の後ろ姿を見送った。


「な!」


目を見開く美佳の横を、平然と片桐が通り過ぎていく。


先程叫んだのは、美佳だった。


美佳は、片桐には声をかけることができずに、 後ろ姿をじっと見つめる俺に駆け寄った。


「太一!お、お前!何しょうとしてたんだよ」


顔を真っ赤にして怒っている美佳を見ることなく、俺は歩き出した。


「見てたんなら、わかるだろ」


キスを邪魔されたことで、俺は不機嫌になっていた。


そんな俺に気付き、美佳はさらに顔を真っ赤にすると、 横を通り過ぎようとする俺に叫んだ。


「ここは、学校だぜ!」


俺は早足になると、


「わかってる」


苛立ちながらもこたえた。


「ば、馬鹿じゃないのか!お前ら!」


自分から離れていく俺に向かって、美佳は叫んだ。


「頭おかしんじゃないのかよ!」


あまりにもうるさいから、俺は足を止めた。


振り向くと、美佳を指差し、


「おかしいのは、お前の方だろ!変な男言葉を使いやがって!頭もそうだ!」


俺の言葉は、止まらなくなっていた。


だから、言い過ぎてしまった。


「金髪!似合ってねえんだよ!」


そう言い放つと、俺はすぐに前を向き、歩き出した。


俺が言ったことで、どうなるのか…結果を見る気もなかった。


廊下で、崩れ落ちた美佳の泣き声も、 授業を告げるチャイムで聞こえなかった。


ただ…授業が始まっても、その日…美佳は、教室に戻って来なかった。



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