08
気が付けば、ベッドの上。
おぼろげな記憶をたどってみても、
思い出せるのは断片的なものばかり。
甲斐甲斐しく介護してくれるご婦人に、事の仔細を聞いてみる。
以下は、ご婦人の話しとルスイさんの記憶の断片を繋ぎ合わせた、
最深部での顛末。
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コレイカダンジョン第七層、
地下31階に降りたルスイさんを待っていたのは、
これまでの階層とはケタ違いの難易度、ケタ外れの恐怖。
もちろん事前の情報収集は出来る限りやってはみたが、
数少ない第七層経験者たちから得られた情報はあまりにもバラバラ。
これでは正確な情報入手は無理と、早々に見切りをつけてしまった。
結局いつも通り、自分自身のみを信じて挑んだ第七層。
決して見通しが甘かったわけでは無いが、
自身の鍛錬の結晶である卓越した武芸も、
ソロ冒険者として過酷な冒険を過ごしてきた経験も、
まるで通用しない無力感。
最強ソロ冒険者ルスイさんのコレイカ第七層攻略は、
惨敗に終わる。
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上階へ戻ることも出来ず力尽きようとしていたルスイさんを、
救出したのは、とある集団。
"バーリスク組"
長老と呼ばれるトップを頂点に、
上下関係にはめっぽう厳しい無頼漢たちが寄り集まった、
コレイカでのナワバリ争い真っ最中の任侠組織。
元は凄腕冒険者だったと噂される長老さんは、
冒険者パーティーとしての経験こそが個人も組織も鍛え上げる、を座右の銘に、
組織としてのレベルアップにコレイカダンジョンを精力的に活用。
つまりは、組を挙げてのダンジョン攻略。
腕自慢の無頼漢たちが冒険者チームを組んでマジ攻略。
上下関係の厳しさは、そのまま一糸乱れぬパーティープレイとなり、
幹部で構成された深層攻略パーティーの強さや経験が、
若い衆たちの目標となり手本となる。
長老さんの思惑通り、攻略が進むほどに組の勢力は拡大、
そうして到達した最深部で攻略部隊が拾ってきたのは、
最近噂のソロ冒険者、の道半ばで倒れた瀕死の姿。
ルスイさんの危なっかしい大活躍を前々から気に掛けていた長老さん、
奥さまに介護させながら、いろいろと世話焼き。
冒険者を続けてほしいというひと言以外は、
助けたことの見返りを求めなかった長老さん。
ルスイさんなりの恩返しは、
何でもやりますのでバーリスク組をお手伝いさせてほしい。
固めの杯、なんてのは無かったそうですが、
ソロ最強冒険者だったルスイさんの尽力もあって、
バーリスク組はコレイカを統べる組織と成りました。
そう、正式には組員じゃないそうですよ、ルスイさん。
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それからのルスイさん。
コレイカ最大組織となったバーリスク組の下働きとして、主に雑事を担当。
長老さんは相変わらず客人として扱ってくれているそうだけど、
上下関係に厳しい組の事情への、ルスイさんなりの気遣いかな。
組のダンジョン攻略パーティーからの支援要請は、滅多に無いとか。
ダンジョン最深部でルスイさんに起きた出来事への、
組員さんたちの気遣いかも。
「……すみません」
「俺、何かやらかしましたか」
どうかしましたか、 ルスイさん。
「リルシェさんが……」
って、何で泣いてるんですかっ、リルシェさんっ。
「……私、そういうグッとくるお話しに弱いんですよぅ」
「おふたりには、乙女を涙させた責任、必ず取ってもらいますからねっ」
「「申し訳ございません……」」