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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
8/30

たかが山登りくらい楽勝

 「やっと……追いついた……!」


 息を切らしながらリロとハイネライドを路地裏の行き止まりに追い詰める。


 ハカモリが彼らを追いかけ始めてから1時間が過ぎた。


 まさかハカモリが本気になってもここまで時間がかかるとは、二重発動と複合神術を使っても逃げられかけた、信じられない。


 それもこれも全部ハイネライドのせいだ、信じられない事に彼は、空を飛ぶのである。


 ……リギールが当たり前に空を飛ぶから忘れがちだが、飛行はハカモリの師匠ですらできない高等技術、のはずだ。


 流石にリギールほど早くはなかったが、それでも驚異的な速さだった。


 「お前……すげえな、ハイネライドに追いつくとか、強いだろうとは思っちゃいたが、ここまで……」


 ちんちくりんの嘘つき薄ら笑い性悪リロが僅かに息を切らしながら声をかけてくる。


 「この……!ヘラヘラと……!」

 「おいハイネライド、やっぱ駄目だ、まだ怒ってる、逃げよう」


 追跡中厄介だったのはハイネライドだが、どちらがむかつくかで言えば圧倒的にリロだ、彼は追い詰められたフリをしてハカモリを厩の肥溜めに3回も突き落としたのだ。


 「あーひゃっひゃー!ハカモリちゃん、くさーい。アヒャヒャヒャハハハ、ぶあっはははは!!」


 彼のわざとらしい猫撫で声、嘲笑と腹の立つ表情、今思い返してもむかつく。


 すぐに神術で綺麗にしたから問題は無いが、綺麗になったから許せるものでもない。


 「一発、今なら一発だけで許してあげる……」


 一撃で仕留める……!


 「おいあいつやべえよ!目がキマってる!殺される!ハイネライド!早く飛べ、何やってる!?」


 ハイネライドがリロの首をむんずと掴んで持ち上げる、猫みたいだ……いやそんな事を言っている場合ではない。


 飛んだら、こちらも跳ぶ、「身体の活性」はもうすでに掛けてある、いつでも行ける……!


 そう思っているハカモリの予想は外れて、ハイネライドはスタスタとこちらに歩いてくる。


 ……?距離を詰めてくる?なんで?


 「……ハイネライド?早く飛べよ、どうした?」

 「……あなたは私のことを便利な空飛ぶ馬車とでも思っているのですか?」

 「……あ!?ああ!?いや全然思ってねえよマジで、お前と俺は親友じゃん、やめ、足を止めろ、おい!洒落になってねー!」


 リロがジタバタともがき暴れるが、ハイネライドは歯牙にもかけない。


 「やめてー!だれかー!たすけてー!子供に暴力を振るう奴らがいます!可哀想だと思わないのかー!」

 「……こんな路地裏に騎士団はこない、助けを呼んでも無駄」

 「うわ!悪党の台詞だ!どっか行け!邪悪な悪者!近づくな!」


 ……これからちっちゃな女の子を殴るのに、びっくりするぐらい罪悪感が無い。


 まあ罪悪感なんて無いに越したことはないだろう、ハカモリの目の前に差し出されたリロに向かって拳を握り振りかぶる。


 「うわっちょやめうぐええええ!」


 日の届かない路地裏、陰に隠れて幼女に振るわれる暴力。


 「これが……正義の鉄槌……」

 「手伝った私が言うのもなんですが、それで良いんですか?」


***


 「うー、クソ、まだ痛え」

 「それは罰、我慢して」


 ハカモリ達はあの後北門から街を出ていた、ハカモリがリロ達を追い詰めた所は、意外と門に近かったらしい。


 風を受け揺れる草原、道の続く先、奥のある地点を境に木々がひしめく深い森が広がっている。


 そして目的地は森を超えた先、魔力の流れによって常に山の周りを雲で覆っている大火山、通称ドラムリ山。


 険しい岩肌と頻発する暴雨、準備不足のまま立ち入れば死に、どれほど準備を整えても運が悪ければ何もできず逃げ帰る事になる……リロの話では、そのような場所らしい。


 だが今回に限っては天候の心配はない、ハカモリが強化した超級神術「破雲招晴」は、山まで届いている。


 山の中腹、光の皿の下には雲がない、流石に光の皿の上の雲はそのままだが、魔女の住処が山頂にあるのでもなければ問題ないだろう。


 「魔女の家、晴れてる?」

 「……まあ大丈夫だろ、高所に家を建てても不便なだけだ、しっかし今日の光傘(ひかりがさ)広いよな?、教会の術だろ?なんか知らねーか?」


 リロが山を眺めながら言う、まずい、誤魔化さなければ……しかしあの光の皿、そんな呼ばれ方をしていたのか……。


 「確か過去にも、一度か二度同じことがあったはず」

 「ふーん、たまたま運が良かったのかね?」

 「……きっとそう、あんな事ができる人は教会でもそんなにいないけど、昨日リギール神父が街にきたから、リギール神父の仕業という可能性もある」


 リロは少し驚いたような表情でハカモリを見る。


 「リギール神父が?マジか?リギール神父って()()リギール神父だよな?」

 「……リギール神父ってたくさんいるの?」

 「それもそうだな、リギール神父、街にいるのか……マジか、サイン貰えねえかな?」


 どうやらリロはリギールのファンのようだ、興奮した口調で捲し立てる。


 「リギールさんの話ですか?彼が街にいると言いました?」


 ハイネライドも参加してきた。


 「おう、今しがたこいつから聞いた所だ、昨日来てたらしいぞ、今も街にいるんじゃねえか?」

 「おお、それはそれは……この依頼、早めに終わらせれば会えますかね?」

 「んー、どうだろうな?山で魔女の家を見つけられるまである程度時間がかかるだろうが……リギール神父がどれくらい滞在するか、知らないか?」


 ハカモリが依頼を達成するまでなので、依頼にどれだけ時間が掛かろうが問題は無い。


 正直に言ったら面倒くさそうだけれど、人を騙すのはダメとか言ってる自分が一番人を騙しているのは良くない。


 「……私の依頼が終わるまで、ずっと」

 「おお、なら依頼にいくら時間を掛けても問題ないですね」

 「え?は?どういうことだ?いや、まさかこの依頼、リギール神父に頼まれたものなのか!?」


 正確には師匠から……いや、リギールからでも間違いは無いが。


 「……少し違う、元は私の師匠の依頼」

 「なるほど?あの人の依頼にリギール神父が協力してるのか……?逆か?リギール神父の依頼にこいつが……?いや、なぜ本人がやらない……?街に何かあるのか?」


 正解はハカモリへの試練のため忙しいリギールにわざわざハカモリの代わりをさせているのだが、言う必要はないだろう。


 「お前、リギール神父とは知り合いなのか?」

 「……まあ、一応」

 「うおお……!すっげー……!」


 リギールがそれほどの人物だとは到底思えなかったが、もしかしたら彼はすごい人なのかもしれない。


 「リギール神父って何がすごいの?」


 ハカモリがリロ達に聞くとリロは信じられないものを見たような愕然とした表情でこちらを見る。


 「お前、本気か?信じらんねえ、嘘だろ!?リギール神父の何がすごいか!?」

 「……まあ、冒険者ではない人にはあまり知られていないのかもしれません」

 「……冒険者でなくとも教会所属なら知ってるんじゃねえか?」

 「さあ?私は教会について詳しくないので」


 どうやらハカモリは相当世間知らずな質問をしたようだ。


 リロがハカモリに向けて大きくため息を吐く。


 「はあああ……いいか?リギール神父は、教会所属でありながら冒険者ギルドに所属して、その頂点、Sランク冒険者にまで上り詰めた傑物だ」

 「霊級魔術で空を飛び、超級魔術と超級神術を複数同時に展開して制圧する。無敵無敗、ありとあらゆる超人魔物、亜神精霊に恐れられる人類最強に近い人」

 「教会の教徒は名前を持つことを許されない、だから墓守とか神官とか、職業を名前の代わりにする、だがリギール神父は違う、教会に所属しつつ、名前を持つことを許された特例!」


 すごい早口だ、よく分からないが熱意は伝わった。


 「教会が見逃さざるを得ない人物!あの信仰以外どうでも良い教会信徒共が見逃すということは!リギール神父を見逃さなければ彼らの信仰が揺らぐということ!」

 「Sランク冒険者でかつ、教会でも強い発言権を持ち、Sランク冒険者には珍しく人格者で、人望がある。そんな生ける伝説、憧れない訳ないだろ!」


 信仰以外どうでも良いなんて、すごく失礼である、ハカモリは……なんか色々、信仰以外も大事にしてる、世界平和とか。


 「どうだ!分かったか!?リギール神父の凄さが!」


 見た目幼女が大きな身振りで興奮した様子で喋る様子は、たとえ中身が悪辣でも可愛い。


 「会いたい?」

 「へ?ああ、そりゃ会えるものなら……ってまさか!?」


 リギールならハカモリの頼みを聞いてくれるだろう。


 「私がリギール神父に会ってもらえるよう交渉してあげる、この依頼が無事終わったら、だけど」

 「!?え、ええ?そんな、あ、会えるのか?」

 「私も良いですか?」


 愚問である。


 「私は、嘘が嫌い」

 「!……おいおい、こうしちゃいられねえ、急ぐぞ!こんな依頼さっさと終わらせる!」

 「それには同意、早く行こう」

 「え、ちょっと、私もリギールさんに会いたいんですが?良いですよね?」


 ハカモリとリロが駆けていくのを、ハイネライドが追った。


 ***


 彼女達の行く先はドラムリ山、竜達の山、魔女の住む山、年中雲に覆われて、嵐を纏い来る者を拒む、人類未到の地の一つ。


 以前ある国王がドラムリ山の山頂に存在するといわれている、食べれば不老不死になる葡萄を求めたことがある。


 天候を見定め、装備を整え、Aランク冒険者二十人以上で山頂を目指し、その結果、ただ一人を除いて全滅した。


 彼女達はその事を、誰一人として知らない……。

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