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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
17/30

本気のハカモリ対異教徒

 結界内、計七十四体の異教徒を全て殺し終えたハカモリは、その死体を消していた。


 あの異教徒の表情……!確実に何か不都合があったのだ、直感に従って正解だった。


 「空間」と「祈」の複合神術「消失空間」を広げる、異教徒の体がその空間に触れると、接触位置から光に変換されていく。


 そうして全身を光にした後、異教徒は少量の白い粉を残して完全に消滅した。


 後は血と服だ……今の結界の内側にもう一枚「洗浄」と「結界」の複合神術「洗浄結界」を張る。


 結界内の血が消えていく、ハカモリの受けた返り血もついでに綺麗になった。


 「修繕」でボロボロの服を直す、いつのまにか落としていた剣を拾い、鞘に収める。


 腕を回す、体の不調は全て消えた、傷一つない完璧な肉体、準備は万端だ。


 結界を解く、ハカモリは万全だ、万全だが……それだけで勝てると思えるほどハカモリは馬鹿じゃない。


 ていうかいつもいつも酷い目に遭っているんだから今更そう思えるはずがない、油断はしない。


 前方、倒れた木々の上に立つ様に異教徒が現れる、今回は、笑っていなかった。


 剣士……?何でわざわざ姿を……?否、疑問は後だ、先に動いて先に殺す。


 効果時間を終えていた「身体の活性」を掛け直す、今回は一重だ。


 そのまま足元の丸太を蹴り飛ばした、先の戦いで周辺の木々はほぼ全部根本から切断されている、弾はいくらでもある。


 一閃、ただそれだけで丸太を両断する、丸太は無駄か、それに加えて斬撃も飛ばしているのだろう、見えないが。


 そのまま受ける、既に「肉体の堅牢」はかかってる。


 続けて二撃目、三撃目が来た、「肉体の堅牢」のダメージの許容値を超えたが、すぐに術を掛け直す。


 四撃目、五撃目、六撃……もう数えるのも面倒だ、無視する。


 剣撃の嵐を受けながら歩く、「肉体の堅牢」は頻繁に切れるが、別に掛け直せば良いのだ、問題ない。


 そうして剣を振るう異教徒の目の前に到達した、異教徒が目を見開く。


 手刀を放つ、防御に構えた剣を無理やり押し進め、異教徒の首に一撃を入れる、鮮血が辺りに飛んだ。


 「……なる、ほど……単純な、攻撃では……無理と……」


 異教徒はそれだけ言い残して息絶えた、確認?ずいぶん贅沢な命の使い方である。


 一体異教徒は何人いるのか……考えるだけで嫌になる。


 「次です、炎はどうですか?」


 どこからともなく聞こえてくる異教徒の声、それと鼻に香る火の匂い、肌が熱を感じ取る、魔術の前兆だ。


 「地獄より来たりし母なる炎よ、燃やせ、燃やせ、燃やせ、我が敵は灰すら残らず、世界は二度と戻らない、永劫の熱を知れ!「インフィニティフレイム」」


 インフィニティとか無限だとかは八割ハッタリだ、そのまま受ける。


 頭上から現れた炎は、周辺一体を木々ごと燃やし尽くした。


 ハカモリは当然平気だ、「肉体の堅牢」は肉体へのダメージを全て無効化する。


 少し息苦しさを覚えたが、「健康」を掛ければ問題は無い。


 炎に包まれながら追加で「躁炎」を発動する、触れている炎を操る神術だ。


 炎に触れつつ、動きをイメージする……周辺の木々はまだ残っている、あれらを消してしまおう、邪魔だ。


 炎を自身を中心に回転させる、少しずつ丁寧に炎の輪を広げる。


 ハカモリの操作する炎の輪が切断される、四方八方から斬撃が飛んできた。


 地面を削りながら見えない斬撃が進む、当然無視する、数が多かろうが無駄だ、せいぜい術をかけ直す頻度が高くなるくらいだ。


 炎の輪は……もう少し広さが欲しい、ハカモリは余計な障害物は無い方が動きやすいのだ、木々をもう少し燃やすため、しばらく斬撃を受けながら待機する。


 突然、嫌な予感がした、振り向き手をかざして極小の結界を張る。


 手のひらサイズの結界、そこにピンポイントで矢が当たる、かなりの高威力だ、「肉体の堅牢」では防ぎきれない。


 斬撃は未だ止んでいない、ついでに矢も混じり始めた。


 まだ炎には余裕がある、このまま矢を防ぎ続ければ……。


 背後に人、潜伏していたのだろう、振り向くより先に腕を回され首を絞められる、足が地面につかない。


 当然無駄だ、「肉体の堅牢」は破れない、だが炎から手が離れた、術が解除され炎の輪も霧散する。


 矢を結界で防ぐ、斬撃により解けた「肉体の堅牢」を掛け直す、ついでに首を絞めている腕の肉を掴みちぎった。


 異教徒の絶叫、だが欠片も力が弱まらない、面倒だ……。


 「堅固」を二重発動して「肉体の堅牢」の掛け直しを中断する。


 「肉体の堅牢」はダメージを無くす神術だが「堅固」は防御力を高める神術だ、中級神術ということもあってその効果は低い。


 「肉体の堅牢」がダメージ許容値を超えて解除され、斬撃を喰らう、傷つくが、少なくとも両断はされない。


 だが斬撃は防げてもそれより遥か上の貫通力を持つ矢は防げない、ハカモリの心臓を矢が貫通した……当然後ろの異教徒にも当たる。


 「欠損の消滅」を発動し心臓を修復する。


 どうやら致命傷だった様で、首を絞めていた異教徒の力が抜ける。


 ハカモリの頭部を狙った矢を避けつつ「肉体の堅牢」を掛け、剣を使って背後に倒れた異教徒の首を切り落とした。


 「万象の治癒」で全身の治癒を行い「祈」で異教徒の死体を消す、周辺の異教徒はその間も遠距離攻撃を辞めない、いい加減うざい。


 辺りを焼き払ってハカモリの戦いやすい環境を作ったが、よく考えたら異教徒がそれに付き合うはずもなかった。


 仕方ない、多少のリスクは許容する、このまま戦闘が長引くのは面倒くさい。


 「身体の活性」を掛ける、今掛かっている神術に重ねる形での発動、二重発動だ。


 全身に力がみなぎる、目標は……矢を放ってきてる奴だ、大まかな当たりを付けて跳ぶ。


 景色が凄まじい速度で流れる、さっきハカモリが焼いた範囲は一瞬で脱出、木に思い切り衝突する。


 木を二本ぶち折った、それでもなお余りある勢いを三本目の木で殺す、幸い折れたりすることはなく、木が傾くだけで済んだ。


 前方、異教徒の驚く顔が見える、どうやら少し通りすぎてしまっていた様だ。


 「肉体の堅牢」はもう切れてる、だが良い、ダメージは無視する、木を蹴り異教徒めがけて跳ぶ。


 ハカモリの全身を用いたタックル、異教徒はなす術もなく潰れた。


 地面に手を付き速度を落とす、手の皮が剥け指が削れる、痛い。


 「万象の治癒」で全身を治す、治療を終え、体を止めた瞬間、眼前に包丁が迫っていた。


 頭を後ろに下げる、異教徒はハカモリの右目からこめかみまでを切断した。


 「万象の治癒」を掛けつつ、拳に「祈」を込める。


 「死ね!異教徒!」


 左手をかざし異教徒の背後に結界を張り、右手で異教徒の顔面を殴る。


 頭が潰れたトマトの様に弾けた異教徒はそのまま光輝き消滅した。


 「欠損の消滅」を掛け右目を修復する。


 次だ、さっき殺した異教徒の死体を消さなければ、そう思いながら周辺に飛び散った血を消しつつ立ち上がる。


 「お、お姉ちゃん、何を、してるの?」


 木々の間から子供の異教徒が現れた、子供でも異教徒だ、殺そう。


 剣を抜こうとして、自分がいつのまにか剣を無くしていることに気づいた。


 ……さっき落としたのだろうか?まあいい、なら殴り殺すだけだ、余り良い気分でも無いから剣を使いたかったが……。


 ため息を吐きながら子供の異教徒に近づく。


 「ね、ねえ、何してるの?ここ、危ないよ」

 「化け物が人のふりをするな」


 異教徒の頭に拳を振るう、異教徒がよろめき尻餅をつく。


 ……殴る途中で「身体の活性」が切れた、一撃で殺すつもりだったのに……。


 どうにも気が抜けていた様だ、重ねて掛けた神術は効果時間が短くなるとはいえ、効果時間を間違えるとは。


 「正気ですか?まだ子供ですよ?」


 俯く子供の異教徒の側に、もう一人大人の異教徒が現れる、保護者?


 「正気かはこっちのセリフ、子供を異教徒にするなんて……」

 「……はあ、異教で何が悪いのです?それよりもこの子が可哀想だとかは思わないので?」

 「異教徒は皆狂ってる、神に頭を弄られてまともなままのはずが無い、人としての精神を捨てたのなら、()()は人間じゃ無い」


 子供が泣いている、演技だろう、ばか異教徒のあほ演技だ。


 「子供に罪はありませんよ、ほら、頬が腫れてる、可哀想に……」

 「罪のある無しで殺すか否かを決めているわけじゃ無い」

 「この子はまだやり直せるのでは?異教を辞めろと言うのなら辞めさせます、どうか、命だけは……」


 ……。


 啜り泣きが止まない、異教徒はクソだ、ゴミだ、どこまで行っても人外で、ハカモリを追い詰め、人を殺め、村を焼き、世界を食い散らかす害虫。


 啜り泣きが止まない、異教徒を辞めるなど出来ない、異郷の神を信仰すると決めたその時点で肉体も精神も神に支配されているのだから。


 ……でも、もしかして、どうにかできたのだろうか?


 啜り泣きが止まない、嫌に耳に残る泣き声だ。


 啜り泣きが止まない、罪悪感が湧く、子供ならやり直せるだろうか?啜り泣きが止まない、出来るだろう、きっと出来る、絶対出来る、啜り泣きが止まない。


 啜り泣きが止まない、何故ハカモリは無慈悲だった?啜り泣きが止まない、異教徒でもやり直せる、啜り泣きが止まない、ハカモリはたくさんころした、啜り泣きが止まない。


 啜り泣きが止まない、ころさなきゃよかった、啜り泣きが止まない、みすてなきゃよかった、啜り泣きが止まない、ざいあくかんにおしつぶされる、啜り泣きが止まない。


 めのまえにだれかがせまる、なにかをもってわらってなにかいってる、啜り泣きだけが聞こえる、ぜんしんのかんかくがない、だれかがゆっくりなにかをつきさす。


 嫌な予感がした、啜り泣きしか聞こえていなかったハカモリを一気に現実に引き戻す嫌な予感が、口から血を吐く。


 精神攻撃?見下ろせば、ハカモリの心臓の辺りに包丁が深々と刺さっている、なのにこれっぽっちも痛くない。


 「霊魂の保護」を発動する、多分魂に干渉する術だ、正常な思考を乱し精神に変調をきたす術。


 ハカモリの感覚が一気に戻る、よく考えたら正常な感覚より先に治療をすべきだった様な気がするが、まあ良いだろう。


 目の前の異教徒がハカモリの口元の血を舐めとろうと顔を近づけていた、鳥肌が立つ、気持ち悪い。


 目の前の異教徒を思い切り押し飛ばす、意識が薄れる、立っていられない、やばい、治療、治療を……。


 「万象の治癒」と「健康」を同時に発動する、「健康」は体の足りない物を補う神術だ、栄養だとか酸素だとか、これなら心臓が動いてようが動いてなかろうが関係無い。


 嫌な予感がした、それに従って振り向きつつ手をかざし「結界」を発動する。


 背後には男の異教徒がいた、そいつがハカモリに振り下ろした包丁は結界に阻まれている。


 いつまで経っても心臓を失ったままだと不便だ「欠損の消滅」を発動させようとして……それより先にハカモリの背を包丁が貫いた。


 顔だけを後ろに向けると、子供の異教徒が包丁を握っていた、綺麗な笑顔である、その手を赤に染めていなければもっと良かったのに。


 「欠損の消滅」を発動する、内臓は修復され、刺さっていた包丁を排出する。


 「肉体の堅牢」を発動する、男の異教徒の二撃目を無効化した、いつのまにか側にいた保護者の異教徒の攻撃も無効化。


 子供の異教徒が叫ぶ、魂への攻撃だろう、無駄だ、「身体の活性」を掛ける。


 男の異教徒の腕を掴み思い切り振り回す、保護者と子供の異教徒をまとめて吹き飛ばした。


 異教徒を振り回しながら「結界」を張りそこに異教徒を叩きつけた。


 意識を失った男の異教徒の腕を離し、足に「祈」を込め頭を踏み抜く。


 異教徒が消滅した、次だ。


 子供の異教徒はうずくまり泣き声をあげていた、うざったい。


 「風風歩空(ふうふうふくう)!来い!」


 魔剣には知性がある、呼べば来るのだから最初からこうすれば良かった。


 ハカモリの前に剣が飛んできた、風を操りふよふよと浮いている。


 「効かない……!?何で!?泣いてるのに!」


 まだ「霊魂の保護」の効果時間内だからだ、だがそれを説明する必要は無い、剣を振って首を落とした。


 やはり子供でも何でも異教徒は異教徒だ、躊躇わず殺すべき、最後は……。


 側で気絶していた保護者の異教徒とハカモリを囲む様に結界を張る。


 そして異教徒の首を掴み、結界の壁に叩き付ける。


 「こはっ……あ、ぐ」

 「起きて」


 「不眠の補星」を発動する、異教徒の周りに光点が出現した、光にあたった異教徒が目を覚ます。


 「質問に答えろ」

 「は……あ?子供は、どうしました?殺しましたか……?」

 「うるさい、質問に答えろ」


 異教徒が笑う。


 「ふふ……私の言うことが、信じ、られますか……?この、殺人鬼が……!」

 「質問は一つ、速やかに答えろ」


 こいつはハカモリの血を舐めとろうとした、異教徒はハカモリが死体を消したら困る、子供の異教徒の術はかなり強かった、あれだけ小さかったのに。


 多分記憶だ、恐らく異教徒は食べたモノの記憶を得られる。


 それとは別に……異教徒はドラゴンを乗っ取っていた、仮にも最強の種族のドラゴンを。


 異教徒が誰かを食べると記憶が得られる、なら異教徒が誰かに食べられた場合は……?


 「食神の使徒の能力は食べたモノの記憶を得る物?」

 「ええ、はい、よく分かりまし――」

 「お前らが食べられた場合は?」


 異教徒が黙る、その笑顔を凍り付かせて、何も言えていない。


 もう十分だ、異教徒の首を握り潰す。


 死体を消しつつ結界を解く、無駄に多くいた異教徒の謎が解けた、多分自分を食わせると精神を乗っ取れるのだ、元は一人の異教徒で、どんどん増えていったのだろう。


 ……何人の一般人が精神を乗っ取られた?百?二百?……もっとだろう、食神の使徒はここで滅ぼす、これ以上被害を広めるわけにはいかない。


 ハカモリは決意した、そうして拳を握りしめ、森に潜む異教徒達へと突撃した。


 ――少しでも早く、多く、異教徒を殺すため。

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