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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
18/32

本物の狂人

 目の前で仲間が死ぬ、ハカモリの殴打の結果だ。


 死体は光になって消滅する、異教徒となって以来意識しなくなった完全な死。


 頭に残る恐怖を押し殺し、前に進む、そうしてハカモリの拳を最後に見て、死んだ。


 ***


 ハカモリの能力は高い、単純な攻撃力では突破は不可能だ、毒なども無駄。


 窒息も無理、魂に対する攻撃も、最初は良かったがもう効かない。


 その精神も完成されている、人の形をした自分達を破壊しても、心は揺らがない。


 唯一、子供を殺すのだけは少し躊躇っていた、だが子供の自分達は少ない、有効打にはならないだろう。


 不意打ちで傷をつけても一瞬で治療される、それから流した血が全て消えている、地面の血を舐め取ろうとした仲間は頭を消し飛ばされるか、舐めとる前に掃除されてしまっていた。


 彼女の得意は接近戦だ、確か神術には体を強くするものがあった、それを三個か四個同時に掛けているのだろう、はっきり言って勝ち目は無い。


 だがそれは一対一の時の話だ、彼女の最も強い戦い方は接近戦だが、同時に最も付け入る隙があるのも接近戦だ。


 できる、自分達ならば。


 ハカモリの後頭部に思い切り石を振り下ろす、魔力を込めて強化した強い石、強石だ。


 その石が粉々に砕け散る。


 「あら、石頭」


 その言葉を最後に、死んだ。


 ***


 教会は自分達の想定より危険な組織かもしれない。


 「食の使い」は巨大かつ強大な異教徒だ。


 自分達は強い、他者の経験も知識も肉体も全て消化した。


 今の自分達は全員がAランク冒険者と同等のスペックを持っている、持っているのに……。


 また、前方の仲間が死んだ、魔術結界三層を貫くパンチ、信じられない。


 あんな人間型ドラゴンみたいな化け物を教会は管理してるのか……?


 ゾッとする、自分達とは別の「食の使い」からの情報で、教会に手を出すな、と言うものがあったが、こういうのがたくさんいるからだったのか?怖っ。


 前に立ってた仲間が死んだ、次は自分だ。


 ……作戦は上手く行ってる、それはいいが……人生最後の考え事は、あまり愉快とは言えなかった。


 その心残りを最後に残して、死んだ。


 ***


 ハカモリの弱点、それは初見の技だ。


 初見と言っても見たことも聞いたことも無い技では無い。


 戦闘を始めてからこちらが一度も使用していない技だ。


 多分彼女はほとんどの魔術、技術、呪術、武術、その他諸々を受けてきたのだろう、対応が早い。


 しかし事前にそれらの対策がなされることは無い。


 こちらが一度でも使ったら……使えることを知ったら、対策を講じる、後出しジャンケンだ。


 当然こちらも対策はある、即死させればいい。


 鍛治師、グ・ラーマルの打った剣「骸枯(がらから)」は、神術や魔術の概念的防御を打ち崩す剣だ。


 「絶対にダメージを受けない」効果を「絶対に防げない」効果で対消滅させる剣。


 使用に耐えうるのは一度のみ、グ・ラーマルが生涯に作った骸枯(がらから)はたったの三本だけ。


 だが死人だろうと食えば記憶は得られる、伝説的な鍛治師の記憶を元にすれば完璧なレプリカが作れる。


 盗賊の技能と魔眼を用いて自身と剣の気配を完全に消滅させる、姿形は魔術で消す、空気の流れは呪術で自然な物とした。


 自身の隣の仲間が死んだ、あと一歩、それだけで触れそうなほどの距離に彼女……ハカモリが居た。


 その暴威は到底対抗できるものでは無い、だからまともに戦わない。


 再度、仲間が彼女に斬りかかる、全て無視して放つ拳を、仲間がスレスレで躱す。


 ……次だ、次の一撃でハカモリの防御が崩れる。


 仲間の腹が激しく発光する、自爆だ、それに合わせる様剣を抜く、ハカモリは回避する様子はない。


 すぐそばに潜伏していたらしい仲間達も合わせて剣を振るう、囮だ、材料の関係上骸枯(がらから)は数が少ない、今自分達のところにあるのは一本だけ。


 爆風をその身に受けても、ハカモリは小揺るぎもしない、たとえ危機感を感じても、どの攻撃が危険かは知り得ない!勝った……!


 ――ハカモリが、こちらに振り返っていた。


 自身が放った一撃はハカモリの防御を打ち砕き、首を跳ね飛ばした。


 跳ねた首を追い、追撃を放つ。


 剣を力に任せて振るった、衝撃が地面を削る、誰かが発生させた炎は、ハカモリの頭部を灰すら残さず消し去った。


 溶けた地面から上がる煙を仲間が吹き飛ばし、その死を確認している。


 「やったか!?」

 「流石に、これだけやれば死ぬでしょう」

 「再生の兆しは?教会の「生存」はたとえ全身灰になろうと生かす事が出来たはずだ、首から全身を治す可能性がある」


 そんな仲間の声が、ひどく遠い。


 全身に底冷えするような怖気が走っていた。


 気づいていた、気づいていたのだ、気配も何も無かったはずなのに、最後に奴は気づいていた。


 恐ろしい、あり得ない、呼吸が荒い、全身が汗でびっしょりと濡れている。


 見下ろせば、既存の草とは別に、新しい草の芽が地面に出ていた。


 通常とは異なる異常な成長、これを、自分は知っている、教会の神術だ。


 「生命の宝庫」


 死を許さない森を創り出す術、最も超級神術に近いとされている上級神術。


 その術を発動させた瞬間、発動者を中心に森が発生する、木々は一瞬で生え、家屋はもちろん元々生えていた木も全てひっくり返すのだ。


 なぜ今はそうなっていないのか?それは神術に木々を成長させるほどの余剰エネルギーが無かったからだ、本来の効果……死を拒絶する効果を維持するので精一杯だったからだ。


 背後で、仲間の悲鳴が聞こえる。


 あり得ない、あり得ない、あり得ない。


 頭を失ったら人は死ぬ、神術を掛けても遅い、何故なら人は、頭でものを考えるからだ。


 切った腕に治療を与えても体は生えない。


 推測は出来る、「生命の宝庫」を掛けて死を拒絶して、頭と体を分離した後、頭を完全に消滅させた場合、神術は無い頭を生存させることは出来ず、仕方なしに体を生きている事にする、のだろう。


 切り落とした首に追撃を放ったのは自分達だ、それを予見していた……?


 理解出来ない、吐き気がする、気持ちが悪い、そんな、そんな馬鹿な話が、あっていいはずがない。


 リスクが高いでは済まされない、頭部を完全に生やし直したら、それは別人では無いか?そういった疑問を、全く抱かないとでもいうのだろうか?


 気づけば、自分の周りの仲間は全滅していた。


 「その骸枯(がらから)、どこで手に入れたの?」

 「この、狂人が……」

 「なに?もっとおおきい声で」


 自身の首に剣を当てたイカレ女が言う。


 魔力を全身に込めた。


 「この!狂人がああああ!!!」


 剣を大きく振りかぶり、そして首を切断されて、死んだ。


 ***


 「あ、駄目だわ、無理でした」

 「はあ?首を切り落としたのでは?」

 「いや、頭を生やしました、ニョキニョキっと」


 観測は千里眼を持つ自分の仕事だ、彼女に全く気取られない位置から常に監視して、データを取る。


 今全滅した部隊の犠牲も無駄にはしない。


 「……割に合いませんね、これなら「悪童姫」か「血塗れの長耳(レッドエルフ)」の方が良かったです」

 「んあー、そっちもどうかと思いますよ、悪童姫の方は自分の覗き見バレかけましたし、レッドエルフはマジでヤバいやつです、記憶渡します、皿を」


 魔術で手首を切り血を流す、治癒魔術で血は補充できる、たとえ百人分でも血を流せる。


 ……まだまだ、こっちは余裕がある、やられたのは魔導器官を持たない雑魚が大半だ、自分のような魔眼持ち……いわゆる主戦力は出ていない。


 まあ出ていないというか今はいないのだが。


 「準備できました?いってらっしゃい」

 「……気楽でいいですね、行ってきます、ほら、あなた達も」

 「行ってきます」「行ってきます」「行ってき――」

 「一人で充分です、面倒なんで」


 ため息を吐きながら、自分の指を切断する。


 そうしてすぐそばに着地してきた怪鳥に指を食わせてやる、当然こいつも自分達の一員だ。


 「相手は想定より遥かに強力、確認できた欠損だけで心臓を七回、その他の臓器を八回、腕を十七回、指先などの軽微な欠損は二十九回治してます、あと頭部の再生。ぶっちゃけ神力切れは無理目です」

 「くえー」

 「この時点で使用した神力の量は超級神官五から七人分、こちらが観測出来ていない分を考慮すると霊級並みかもです」

 「くえー」

 「それから念の為別の「食の使い」への伝達をすべきだと思います、伝言は以上」

 「くえー」


 この人普通に人語喋れるのに何やってんだろ……。


 鳥が翼を広げて飛び立つ。


 それを片目で見届け終えてから、再び両眼で千里眼を発動する。


 「特に変化はない……何でじっとしてるんでしょ?」


 ハカモリが何かアクションを起こすのなら報告をしなければならないが……。


 「まあいっすわ、退屈ですけどね」


 そうだ、これでいい、自分はずっとこうしてきた、ずっとずっとずっと、もう何百年も。


 面白くは無いが、仕事に面白みは求めない。


 そう思っていると、ハカモリが視線の向きを変えた、ちょうど自分の目線に真っ直ぐと。


 ――目が合った?


 「見つけた」


 千里眼越しにハカモリの声が聞こえる、小さいが、確実に聞き取れた。


 ハカモリが視界から消える、いや、ただの高速移動だ、すぐに見つけられた、この方向は……!


 こっちに向かっている!?


 口笛を吹きながら地面を蹴り反対方向に走り、自らと並んで飛ぶ鳥に必死に叫ぶ。


 「こちら千里眼!ばれた!ハカモリにばれた!救援求む!以上伝言終了早く飛んでください!」

 「焦ってますねえ、あなたでも死ぬのは怖いですか」


 クソ鳥に自分の手を突っ込み手首から切断、手を丸ごと食わせた。


 「良いから早く飛んでください!本隊に連絡、ハカモリに最大限の警戒を!」

 「了解しました、それでは」


 飛び去った鳥を見送りつつ、千里眼を見ながら走る。


 何を目標としているのかこちらに真っ直ぐ、本当に真っ直ぐ向かってきている。


 木々は無視だ、全部折って無理やり進んでいる。


 轟音が近づいてきている、早い……!


 気配も消しているのになぜ位置がわかるのか、それを知る術はもはや無い。


 最後に見えたのは、木を真ん中から裂きながらこちらに向かう、ハカモリの満面の笑みだった。

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