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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
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ヤバい仕事

 「仕事?」

 「ええ、そうです、あなたの師匠から、あなたに」


 そう言ってリギール神父は再び歩き出した、ハカモリも合わせて後ろについていく。


 師匠からの仕事を受けるのはこれが初めてではない、今までも何度か受けてきたことがある、今までは師匠が墓守を代わってくれたが……。


 「私一人?」

 「ええ」


 「墓守の仕事はどうするの?」

 「問題ありません、私がしておきます」


 「師匠は今……忙しい?」

 「ええ、息つく間もない様子でした」


 ハカモリは確信した。

 これは……逃げた方がいい、仕事の内容はまだ聞いていないが、確実にやばい。


 師匠は大抵のことを一人でこなせる、師匠が今どこにいるかは分からないが、師匠はリギールより早いのだ、馬より早いリギールより早い師匠である、そんな師匠が助けを求めるとしたら、3つのパターンが考えられる。


1.師匠は死ぬほど忙しい。

2.師匠がとんでもなく遠くにいる。

3.師匠でも解決できない問題がある。


 1と2はともかく、3はハカモリ程度が手伝ったところで意味がないだろう、考えにくい、なので1か2、それか1と2両方だろう。


 だがそれはこの場にリギールがいない時だけだ。


 師匠には劣るが、リギールも相当の実力者だ、おおよそ全ての面でハカモリを上回っている。


 リギールとハカモリ二人が師匠の手伝いをするならともかく、リギールがハカモリの仕事を変わるのは意味がない、リギール本人がやった方が早いし確実だ。


 じゃあ何故ハカモリに依頼するのか?簡単だ、これはおそらく師匠からの試練である。


 おそらく依頼者は元々師匠に依頼を出していたはずだ、しかし師匠が多忙のため、リギールが代理に立候補、しかし邪悪な師匠はその依頼をハカモリの試練に利用しようと考えた、そんなところだろう。


 ……師匠のような化け物に行く依頼をハカモリのような未熟者に頼むなど頭がおかしいとしか言いようがないが、残念ながら師匠は頭がおかしい。


 師匠からの試練はこれが初めてではない、今回のように仕事という形ではないが、何度も何度も嫌がらせかと思えるくらいの高難度の試練をこなしてきた。


 毎回毎回、ハカモリは思うのだ、こんな目はもう2度とゴメンだと。しかし逃げられない、宥められ、泣き落とされ、半ば騙される形で試練を受けさせられてきた。


 ある時は夜の森で1時間踊り、またある時は貴族の館に忍び込み、時には1週間断食した。前回の試練ではなぜか覆面で顔を隠した師匠と殴り合った。


 そしてその時に誓ったのだ……次こそは、次こそは絶対に試練など受けないと。


 「断」

 「ちなみに拒否権はありません」

 「!?」


 ハカモリは恐怖した、今までは一応ハカモリが受けるかどうか決められた、ほぼ建前で、実際のところ拒否権などないも同然だったが、拒否権がないなどとは言われたことがない、怪しすぎる。


 「し、仕事の内容は……?」

 「それを聞くということは、受けるのですね?」

 「ち、違う!まず最初に仕事の内容を聞いてから、受ける、他の冒険者なんかもそうしてる、仕事の基本」


 そして仕事の内容がやばかったら逃げるのだ、リギール神父から逃げられるとは思わないが、できるできないの話ではない。


 そこでリギールは突然立ち止まり、ハカモリの方に振り返りながら、言った。


 「すみませんが、私の前を歩いていただいても?」


 ……?

 それぐらいなら別に構わないが……。

 

 リギールを通り過ぎて道を歩く、あまり整備のされていない道は少し歩きずらい。


 「今回の仕事の内容ですが、あなたが受けると言うまで教えてはならないことになっています」


 ハカモリは瞬時に悟った、はめられた、罠だ。


 ハカモリから後ろのリギールが何をしているかは分からない、逆もまた然り、さっきまでのリギールは後ろのハカモリの様子がわからなかった、それを嫌ったのだ。


 今までの情報から仕事を分析するとこうだ。

 この仕事は断れません、仕事の内容は受けるまで明かせません、逃亡は許しません。


 ……これだけ依頼受諾者に厳しい仕事は世界中のドブの底まで探したって見つからない気がする。


 嘘をついて逃げるのは簡単だ、しかしハカモリは嘘が嫌いだった、ハカモリにとって嘘は街の往来でおしりを晒して歩くよりも恥じるべきことなのだ。


 そしてそれをリギールや師匠も知っている、だからハカモリに依頼を受けると言わせたいのだ、一度言ってしまえばハカモリはもう逃げないから。


 「このままお話を続けたいですが、残念ながら街が見えてきました、街に着くまでに依頼を受けると約束してください」


 ハカモリは泣きそうだった、前回に試練を受けた時、ハカモリは誓ったのだ、次は絶対に試練を受けないと。


 別に誰に約束したわけでもないが、強いていうなら自分自身に誓ったのだ、それを反故にするというのは、嘘をついたことになるのではないか?


 ハカモリは嘘が嫌いだ、取るに足らない些細な嘘でも、誰かを守る優しい嘘でも、ハカモリは嘘をつかない、つきたくない、それはちっぽけなプライドかもしれないが、それでもハカモリはそれを守りたいのだ。


 折れそうな心を必死に立て直す、まだだ、ハカモリはまだ戦える、たとえ何をされようとハカモリは折れない、師匠の理不尽から逃げるために!


 ……それと嘘をつかないため!


 ハカモリは一度立ち止まり、後ろを向き、精一杯威圧感を出せるようにリギールを睨みつける。


 「い、依頼を受けないって言ったらどうなるの?」


 リギールはハカモリの視線を受けても揺るがない、いつも通り深い笑みを顔に貼り付け、人畜無害で穏やかな雰囲気を携えている。


 「そのような事が起こるとは到底思えませんが……ですが……そうですね……」


 「…後悔しますよ」


 まるで三流悪党の捨て台詞だ、そこらのチンピラが吐いていそうだ。


 だがその言葉に嘘は無かった。


 発言のどこにも、ただの一片も、嘘がなかった、誤魔化しも不安も無い、そのセリフが絶対に正しいのだとリギールは信じているのだ。


 ハカモリは折れた。

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