確かなことと…不確かなことの狭間。
パーティーは、二時間くらいで終わった。
12人もいれば、その中でも、さらに仲が良い者に別れる。
店の前で、解散のハイタッチを、麻衣主導で行った後、バラバラに、みんなは別れた。
僕はぼおっと、藤本と戯れ合いながら、帰っていく麻衣の後ろ姿を見送っていた。
「ああ…まったくよ…」
背伸びをしながら、鈴木が僕の隣に立った。
どういうわけか…僕は鈴木と、仲が良い。
「あいつの空元気は…見てて、辛いよな…」
鈴木はため息をついた。
「空元気?」
意味が、わからなかった。
ぼおっと麻衣を見つめる僕の視線の先に、鈴木は気付いていた。
「片桐に決まってるだろ?もしかして、気付かなかったのか?あいつのお腹…」
「え?」
鈴木の言葉に、僕ははっとした。
思わず鈴木を見た。
「普通…大きくなってるだろ」
鈴木は、僕に背を向けた。
「詳しくはきけなかったけど……流産したらしいぜ」
歩き出した鈴木に、僕はきいた。
「どうして!」
鈴木は足を止め、少し振り返った。
「だから、知らないって…」
少し睨むように僕を見た鈴木は、また背を向け、ゆっくりと歩き出した。
「……女だけで話してのが、少し聞こえたけど…やっぱり、早すぎたんだと。妊娠するのが……さ」
鈴木は、少し小さな声で言うと、手を上げた。
「じゃあな…」
と行きかけて、足を止めた。
「お前の気持ちを知ってるから…言うけど…」
鈴木はまた振り返って、横顔を見せたけど、僕を見ずに言った。
「今の片桐に近づくな。あいつは、俺達の知ってる片桐じゃない」
僕は何も言えない。
「あいつのこと悪く言う訳じゃないけど……お前が傷つくからな」
それだけ言うと、鈴木は帰っていった。
僕は、鈴木を目で見送った後、また麻衣の方に顔を向けた。
でも、もう見えなくなっていた。
僕はもう一度、唇に触ると、唇を噛み締めた。
そして、ポケットから携帯を取り出すと、黒い携帯の表面を見つめた後……携帯を開いた。
そして、躊躇いを断ち切るように、アドレスを探した。
勿論、麻衣のメール番号を。
焦ってしまい、なかなか見つけることができなかった。
数十秒後、アドレスを発見した俺は震えながら、シンプルな言葉だけを打った。
今の精一杯な言葉を。
おやすみ
とだけ。
メールを送信した後、すぐに携帯を閉じ、ズボンのポケットに突っ込み、その場から走りだした。
何かから逃げるように。
家に帰って…風呂に入り、湯槽につかり、膝を抱えて、少し鼓動を落ち着かせると、風呂から出た。
部屋に戻り、ズボンの中から携帯を取出し、開けた。
メールが来ていた。一件だけ。
確認すると、ただの文面だけど、体が震えていた。
(おやすみなさいm(__)m)
ただそれだけの文字。
それでも、それが麻衣からだと思うと、特別な言葉に感じた。
もう僕の気持ちは、止まらなくなってしまった。
そう止まるわけがない。
僕は、毎日…麻衣とメールをするようになった。
メールの内容は、他愛もないものばかりだった。
好きとか…そんな言葉は、使わなかった。
まだ彼女は、結婚していたし…メールで、言うのは、嫌だった。
メールに少し慣れ始めた頃、麻衣から、いつもと違う文面が来た。
明日、会えないかと。
「明日?」
僕はメール内容を見つめながら、少し考え込んだ。
明日は、大晦日だった。
彼女が言った。
(今年中に、離婚する)
そう今年は、明日で終わりだ。