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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
10/30

到着、山の麓

 ハカモリ達が森を抜け、道が緩やかな登り坂になった頃には、日が傾き、橙色の夕暮れがハカモリ達を照らしていた。


 「そろそろ野営の準備をした方が良い、リーダー」

 「……そう?」

 「ああ、今回は運良く会わなかったが、この森は魔物が出る、夜になれば魔物が活性化するからな」


 確かに魔物はいるかもしれないが、別にそれほど怖がる必要もないのでは?


 「……魔物なんて倒せばいい、明かり程度なら神術がある」

 「おお、あなたも同じ意見ですか、私もそう思います」

 「黙れハイネライド、この脳筋が」


 ハカモリは断じて脳筋じゃない、しっかり否定しなくては。


 ハイネライドも同じように心外だとばかりに反論しようとしたが、それよりも早くリロが続けた。


 「魔物が怖いってだけじゃない、嫌な予感がすんだよ、俺の勘だがな」

 「嫌な……予感?」


 ……嘘じゃない、リロは本気でそう考えている。


 「別に依頼を投げようってわけじゃねえ、ただ安全にやりたいんだ、何が原因で嫌な予感を感じてるのかは分からないが、危険な魔物とかスタンピードだったら夜の方が危険だ」


 ……よく分からないが、リロは本気で危険を感じている、今日はもうやめた方がいいだろう。


 「……分かった、今日はここまでで」

 「おお、助かったぜ」

 「早く終わらせてリギールさんに会いたいのですが……」

 「悪かったよ、今度なんか奢るぜ」


 しかし野宿……しまった、テントを忘れていた、神術をかければ眠る必要など無いが、神術は使えないのだ。


 「……リロ、テントを忘れてた、それにもう暗くなってきてる、明かりなら、初級神術があるけど……」

 「へへ、リーダー、俺を誰だと思ってる?こんななりだがAランク冒険者だぜ?」


 リロがニヤリと笑いこちらを見る、その表情は自信に満ち、非常に頼りになりそうだ。


 流石はプロ幼女……頼りになる。


 リロはズボンのポケットからクシャクシャに丸められた紙の塊を取り出し、広げた。


 「……ハイネライド、周りの警戒頼んだ」

 「はあ、分かりました」


 そしてぐちゃぐちゃに折り目の付いた紙を持ち力を込めると、紙に付いていた皺が消えさった。


 「……林道の彼方、輪廻の環前、無限の海原。潜むモノよ、契約神クリナズナリクの名の元、契約を果たせ」


 リロが紙を両手で広げながら詠唱する、紙に描かれていた魔法陣が青く発光して……次第に弱々しくなって、消えた。


 「……契約を果たせ」


 紙に描かれた魔法陣が一度強く発光して、しばらく明滅する。


 ……そして段々弱々しくなっていき、最終的に光は完全に消滅した。


 「リロ……」

 「待て、落ち着け、行けるから、少し待て」

 「火の準備をしておきます」

 「私は枝を集めてくる」

 「俺を信じろよ!」


 やっぱりプロなんていなかった、そもそも幼女のプロってなんだかよく分からないし。


 「くそ、おい!契約を果たせ!おい!契約!契約だろ!おい!」


 リロが紙に向かって思い切り怒鳴っている、どうやらリロは本気であの紙切れでなんとかしようとしていたらしい。


 すると突然リロが光る紙屑に怒鳴るのをやめた。


 「お、繋がった、おい契約を……え?……いや、精霊は寝ないだろ、は?あー……分かった、分かったよ、すま…………ごめんなさい」


 リロが紙に話しかけている、一体……?


 「ハイネライド……さん、あれは……?」

 「おそらく……頭が……」


 ……そうなのか、残念だ。


 「おめーら聞こえてるからな!殺すぞ!……ちげえよお前に言ったわけじゃない、本当だよ。ああ、本当だよ。何回聞くんだよ、本当だよ」


 リロがなおも紙に話しかけ続ける、誰かに、おそらく精霊に話しかけてる……?


 「なんだよ都合のいい精霊って、思っちゃねえよ、ああうん、頼りになる仲間だと思ってるよ……いや、連絡少ないのは最近冒険してなかったからだ、本当だよ」


 嘘、嘘、嘘。


 嘘ばかりだ、ハカモリは枝で小山を作りながら静かに怒った。


 「ハカモリさん、この枝とこの枝はやめた方がいいです、湿っています」

 「むう、難しい……」

 「まあ魔法でいくらでも燃やせるのでこれでも問題ないでしょう」


 焚き火など初めてだ、分からない事の方が多い、こういうとき、長生きしているエルフはすごく頼りになる。


 「……今回は本当に困ってるんだ、助けてくれ、頼むよ……」


 リロの交渉も佳境に入ったらしい、声だけ弱々しくなっているが、表情は面倒臭そうなのを隠そうとしていない。


 ハイネライドが指先から炎を噴出させて火を点ける。


 続けてマジックポケットから大きめの布を取り出し、地面に敷く、同じように携帯食料も取り出した。


 「ハカモリさん、こちらに座ってください、あとこれどうぞ」

 「ありがとう、でもこれは……おいしくない……」

 「少し前と比べたらだいぶ美味しくなりましたよ」


 エルフの少し前は信用ならない。


 「本当か!やってくれる!?嬉しいなぁ、お前はまるで慈愛に満ちた聖女様のようだよ、よっ!精霊界一の……え?聖女は褒め言葉じゃない?めんどくっあーいやいやなんでも無い」


 久しぶりに食べた携帯食料は相変わらずの味だった、やっぱり少し前(10年前)とかなのだ。


 「……その少し前ってどれぐらい前なの?」

 「50年ほど前でしたかね、あの頃は酷かった」

 「流石、エルフ……」


 モサモサとした携帯食料を無理やり飲み込む、雑味と強い苦味、その癖匂いだけは甘ったるい。


 ……これよりまずかったなんて、たとえ50年前でも信じられない。


 「あーあー分かったもういいよ!じゃあな!もう頼まねーよ!……あ?なんだ?聞こえねーな?もっとはっきり言えよ!」


 リロが今度は大声で怒鳴る……魔物を呼び寄せたりしないだろうか?少しだけ心配になった。


 「ふーん、ああそう、じゃあ早くやれ……感謝?おいおいただ契約を果たしてもらうだけなのになんでお礼をすんだよ、約束を守るなんて当然の事だろ?」


 リロは随分高圧的で、怒っている口調だが、相変わらず表情は面倒臭そうなままだ。


 「じゃあな、合図を送ったらすぐやれよ、今回は三人だ」


 リロが紙に話しかけるのをやめてこちらに向かってくる。


 「待たせたな……お前ら何やってんだ?」

 「……小休憩」

 「野営の準備です、一応毛布が一枚だけあるので、この布を敷いて、一人ずつ交代で寝るのはどうでしょうか?」


 これ野営の準備だったの……?


 「……そうか、片付けろ、俺がなんとかする」

 「意地を張らないでください、本当は解決策なんて無いんですよね?」

 「……」


 リロはハイネライドを無視して地面に紙を広げる。


 「ハイネライド、前々から言おうと思ってたが、そのクソ薄っぺらい布で寝れるのはお前だけだ」

 「!?」


 ハイネライドが衝撃を受けているが、ハカモリもそれには同意である、布を下に敷いているはずだが、ハカモリは硬い地面に座っているかのように感じる。


 「二人とも、指を掴め」


 紙に触れるようしゃがみながら、リロがこちらに手を広げた。


 意味も分からずリロの指を握る、ハイネライドも不可解そうな顔をしながら続いた。


 「よし……要請、何処まで果てなき海へ、渡界の方舟で、イ・リル・ブ孤島に、我らを一時運べ」


 ハカモリがリロに何をするか聞くより先に、広げられた紙が目を覆いたくなるほど強く輝く。


 手で遮っても足りない、瞼を強く閉じても眩しさは一向に消えない。


 不意に、握っていたリロの指が溶け消える、すり抜けた訳でも手を広げた訳でも無く、突如指が水になったかのようにすり抜けた。


 「……!」


 声が出せない、視界は光のみ、音もいつのまにか消えていた。


 ハカモリは強烈な不安を感じた、本当に大丈夫だろうか?何か間違ってしまったのではないか?


 そう考えた直後、ハカモリの体が強く引き寄せられる。


 始まった時とは違い、終わりは唐突だった、さらさらの地面を踏み締める感触、湿った空気、波の音。


 ――そして視界一杯に広がる広大な海、真っ白い空。


 「お、少し遅かったな?」


 振り返ると、リロが得意げな顔をして立っていて、その後ろには景色に似合わぬ石造りの家が建っていた。


 「…………ここ、なに?」


 ようやく絞り出せた声はそれだけだった、ふと気配を探ると、ハイネライドが空を飛んで辺りを見渡していた。


 「ここは世界に三つある精霊界の内の一つ、無限の海原、そこに存在する小島の一つだ、俺が契約した精霊に頼んで運んでもらったんだよ、あそこの家で休憩できるぜ」

 「せいれい、かい……」


 聞いたことはあるが、来たのは初めてだ。


 一度師匠の試練で案内をした事があるが、あの時は酷い目にあった、精霊は教会を、というより神を嫌っているから。


 「……精霊は教会嫌いだったと思うけど、大丈夫だったの?」

 「問題ねえ、アレはめんどくさい性格してる変わり者だ、ちょっと気に入らない程度だな」


 ……精霊全部がハカモリが過去に会った精霊のようにアンチ教会過激派という訳でも無いのだろうか?


 「ともあれ……これで野営の必要は無いな?リーダー」


 リロが笑いながらそう言う。


 「……流石、プロ幼女」

 「プロ幼女ってなんだよ」


 リロと家に向かって歩き出す、寝る場所の心配が無いことに安堵を覚えながら、ハカモリは事態が良くなっていくような予感を感じた。

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