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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
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門番のバーン・モン

 ハカモリは街までの道を一人で歩いていた。


 リギールはハカモリが仕事を受けると言った後、仕事の簡単な案内をしてからさっさと街の方向に飛んでいってしまった。


 そのまま夜の墓守業務のため眠るのだろうか?それとも仕事か……。時々忘れそうになるが、リギールは高位の司祭であり、教会でも有数の実力者だ、本来こんな田舎で墓守などしている暇はないのだ。


 飛び去る前にリギールがいっていたことをまとめると、今回の依頼は手紙の配達、協力者は冒険者二人、配達先や郵便物は冒険者ギルドが管理しているらしい。


 依頼を受けるまで仕事の説明をしないと言っておきながら、受けると言っても簡単な案内しかしてこないリギールに少しの怒りを覚えるが、それはいい。


 大事なのは冒険者……今回の依頼の協力者である。

 ハカモリは今回の仕事が碌でも無いと思っている、確信している、だが……冒険者は、よっぽどの初心者や無能でない限りは、最低限危機回避能力を持っている、持ってないやつは死ぬからだ。


 そんな冒険者がハカモリの仕事を手伝うのだ、それはハカモリの仕事を安全だと考えたから。


 朗報である、自然と笑みが溢れる。


 まあ協力者が初心者や無能であれば破綻する理論だが、師匠はあまり人に迷惑をかけたがらない、ハカモリが死にかける依頼など受けたら、弱者は確実に死ぬのだ、流石にそんなことはしないだろう。


 ……なぜその優しさをハカモリに向けてくれないのだろうか……。


 そんなことを考えながらちょっぴり落ち込んだりしていたら、いつのまにか街の北門に着いていた。


 街に入る前にフード付きのマントを脱ぐ、このマントは防刃、防塵、不燃、耐水、対魔……他にも多数のエンチャントが施されている、唯一の弱点は色である。


 真っ黒なのでマントをつけてフードを被ると外見は黒いてるてる坊主さながらで、不審者にしか見えないのだ。


 7歳の誕生日に師匠からプレゼントされたものだ、プレゼントされた直後はずっと着ていたが、着ていると街中で会う兵士全員に呼び止められるのだ。


 ハカモリは反省ができる女、マントを小脇に抱えて街門を通る。


 「そこのお嬢ちゃん、ちょっと待ってくれ」


 ……ハカモリは反省ができる女だ、マントを脱いだハカモリは、どこにでもいる一般シスターにしか見えないはずである。


 「なに?」

 「いや、子供がこんな時間に来るのは珍しいからな、お母さんはどこにいるんだい?」


 声をかけてきたのは、まだ若い兵士だった。


 ハカモリに両親はいない、物心ついた時から師匠と暮らしていた、一度だけ師匠をお母さんと呼んだ事があったが、ものすごく悲しそうな顔をしていた。

 それ以来師匠の呼び方は師匠だ、あの師匠の反応からして、おそらくハカモリの両親はもう死んでいるのだろう。


 「いない」

 「いない?あー、じゃあ、お父さんは?」

 「いない」

 「……なるほど、わかった、少しだけ、ここで待ってて」


 なんだか誤解を受けているような気がする……。

 だが、ハカモリが何か言う前に、兵士は門の詰め所に引っ込んでしまった。


 しばらく待っていると、奥からさっきの兵士と、少し年嵩の……おそらく兵士よりも偉い男が出てきた。


 兜で顔が見えないが、声が聞いたことがあるような気がする。


 「隊長、あの子ですよ、あの子、親がいないってんで、多分、教会の子が森ではぐれて、今日やっと帰ってきたとかじゃないかと思うんですがね」

 「分かった、後は俺が聞く、お前は戻れ。」


 そして男……隊長と呼ばれた男がハカモリに声をかける。


 「こんにちは、君に少し聞きたいことが……?」

 「……?どうしたの?」

 「ああ、ハカモリの嬢ちゃんか、こんな時間に珍しいな」

 「……誰?」

 「あ?誰って……ああそうか」


 男は気づいて兜を脱ぐ、顔を見てハカモリも思い出した。


 「早朝から昼にかけて、仕事中は兜を被ってんだよ」

 「確か……モン・バーンさん?」

 「ちげえよ、逆だ逆、バーン・モン」

 「……冗談」


 冗談みたいな名前である、もしやハカモリに冗談を言っているのか?

 だがバーンはハカモリの言葉に含まれる意味を理解できなかったようだ。


 「冗談か、ハカモリの嬢ちゃんも冗談を言えるようになったんだな」


 バーンはどこか感慨深そうに言った。


 「まあいい、それで今日はどうしたんだ?いつもなら墓場近くの家で寝て、夕方に街に来るだろ?」

 「今日は仕事」

 「仕事?墓守のってんじゃねぇよな、とすると……」


 バーンは少し考えると、心配そうな表情になる。


 「もしかして、いつもの師匠からのお願い、か?」

 「そう」


 言葉少なに同意するハカモリに、バーンが気遣わしげに言う。


 「……なあ、別にそのお願いってのは強制じゃねえんだろ、毎回毎回危ない目に遭ってるしよ、今回ぐらい断ってもいいんじゃねえか?なんだったら、俺からもお前の師匠に言っとくからよ」


 や、優しい!普段から理不尽、横暴、傲慢の三拍子揃った行動しかとらない師匠とは大違いである。


 そこでハカモリは間違いに気づく。


 「ごめん、お願いは間違い、今回のは仕事」

 「ん?まあお願いでも仕事でも断ればいいってのは変わんねぇだろ?」

 「今回の仕事は拒否権がない」

 「!?」

 「それに仕事内容の説明もされなかった」

 「それは……」

 「そう、おそらくかなりの高難易度、仕事の説明をしたら私が逃げ出すくらいには」


 バーンは言葉を失っている。


 「……私はそろそろ行く、お仕事お疲れ様」

 「あ、ああ……なんだ、その、死ぬなよ」


 ハカモリは思わず笑う、当然だ。


 「死ぬ気はない、必ず五体満足で帰ってくる」


 ……若干フラグっぽくなったが、ハカモリは冒険者ギルドに向かった。

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