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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
31/32

再び、冒険者ギルドにて

 教会での報告は終わった。ボコボコに負けて意気消沈したセンパイは今までにないくらいおとなしかった。


 こんな事なら次からもリロに着いてきてもらいたい所である。


 教会での報告を終えたハカモリは、今度は冒険者ギルドに来ていた。こっちでも依頼の達成報告をする必要があるからだ。


 だったの……だが。


 「リロ、本当にここで合ってる?」

 「おう、ハカモリ、合ってるぜ、ここが冒険者ギルドで間違いない」


 リロが自信満々に答える、しかしハカモリには信じられなかった。


 冒険者ギルドは消滅していた。


 元々二階建ての建物があったはずの場所には、瓦礫が積まれただけの空き地しかない。


 不思議なことに両隣の建物には一切被害が無い、冒険者ギルドだけが切り取られたように消えていた。


 「お、いたいた!おーいロウド!元気か?」

 「……君か、リロ」


 空き地の中心、そこに不自然な程綺麗な机を置き、ロウドと呼ばれた男は書類に何やら書き込んでいた。


 ……何か見覚えがあると思ったら、ハカモリが依頼の受注をした時に話したギルド職員だ。ここにいるということは、やはりここは冒険者ギルドで間違いないらしい。


 「……君はハカモリだな?依頼の報告か?」

 「そう、それより周りの……その、建物、何があったの?」

 「クソ冒険者共に決まってるだろ?あのクズ共は冒険者ギルド以外に迷惑を掛けるな、という言葉を冒険者ギルドになら何をしても良いという意味だと思っているんだ」


 ええ……?


 「少し前のスタンピード、あれで興奮した冒険者共が暴れ回ったんだ、冒険者ギルドは粉々に、最近入った職員が三人いたが、退職した、今日な。俺はここで一人寂しく仕事中だ」

 「話なげーよ、ロウド、愚痴なら後にしてくれ」

 「黙れ、殺すぞ。冒険者なら誰でも良い気分なんだ」


 ハイネライドがピクリと反応した。


 「イカレエルフは除く、と付け加えた方が良いか?あまり俺の気分を害するなよ?」

 「そういえば貴方とはやり合った事がありませんでしたね、強いんですか?」

 「やめろ、ハイネライド、こいつ戦闘はからっきしだぞ」


 ハイネライドが残念そうに溜め息を吐く。


 「戦闘能力が無くとも君を社会的に抹殺する事ぐらい造作も無いぞ?」

 「社会的に抹殺されようが私は死にませんよ?」


 ハイネライドとロウドが火花を散らす、まあ確かに、ハイネライドはあんまり社会に馴染めてなさそうである。最初から死んでるようなものを殺そうとしても無理だろう。


 「なんでもいいよ、それよりさっさと報告をさせろ、つーか建物早く直せよ」


 思わずギョッとしてリロを見る。しかし当のリロはなんでもないかのように平然としている。


 「断る、今やってもまた壊されるだけだからな」


 その返答を見て、再び衝撃を受ける。


 冒険者ギルドの建築材料は特別な物だ、床や壁は素の硬さもさることながら、魔術や神術、錬金術を多数に重ねられ、尋常ではない硬さを誇っている、と師匠に聞いた。実際、ハカモリ自身もその硬さを体感した、ちょっとやそっとでは作れるわけが無い。


 「……直せるの?」

 「はあ?直せるに決まってる」

 「エンチャントは?出来るの?」

 「当然出来る、なんだ?疑ってるのか?」


 ……疑ってるとは言えない。それが失礼だという事は流石のハカモリも分かる。


 黙っていると、ロウドが手をかざす。かざした先の地面から石柱が隆起し、先端でレンガを形作る。


 ロウドがそれを手で掴み、まるで果物でもとる様に石柱からもぎ取った。


 「疑われるのも癪だ、手間が掛かるから、これで証拠としてくれ」

 「なんかお前優しくね?俺と態度が違うんだが」


 リロを無視してロウドがレンガを渡してくる、少し触っただけで分かった、ハカモリではこのレンガを壊すのに少し苦労するだろう。


 魔術で生み出したのだろうが驚きだ、構成速度も密度も最上位、戦闘が出来ないというのは恐らく嘘だ、こんな事ができる人間に不可能な事など殆どない。


 ……でもリロが騙されるだろうか?リロは性格悪いし、誰かに騙されるというのが想像できない。


 「さて、そろそろか」

 「ああ?ロウド、何のことだ?」


 ロウドが手をかざす、隅の方に置いてある瓦礫がたちまち姿を変えた。


 瓦礫から犬、犬から椅子、椅子から人に。


 聖級魔術だ、明らかに人権を無視した違法魔術。常識を捻じ曲げ完膚なきまでに破壊する変身の禁術。


 瓦礫から変化した人間は教会の神官だった、四つん這いになって嘔吐している。


 「うげええ……おえっぇ……」

 「リロ、逃げるか?逃げた時点で君達はお尋ね者だが」

 「…………逃げる?馬鹿言うなよロウド、逃げる意味なんてないだろ?俺はなーんにも悪いことしていないんだからな」

 「気づいているな?後二人だ。三人なら幻術で誤魔化せると思ったんだろうが……」


 後二人?今瓦礫から戻った神官とロウドと、合計四人?


 「うげぇ……あの、ロウドさん?もうちょい優しく戻せませんでしたか?」

 「黙れ、そこまでは約束していない」


 ……リロの幻術は人数に制限がある、考えてみれば当たり前だ、強力無比な力は必ず何かを代償にしている。完全無欠はありえない。


 ロウドはハカモリの依頼を知っている、()()()()()()()()()()()()()の依頼を受けたと知っている。


 「君の幻術は知っているぞ、リロ。最大三人、根拠は無いが、そうだろう?」

 「ハカモリ、ヤバイことになったがお前は黙っとけよ」

 「……そうか、四人を前にしても同じ事が言えるかな?」


 話が噛み合わない、恐らくリロの幻術だろう。


 「……リロ・ハーネス、取引をしよう」

 「取引だぁ?何と何をだよ、俺は特に欲しい物ねーぞ」

 「神官共を殺してやる。それで君の……いや、ハカモリの秘密は守られる」


 目を見開いて驚く。命が軽すぎる、穏当に帰すとかではないのか……。


 側で吐いていた神官は不自然なくらい反応がないが、恐らく耳が聞こえていないのだろう、ロウドは魔術師だ、一切のモーションも無く五感を奪う事なんて造作もない。


 それにしても、ロウドの口ぶりはまるでハカモリが「天上の槍」を放ったと確信しているかのようだ、まだ決定的なボロは出していないはずなのに……。


 「隣の酒場で飲んだくれている冒険者共を皆殺しにしろ、今月だけで俺はギルドを三回も建て直した。あのクズ共は人間じゃない、理性なき獣、人を害す事しかない害獣だ」

 「……あのなぁ」

 「今更何人殺そうと君の手はそれ以上汚れないだろう?依頼を受けてくれたらハカモリには一切関わらないと約束する。契約をしてもいい」


 目がマジだ、本気で言っているみたいだが、暴力的すぎる……。


 それに短絡的だ、リロなら冒険者を殺せるというのはまあいいとして、それならロウド本人が殺される心配をしなければいけないはずだ……あるいは、自分が殺される事も考えて、対策があるのかもしれないが。


 「リロ・ハーネス、これは脅迫だ、例え俺に幻術を掛けようが殺そうが無駄だ、秘密は暴かれる。それが嫌なら俺に従え」


 ロウドが目を細めてリロを睨む、だが、対するリロは余裕の表情だ。


 「暴かれるも何も、俺に隠すべき秘密なんて無い」

 「……正気か?」

 「ああ、正気だぜ?」


 ロウドが僅かに顔を顰める。それと同時に、冒険者ギルド跡地に二人の神官が踏み入ってきた。


 教会の新人神官二人だ、ハカモリも一度挨拶をされた事がある。二人は僅かに怯えながら、見知った顔を見つけて安堵している。


 「ロウドさん!という事は、ここはやはり冒険者ギルド……ですよね?あ、あの、これは一体何が……」

 「悪いが質問に答えている暇は無い、黙って話を聞いていてくれ」

 「え……?はい……分かりました」


 釈然としない様子の神官達がその場に立っている。


 「さて、リロ、最後のチャンスだ、取引は受けないのか?」

 「当たり前だろ?」

 「……そうか、では聞こう、君は「天上の槍」を放った人物を知っているか?」

 「知らないな」


 これは嘘じゃない、ハカモリ自身もそう思っているし、神官が……というかハカモリが嘘をつけないのをリロは知っている。


 「次、「天上の槍」の発動に関与した人物に心当たりはあるか?」

 「俺は実は肉が好きだ、牛が特に美味い」


 全く関係のない真実。しかしそれを聞いているはずのロウド達はピクリとも反応しない。


 幻術……!同時に四人も!?


 だがリロは目を細めて集中している、どうやらやはり四人同時に幻術をかける事は難しいらしい。


 「次、この人物が居なければ「天上の槍」は発動しないだろうという人間に心当たりは?」

 「リトは可愛い、やっぱし子供は宝だな」

 「次、ハカモリ、君に質問だ、君は自身が「天上の槍」に関与していないと断言できるか?」

 「ハカモリ、空の色は青いか?」


 ……空の色は青だろうし、ロウドの質問に答える義務はない、これは嘘にはならない。


 「青い、空は今日も青い」

 「……了解した、以上で終わりだ」


 意外とあっさり引き下がった……?否、自分が幻術を見せられている可能性を考えれば、今この場で確認をしても無意味という事だろう。


 恐らくここから数日かけて自分の認識と、話を聞いていた神官の認識を確認して、整合性を確かめるのだろう。


 「……ロウドさん、一つ報告がある」

 「依頼の報告か?」

 「そう、依頼は成功した、魔女に手紙を渡せた」

 「……了解した、こちらで処理しておこう」


 よし、これで報告は終わりだ、ようやく普通の墓守に戻れる。


 いつまでも冒険者ギルドにいる必要はないので、瓦礫だらけの冒険者ギルドを離れる。


 「リロ」

 「ああ、終わりだな、お疲れ」

 「うん」


 リロは頼りになった、今回の依頼はリロが居なければ成功しなかっただろう。別にリロが居なくても死にはしなかっただろうが、「食の使い」の成り立ちを知れなかったら「天上の槍」も使えなかったし、そうなればギロストラトスは死んでいただろう。


 ギロストラトスも……強かった。とにかく強かった。


 「それじゃ、また今度、一緒に仕事が出来たら」

 「おうよ、元気でな」

 「はて?リギールさんに合わせてくれる約束はどうなったのです?」


 ……そういえばそんなような事を言っていた気がする。


 まあでも会わせる約束なんてしていない、ただハカモリはリギールに会わせる事が出来ると言っただけである。


 「ハイネライドはこれから忙しいからな、ハカモリ、こいつにリギールさんを会わせる必要はないぜ」

 「はて?何故リロが私の予定を決めているので?」

 「黙れハイネライド、手伝ってほしい事があんだよ、強制参加だ、拒否権は無い」


 リロがハイネライドの腕を引き歩く、ハイネライドはブツクサと文句を言いながらも特に抵抗する様子は無い。


 「それじゃあな!ハカモリ!気ぃ付けろよ!」

 「うん、ばいばい、リロ」


 後ろを振り返らず手を振ったリロは、直後に一瞬で消え去り、もうどこにも姿は見えなかった。

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