12
第七層への下り階段のある第六層広間で、野営中。
先ほどバーリスク組選抜隊の皆さんから充分な補給物資を受け取って、
第七層突入の準備は万端。
今は、設営した一軒家テントの側で焚き火を囲んで一服中。
相変わらず美味いですね、ルスイさんの手作りお菓子。
「これは奥様の一族に代々受け継がれてきた秘伝のお菓子だそうです」
「リハビリの一環として始めたお菓子作りでしたが、その集大成となる免許皆伝の証し、と」
なるほど、何だか納得出来ちゃうって感じです。
冒険者活動の心得、
充分な休息を取るには満足感を得られる食事を摂るのが一番。
つまり、美味しいお料理作りも冒険者にとって重要なスキルのひとつ。
ルスイさんの豪胆さと繊細さを併せ持ったクレバーな戦闘スタイルなら、
お料理だって上達間違い無し、という奥様お見通し案件だったのでしょうね。
「いえ、俺が奥様から教わったのは、お菓子作りのみです」
「これだけのお味ですし、俺もお料理全般を教わりたかったのですが」
「これ以上教えたら、将来現れる俺の運命の人から叱られちゃいますって……」
むう、まさに慧眼。
お見事です、奥様。
「……」
はて?
どうしました、リルシェさん。
さっきから『Gふなずし』を見つめ続けてますが。
「……何だろう、これ」
「探査モードのダンジョンマップに、突然正体不明の何かが……」
その表情は、要警戒ですか?
「距離はまだ遠いですし速度は徒歩程度、ですが確実に私たちのいるこの場所に向かってきてます」
「『Gふなずし』の探査モードでは、緑の光点は友好的な存在、赤の光点は敵意を持った敵性存在」
「でもこの光点は黄色、つまりは正体不明」
「この速度だと、予想される接触時間は七分後」
「皆さん、最大限の警戒をっ」
了解です、対ボス戦の時のフォーメーションですね。
「ダンジョンでは稀に、規格外の存在が突然現れると聞いたことがあります」
「こんな遠くからでも感じ取れるほどのツワモノの気配」
「明らかに階層に見合わないレベルの存在の乱入でしょう」
「ちょっと楽しみな俺って、不謹慎ですかね」
ルスイさんらしいと思いますよ。
向かってきてるのが何かは知らんけど、今の俺たちなら大丈夫、ですよね。
「皆さん油断大敵、命を大事に、ですよっ」
「「了解!」」
---
あれから五分経過、
野営設備は撤収済み、戦闘態勢は完了。
すでに俺たちの準備は万端。
ですが……ヤツが近付くほどに感じられる、圧倒的なまでの存在感。
何だ、コレ……
「……すみません、さっき大口叩いたばかりなのに、俺、びびってます」
「あの時、第七層で感じた、圧倒的強者と相対した時の無力感」
「いや、これってあんなもんじゃない……」
マジですか、ルスイさんがそこまで……
リルシェさんは大丈夫ですか?
「上手く説明出来ないのですが……戸惑ってます、私」
「これほどの"圧"を放つ未知の存在、最大限の警戒をするべきなのでしょうが……」
離れた状態だとヤバげな"気配"って感じだったけど、
この距離だと確かに、苛烈なまでの"圧"、ですね。
殺意とか敵意じゃなくて、純粋で圧倒的な……
"闘気"
「来ます!」