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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
27/30

お仕事完了

 体にのしかかる酷く重い感覚と、微かな頭痛を堪えながら、ハカモリは目を覚ます。


 「目は覚めたか?」

 「リロ……?」


 数度瞬きをし、起きあがろうとして、腕が動かないことに気づいた。


 その瞬間思い出す、意識を失う前に見た景色を、リロに殺され掛けたあの瞬間を。


 「万象の治癒」を複数同時に掛け腕を治す、続けて「肉体の堅牢」を発動しながら起き上がりリロから距離を取る。


 「おっと、元気そうだな、良かったぜ、なんか体に違和感とかは無いか?後遺症なんて残ってねえよな?」

 「……リロ、私を殺すつもりじゃないの?」

 「ない、さっきまではあったけどな、もうねえよ」


 ハカモリが気絶している間にマトモな格好に着替えたらしいリロは、何も無かったかの様にそう言った。


 その言葉に嘘はない、どうやら本当にそう思っている様だ。


 ……否、これは幻術?リロの幻覚は現実と一切見分けが付かない、見抜く手段はない。


 「……幻術?」

 「違う、つっても証明は出来ねえな、幻術の目的がお前を殺すことなら、今生きてるのがこれが現実である証明だが」

 「……」

 「俺がお前を殺す以外の目的を持ってるかもってのはすまんが否定の仕様が無い、信用してくれとしか言えねえな」


 ……。


 「分かった、信じる」

 「……あー」


 リロが顔を覆い呻き声を上げる。


 「……ハカモリ、言っちゃ悪いがそれは頭悪いぞ、テメーは少しは人を疑えよ、最低でもなんであんなことしたか聞け」

 「いい、大丈夫、リロは信頼できる」

 「……チッ、くそ、お前は……お前のそういうところが俺は……」


 そもそも「天上の槍」は完全な術だ、もしリロがこれからハカモリにとって都合の悪いことをするのなら、リロは消されていただろう、おそらく。


 今回はリロとハイネライドは対象外になる様念じていたからもしかしたら違うかもしれないが、まあ別にその時はその時である。


 「そういえば、あの槍を放ったのは私じゃないけど、リロはそれを信じてる?」

 「……」


 もしリロがハカモリを疑っているのなら……つまり「天上の槍」の使い手がハカモリだとバレているのなら、ハカモリはそれに対処しなければいけない。


 「天上の槍」はあと四度発動できる、出来ればしたくはないが……。


 「……まあ、及第点か」

 「リロ?」

 「あの槍を放ったのはお前じゃない、その点については信じてるぜ」


 ……なら、いいか。


 「終わりました?」

 「ハイネライド……さん」

 「全くリロのわがままにも困ったものです、次からはもっと早くに終わらせてほしいですね」


 ハイネライドはいつも通りだ、安心感すらある。


 「……依頼、どうする?私はこのままここで待つつもり」

 「魔女への手紙だろ?問題ねえよ、そろそろだ、ハイネライド、手を繋げ」


 リロが何処からか取り出した手紙を投げ渡してきた、慌てて受け取る。


 リロがハイネライドと手を繋ぎ、もう片方の手をハカモリに差し出していた。


 「ほれ、お前もだ」

 「……?うん?」


 意味も分からず手を繋ぐ、しばらくの間そうしていると、茂みの向こうから話し声が聞こえてきた。


 「……イブ、お前はほんっと可愛げがねえな、家はもしかしたら無事かもだろ?」

 「ありえません、マスター、この状況で家が塵以上の物質を保っている可能性は3%、家が無事な可能性は0.0000……とにかく低いです、あきらめましょう」

 「見なくちゃわかんねーだろ!もしかしたら、あるいは、ひょっとしてが俺の人生の九割だ、確認だけしとこーぜ」


 話声の主は一組の男女だった。


 それにしても家……ドラムリ山に家を建てている人間など魔女か異教徒だ、そしてあれは異教徒ではない、おそらく魔女だろう。


 ……魔女、というからには女性だろうが、女性の方は男の方を「マスター」と呼んでいる……魔女より上の人間なのだろうか?それとも裏をかいて男の方が魔女?イブと呼ばれているが、愛称の可能性もある。


 リロが声を張り上げる。


 「そこのお二人さん、ちょっといいか?」

 「マスター、下がってください、そこの男、止まってください、動けば命の保障は出来ません」

 「おっと、そりゃ勘弁だ、ここでいいか?もっと下がれるが」

 「……そうですね、もう二歩、後ろにお願いします」


 ……男?それにリロは最初から最後まで一歩も動いていない、話が噛み合わない。


 と思ったら男女の目が両者とも虚ろだった、恐らくリロの幻術だろう。


 ……対処法が無さすぎる、もしリロと戦うことになったらハカモリはどうすればいいだろうか?リロの幻術は予備動作も予兆も無い、回避のしようが無さそうに思える。


 そんな事を考えていると男が声を上げる。


 「……お前は……違う!リロ・ハーネスだな!?イブ!飛べ!すぐに離脱しろッ!!」

 「……マスター?ご指示を、あの男、あんな事を言っていますが……?」

 「……!幻術!クソッタレ!やっぱリロじゃねーか!」

 「ハカモリ、ハイネライド、動くなよ?」


 男がポケットから何かを取り出してばら撒く、四角いカードの様なそれが地面につくより先に、リロは駆けていた。


 「魔導人形!きどーーッごべ!」

 「……どうやって見破った?」


 リロが男を地面に倒して馬乗りになる。


 「……ぐ、リロ!リロ!お前、あれだ!金返せ!この盗人が!金貨五十枚!返しやがれ!」

 「わりーなー、記憶にねーなー」

 「こんの……!魔導人形!起動しろ!俺を助けろ!」


 男の言葉を合図に、ばら撒かれた四角いカードが展開される、体積を増大させていき、パタパタと開き切ったソレは、魔導人形の言葉の通り見た目の整った人形だった。


 精巧に作り込まれた人形は全てが女性型だ、どれも魅了される様な美しさを持つがしかし、人間味の無い表情、統一された肉体を見れば人ではない作り物である事は一目で分かる。


 そして人形が全て立ち上がり、リロに襲い……かかる事は無かった、人形は起動直後からずっと停止し続けている、まるで命令を待つかの様に。


 「……リロ!お前、俺の声を消したな!?」

 「ついでに姿もな、お互い対策は考えてるってこった」

 「……離せ、リロ、黙っててやる、あれだろお前、山を消したのはお前の仲間だろ?」

 「テメーは信用を持ってねーぜ?命を買うには足りねーな、死にゃ口を開けねー、九割方な」

 「……もしかしてまじかお前、「天上の槍」を……なんで見逃したんだ?いつものお前なら……」

 「へッ、黙れよギロス、あんま口を開くと死ぬぜ?」


 ……リロは何をしたいのだろう?ハカモリは何をすれば……ギロス、と呼ぶからにはギロストラトス……魔女(女じゃないが)は彼なのだろう、だとすれば手紙を渡さなくてはいけないが……。


 リロがこちらに手を向けた、直後に耳元で声が聞こえる。


 「ハカモリ、こいつがギロストラトス、魔女を作ったせいでそっちの方が有名になった馬鹿な男だ、このまま手紙を渡す、ゆっくりとこっちにこい」


 リロの口は動いていないのに声だけが聞こえる、これも幻術の一種だろうか?


 それにしてもリロの話ではこの男は魔女ではないのか……ハカモリの仕事は魔女ギロストラトスへの手紙の配達、この場合は……。


 ……まあ名前がギロストラトスならセーフだろう、多分。


 「……了解」


 リロの言う通りゆっくりと歩いていく、その間も人形たちは静止していた。


 リロの側に近づいた、リロが無言で手を差し出してくる。


 ……手紙を渡せ、ということだろうか?出来ればハカモリが直で渡したかったが、別にいい、そのまま手紙を渡した。


 「ギロス、なあおい、オメーに手紙だぜ」

 「んあ?手紙だぁ?誰からだよ」


 胡乱な表情のギロストラトスが手紙を受け取る、その瞬間リロが空間からナイフを取り出しギロストラトスの首を掻き切った。


 「ぁ……?」

 「リロ!?何やって」

 「黙れハカモリ、手紙はすでに渡した、お前の依頼は終わってる」


 ……!?な、なんでそんな事を、師匠は手紙を届けて欲しいらしい、つまり、伝えたいことがあるはず、そんな事は望んでない。


 仕事の完了、それをもってハカモリのレベルの制限も3に戻っている、さっきまでの命の危険も無い、治療は無理だ、首だけの状態から戻すには見える形で神術を使用しなければならない。


 「空間」と「生存」の複合神術「生存空間」を発動する。


 「無駄だぜ、ハカモリ」


 リロが手で空間を払う、それだけで神術は崩壊した、魔術払いだ、まずい。


 「マスター!?」

 「……チッ、このまま平穏には終われねーよな、そりゃ」


 リロの幻術に囚われていた魔導人形……イブと呼ばれていたソレがこちらを認識している、死にかけのギロストラトスを見て、表情を怒りに染めている。


 「今すぐに!そのお方から離れろッ!!」

 「知らねーよ主人も守れねーブリキが、その辺で朽ちてろ」


 ハカモリはギロストラトスに直接触れて「生存」を発動させた。


 その直後、イブがかかと、肩、背中から炎を噴出して加速、高速でリロに向けて移動する。


 リロが一瞬で空間から弓を取り出し矢を放つ、だがイブは意に介さない……否、意に介せない。


 リロの矢を顔面に喰らいイブがバランスを崩す、速度はそのままにめちゃくちゃに転がりながらこちらに向かってくる。


 リロがハカモリの腕を握った、そう気づいた時にはすでにハカモリは投げられていた、イブと正面から衝突して勢いを殺す。


 「ぐえ」

 「ぐ、くぅう、まず、マスター」

 「遅すぎたな、俺の幻術に最初からかかってなけりゃ、もっといい勝負が出来たろうぜ」


 リロがナイフを構える。


 ギロストラトスに手を伸ばす、複合神術「生存空間」を改良した神術を発動した。


 リロがナイフでギロストラトスの頭を滅多刺しにする、続けて手でギロストラトス周辺を払う。


 魔術払いだ、だが改良した神術には魔術払いに対する抵抗がある、神力を込めればいくらでも耐えられる。


 「あ、あああぁぁぁ…………ま、マスター、マスタあああああぁぁぁ!!!!」

 「……ハカモリ、コレやめろ、死なねーだろ」

 「やめない、リロ、なんで殺すの」


 リロが当然と言った顔でため息を吐く。


 「お前はよぉ、「天上の槍」を放ったかもしれないと思われる事がどれだけやべーか知らねーみてーだな?」

 「……あれを撃ったのは私じゃない、教会の審判を受けてもいい、別に疑われても問題ない」

 「嫌疑だけでも国から追われるぜ?拘束されて、次「天上の槍」が放たれるまでずっとな、最悪一生檻の中だ、俺はそんなんゴメンだね」

 「じゃあ黙っててもらう様お願いする」

 「無理だ、人形の魔女……この馬鹿に契約は無駄だ、人形に代理で行動させられる」


 ……それは困る、実際のところハカモリは「天上の槍」を使える、詭弁を用いて誤魔化す事はできても、追求され続ければいつかバレる。


 「……でも、命は」

 「コイツは人形を作らないくらいなら死んだ方がマシって本気で考える様な奴だ、無駄に話し合って無駄に時間を食うよりさっさと殺した方がいい」


 判断が……判断が早すぎる……。


 ハカモリは人の命を大切にするタイプのシスター、出来れば死なせたくはない。


 ……ハカモリの隣で絶望している人形……イブと合わせて二体一、それでもリロには勝てる気がしない。


 そもそもリロが逃げ出したら神術の範囲外となりギロストラトスは死ぬ、説得する以外の方法は……無い。


 「……ハイネライドさんも何か言って」

 「ふむ、私ですか?正直どうでも良いのですが」

 「ハイネライド、俺の邪魔したら殺すぞ」

 「では黙っておきます、死にたくはないので」


 役に立たない!


 「……ですが、一つ助言を、リロ……手紙を見た方がいいでしょう」

 「手紙はギロストラトス宛だ、俺には関係ねえだろ」

 「あの人は未来が見えている……どうせこの状況も知っていますよ、であれば手紙に何かあるかと」


 リロが不服そうな顔で血濡れの手紙を手に取る。


 数秒眺めていたが、突然顔を顰める。


 「……ケッ、アレもコレも予想通りってか、ムカつくぜ」

 「いつもの事ですよ、リロ、治療は出来ますか?」

 「出来る」


 何を書いていたかは知らないが、リロは意見を翻した、ギロストラトスに手を当て治癒魔術を使用した。


 数秒もしないうちにギロストラトスは息を吹き返した、気を失ってはいるが、少なくともどこも怪我をしていない様に見える。


 ……あるいは、そういう幻覚か。


 「……起きろ、クズ、おい、無理やり起こすぞ」

 「ぁあ……?何、が?りろ……?」


 意識の朦朧としているギロストラトスの頭に、リロが手を置く。


 「オラ起きろ」

 「うぎ、がああああぁぁぁあああ!!!」


 ギロストラトスが体を跳ねさせてリロから弾かれた様に離れる、元気そうだ。


 「ハッ、ハア、てめッ、ふざけ、はあッ、死、死ぬ、もっかい死ぬ!イブー!イブー!助けてくれ!」

 「あぁ、マスター……マスターの声が、聞こえる……ごめんなさい、マスター、私が……私が……」

 「リロハーネスッ!殺すぞボケッ!もっと優しく起こせ!イブの幻術も解け!」

 「黙れ変態、お前に反論する権利は無え、それよりコレを読め」


 リロが手紙を投げ渡す、それをキャッチしたギロストラトスが不満そうな顔で手紙を見る。


 暫くそうしていると、突如顔色を変えた、顔を真っ青にしながら、ガタガタと震え出す。


 「り、りろ?こ、これ、こここれは……」

 「……多分真実だよ、あの人からだ」

 「……最悪だ、クソ、五年ぶりに帰ってきた所だってのに!ああクソッ!最悪だ!!」


 ギロストラトスの手から炎が生まれ、持っていた手紙が焼けていった、それを微塵も気にせずギロストラトスが地団駄を踏む。


 「家は消える!つーか山も消える!殺されかける!今日は厄日だ!ああクソ、おまけに強制招集だ、俺の人形を兵器として使うつもりだなッ!あのババア!!死ね!いっぺん死ね!」

 「……その手紙が真実なら、俺もお前と遊んでる場合じゃ無え、鼻垂れのガキのお守りもやってる暇はもっと無え」

 「それ私のこと?」

 「可及的速やかにあの腐れ女のとこに行かなきゃならん」

 「……ああ、そうだな、そっちのガキは?」


 ギロストラトスがハカモリを指差す。


 「ダメだ」

 「なんでだよ」

 「このガキを行かせるつもりなら事前に説明をしてるだろ、説明されてないって事は行かせる気が無いってこった」


 鼻垂れのガキだのこのガキだのさっきから酷い呼び方だ、ハカモリでもちょっと傷つく。


 「……このガキが「天上の槍」の使い手か?」

 「黙れギロス、詮索すんな」

 「あぁ?」

 「コレからお前を転移させる、場所は大陸最東端、イショサの街だ、いいな?」


 リロがギロストラトスとイブの両方の腕を掴む。


 「良かねえ、説明しろ」

 「断る、転移五秒前」

 「死ねクソロリババア、外見はガキのまんまで精神もクソガキ、だけど根っこが腐ってんな、そのまま根腐れして枯れて死――」


 ギロストラトスとイブの姿が消えた。


 「……転移したの?」

 「そうだ、ハカモリ、時間もあんまり無い、さっさと行動するぞ」

 「ん……?うん、どこに?」


 なんだか訳の分からない話が続いた、手紙にはなんと書いていたのだろう?師匠の意図は……?


 ……ハカモリは頼りにされていないらしい事だけは分かったが、どうにも事態について行けない。


 「ハカモリ、仕事が終わったら報告をしなくちゃいけない、冒険者ギルドにだ」

 「ああ……確かに」

 「それまでが仕事だ、急ぐぞ、ハイネライドもだ、走れ」

 「了解しました」


 何かが起こっている、何かが、……ただそれはハカモリにはなんなのか全く分からない、一体全体何が起こっているのか。


 リャスラへと走る最中、不安が途切れる事は決して無かった。

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