覚悟
「あの子が、好きな人と、最初の口づけをすませるまで、待つんじゃなかったのか? 」
ハドリが呆れたように言った。
「…何も、羽を取り出さなくても…。
あの子もお前を想ってるなら…」
「…俺たちの時間を一緒に生きるには、リサにも覚悟がいる。
親や兄弟、友達や大切な人たちを、みんなみんな、それこそ、何人も、何世代も、見送り続けなくちゃならないんだぞ。
そんな覚悟を、リサにさせるわけにはいかない」
「コウノトリの中には、そういう人たちもいるのは知ってるだろう」
「でも、俺は…」
ハドリは、ふぅっとため息をついた。
「覚悟がないのは、お前のほうだろ。
あの子自身は、どうなんだ?
あの子の覚悟のほどを、お前が決めるのか? 」
ハドリは続けた。
「お前はあの子じゃない。
あの子の覚悟を、お前が決めてやれるわけがない。
何も知らせず、自分だけがすべてを知っているつもりで、あの子のぶんまで判断するのは、ずいぶん身勝手じゃないか」
「…」
「それこそ、これからも続く長い長い時間の中で、お前はずっと思い知ることになる。
気が遠くなるくらいの時がどれほど流れたって、お前の時間はいつまでも、あの子に口づけした時で止まったままだってことをな」
これは何だ?
温かいものがこみ上げてきて、目からあふれて、頬を伝って落ちていく。
一体、いつ以来だろう。
こんな感情を感じるのは。
こんなことさえも今まで忘れて、俺は、生きてきたと言えるのか…。