馬鹿にするな!
中年のガタイのいい男と手を繋いでいるあいつは、髪をかきあげ、
「もしかして〜たっちゃんの彼女?」
にやにやしながら、きいた。
「フン」
隣の男は鼻を鳴らした。
もともと、俺をよくは思っていない。
「こんなところで、会うなんて…。そっか!たっちゃんの学校、この近くだったよね」
あいつは笑顔になり、
「あたしね。結婚したから、この近くに引っ越したんだ」
きいてもいない近況を話し出した。
あんな別れ方をしたのに、屈託のない笑顔で、話しかけてくるあいつが、 俺には信じられなかった。
「ところで、たっちゃん。隣の女の子は、彼女なの?」
こたえなかった俺に、あいつはまたきいた。
「そ、それは....」
まだ片桐とは、つき合ってはいない。
だから、否定しょうとしたけど、言葉がでなかった。
「ねえ..彼女?」
しつこくきいてくるあいつに、仕方なくこたえようとすると、
「そんなわけないだろ」
突然、隣の男が口を開いた。
俺を見下ろしながら、
「こいつは年上が好きなんだろ?まあ...また口説いたとしても、また駄目だろうがな」
勝ち誇ったように言うと、あいつの肩を抱いた。
「な」
俺は目を見張った。
この男からすると、俺からあいつを奪ったということになるのか。
舐められた態度に、俺はキレそうになった。
「おあいにく様」
今にも殴りかかりそうな俺の腕に、片桐の細い腕は絡みついた。
片桐は、俺と男の間に入る形になり、
「あたしは、この人の彼女ですから」
男に向って、微笑んだ。
「ねえ...太一」
片桐は、初めて俺の名前を呼び、
「このおばさん達、知ってるの?」
「え?」
「感じ悪いし…向こう行きましょうよ」
戸惑う俺を、強引にその場から移動させた。
「へえ〜彼女なんだ」
男は離れていく俺に、言った。
「今度は、若いのを捕まえたんだ。まあ〜せいぜい、フラレるなよ」
はははと笑う男に、俺が完全にキレ、襲いかかろうとした。
だけど、片桐がしっかりと俺の腕に掴んでいるから、動けない。
「馬鹿にするな!」
何とか腕を振りほどこうとする前に、片桐が叫んだ。
片桐は、男を睨みつけ、
「この人は、あんたなんかより、いい男よ!」
それだけ言うと、フンと前を向き、俺を引っ張って歩き出した。
「か、片桐!」
あまりの力の強さに、俺はただ引きずられるだけだ。
「何だ..あの女!」
男は唾を吐いた。
「たっちゃん...」
離れていく俺に、あいつが声をかけた。
俺があいつの方を見ると、悲しく微笑んでいた。
「....」
俺は、さよならも言わずに...あいつから離れた。
だけど、だからといって、引きずっている訳ではない。
今は...ただ...。
前を向くと、俺を手を引く片桐がいることが嬉しかった。
公園を出ても、まだ引っ張る片桐は....怒りがおさまらないようで、
「何よ!あの男!馬鹿にして!」
まだ毒づいていた。
そんな片桐がおかしくて、俺は笑った。
「ありがとう。お陰で、すっきりしたよ」
「え?」
俺の冷静な言葉に、片桐は足を止めた。
そして、我に返ると、俺の腕を離し、
「ご、ごめん!あたし...かっとなって」
顔を真っ赤にして、頭を下げた。
「いいよ!スカッとした」
「で、でも...今の人...前の彼女でしょ」
「いいよ。そんなこと」
本当に…今はどうでもいい。
俺は、狼狽えている片桐の腕を掴んだ。
「え」
そして、驚く片桐の目を見つめ、
「絶対、離さない」
と心に誓った。