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ご用事を済ませたミルルシュモさんは、ふわりとお帰りになられました。
もちろん、俺たち流のおもてなしでしっかりと感謝の気持ちを伝えましたとも。
ルスイさんのめちゃウマお菓子が大層お気に入りになられたご様子。
おかわりご所望の時のおねだりっぷりとか、
ポーカーフェイスなルスイさんをたじたじにさせる乙女仕草とか。
ってか、あれってもしかして、
ルスイさんご本人がお気に入りになっちゃった、なんてことは……
……まさかね。
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俺たちは、すぐに地上に戻ることに。
例のコレイカ第七層に関する注意事項を、
世間さまに周知させる手筈を整えに、ですね。
この件は、コレイカ一帯を取り仕切っているバーリスク組だけじゃなく、
コレイカダンジョン所在地であるニルシェ王国の、
ダンジョン関係の管理責任者さまへと直接報告すべし、だそうで。
ってか、俺なんかで良いのかな、
こんな重要案件通達の使者。
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「コレイカのことは任せてください」
「長老も組のみんなも、一丸となって取り組んでくれてます」
「おふたりには、王都での交渉ごとという厄介な仕事を押し付ける形になってしまって……」
いえいえ、厄介ごとも深層階も全部ひっくるめて突貫まっしぐら、
それがルスイさんから教わった冒険者魂ですから。
まあ俺は相変わらず、何かあったら逃げる気満々ですが。
「大丈夫ですよ、ルスイさん」
「仲間は決して見捨てないのが、我ら3人、名無しのパーティーの心意気、ですよねっ」
「それにウェイトさんは、どんな困難に巻き込まれようとも絶対に逃げないで私を守ってくれますから」
ちょっと、リルシェさん、
あからさまに危険過ぎるフラグ建て禁止っ。
って、そういえば俺たちのパーティーって、
ずっと名無しのままでしたっけ。
まあ、二つ名持ちのおふたりはともかく、
カッコいいパーティーネームなんて、俺なんかには過分もいいとこですよ。
「おや、そういえばルスイさんの二つ名、私は聞いてませんでしたね」
「きっとルスイさんに相応しいイケてる感じな二つ名が」
リルシェさん、ステイっ、
ひと言よろしいですか。
「はい、何でしょう」
リルシェさん、いやノルシェさんが冒険者成り立ての頃の、
あまり世間さまに広められたくはないあれやこれやを、
おもしろおかしく今なお噂されているとしたらどう思います?
「そんなのすっごく嫌に決まってますっ」
「腱切り案件にリーチ一発危機一髪、ですよっ」
そう、人には誰しも触れられたくない秘めたるアレコレがあるのです。
今は沈静化している若気の至りの証し、夢々触れることなかれ、ですよ。
「"武士の情けも三度まで"ですよねっ」
「今は名無しな私たちのパーティーも、解散したくなっちゃうようなアレなチーム名がずっと付いて回る、なんてことにならないよう気を引き締めていきましょう!」
「ここでの冒険の日々で育まれた絆、離れていても心はひとつ」
「これからのご活躍、このコレイカの地から見守らせてもらいます」
「おふたりとも、いつまでもお元気で」