君だけを
「は、は、は」
俺は、全力で走った。
片桐のもとへ。
思った通り、駅ではなく....裏口から帰っていた。
いつもは凛として、後ろ姿からも気品が漂うのに、遠くから確認できた今日の片桐は元気がなく見えた。
「片桐!」
走りながら、大声で叫んだ。
片桐の体が、ビックとなり....ゆっくりとこちらに振り向いた。
俺の姿を確認すると、大きく目が見開いた。
「片桐!」
俺は片桐に飛び込むように、抱きついた。
「片桐...」
ぎゅっと抱き締めた。
「か、神谷くん...」
片桐は慌て、
「どうして...」
俺を押し退けようとするけど、俺は離れない。
「た、橘さんは、どうしたの?」
「もう終わったよ。それに...あいつなら大丈夫」
俺は、片桐の髪の毛に顔を埋めた。
「大丈夫さ」
片桐の匂いを嗅ぐと、安心する。
俺は、片桐をさらに抱き締めると、
「俺は、歌だけじゃなく....すべてに対して、片桐だけを幸せにしたい」
「え」
唐突な俺の言葉に、抵抗していた片桐の動きが止まる。
「どんなに悲しいことがあっても...最後は幸せに変えたい」
俺は片桐の肩を掴むと、ゆっくりと離し...目を見つめた。
「片桐となら...それができる気がする」
俺はじっと片桐の瞳を見つめた。
(あ...)
俺は気付いた。
その瞳の奥にあった影がなくなっていることに...。
ただ...綺麗で、透き通った宝石のような瞳が、あるだけだった。
涙で、濡れているけど...。
「愛してる」
思わず...口から出た。
突然の言葉に、片桐は驚き、
「馬鹿」
とはにかみながら言った。
俺は、堪らず....片桐の唇を塞いだ。
無理矢理で、少し乱暴なキスだった。
だけど...思いに溢れていた。
俺は、唇を離すと、
「本当に、愛してる」
すべてが止まらなくなった。
「本当に、馬鹿ね」
片桐は少し涙ぐみながら笑い、
「うそだなんて、言ってないでしょ」
今度は片桐から、キスをした。
長い長い...キス。
二人の時は止まったかのように、二人は互いを抱き締め合った。
「ねえ」
二人で、手をつないで帰る途中、片桐は足を止めた。
「あたし…。携帯、持とうと思うの。駄目かな?」
自分を見上げる...愛しい瞳に、俺は自然と微笑んだ。
「いいと思うよ!俺は嬉しいし」
「そっか…」
片桐は少し考え込んだ。
悩んでいるように見える片桐の心を後押しする為に、俺は思わず、大胆な言葉を口にした。
「も、持ってくれた方が、あ、会えない時でも…ま、麻衣の声が聞けるしさ」
俺が口にした…麻衣という言葉に、目を丸くする片桐。
いきなりすぎたか。照れてしまう俺の横顔を見つめた後、片桐は前を向くと、少し俯き…微笑んだ。
その笑顔の優しさを、照れてしまった俺は…見逃してしまった。
「だけど…ま、麻衣。どうして…いきなり…」
まだ下の名前を呼ぶことに慣れない俺が理由をきこうとすると、麻衣はじっと軽く睨むように見ていた。
「え?」
その視線に戸惑ってしまう俺の耳元に、真っ赤な顔を近づけると、
「馬鹿」
呟くように言った。
「え?え?え?」
それでも、訳がわからない俺から、麻衣は手を離すと、
「太一の鈍感…」
小声で聞こえないように呟いた後、フンと前を向き、俺に告げた。
「でも、持つのは、来月からよ」
「え!」
俺は少しパニックのまま、
「まだ…二週間もある」
「それくらい我慢しなさい」
麻衣は俺を追い抜くと、
「あたしだって…。我慢するんだから」
また小声で言った。
「二週間か…」
これで、やっと会えない時も声が聞けると思ったのに。
残念そうに肩を落とす俺に、麻衣は振り向くと、
「でも、携帯持ったら…しつこく電話するかもしれないよ」
少し意地悪そうに言った。
だけど、俺は平気な顔をして、
「大丈夫」
と微笑んだ。
そして....
俺は麻衣に手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。
「え」
突然強引に掴まれて、よろける麻衣をしっかりと抱き締めた。
「もう離さない...」
「神谷くん...。でも、あたしは...」
「俺は、お前じゃなくちゃ駄目なんだ。例え、どんな障害があろうと...お前以外は考えられない」
「神谷くん....」
「俺がずっと...すべての悲しみから守ってやる」
俺の心からの言葉に、麻衣はまた涙した。
「ありがとう」
そう言って、俺の胸に顔を埋めた。
「片桐...」
俺の呼びかけに、麻衣は顔を上げた。
俺は、麻衣の瞳の中を覗き込み、
「綺麗だ」
透き通るような色に優しく微笑んだ。
「あ、ありがとう」
麻衣は顔を真っ赤にして、俺をぼおっと見つめた。
もう彼女に影はない。
二人は自然に、またキスをした。
これからの幸せと....永遠の誓いを交わすように。
もう二人を曇らす影はない。
例え...どんな悲しみが訪れても、二人なら最後は、幸せに変えてみせる。
絶対に。
End.
初の純粋な青春恋愛物となりました。
何も考えず、ただ気持ちの赴くままに書きました。
ただ大切に、愛していく…そんな決意のある物語を書きたかった…それだけです。
美佳に関しては、書ききれていないですけど、
今回は麻衣と太一の物語ということで…。
これを気にいった方は、是非…『恋しくて』という映画を見て下さい。
美佳をドラマーにしたのは、それのオマージュです。
映画は三角関係ですけど、素敵に終わります。
本作品とは全然違いますけど(映画はさわやかで、純愛)、
恋愛映画では一番好きです。
では、皆さん!
ありがとうございました。