表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

マアナとロジンの年の差シリーズ

年上なのに手を引かれ

作者: belgdol

前作を読むのがめんどい方向けのキャラの要点。


マアナ・ド・リキュール:主人公。25歳。13歳の時12歳下の男の子との婚約を決められた女。ロジンの事を大好き。

ロジン・ド・ラ・プロヴァール:ショタ。12歳。首も座らない内からマアナと婚約を決められた少年。マアナの事が大好き。生まれた時は茶髪碧眼だったが長じるにつれ金髪に髪色が変わってきている。

アルヴィン、キャナル、ベア、ダイ、アルベール:マアナの兄弟。やはり天才か…という感じの才人ばかりで相対的に凡人だったマアナを埋めてしまった。

 ロジン様が12歳になって、王都の王立学園に入学しました。

入学式に私が参観にいくことはできなかったのですが、代わりにプロヴァール公爵様ご本人が参観なされて、ロジン様をプロヴァール家は重視していると周囲に示されたそうです。

ロジン様はプロヴァール家の養子という立場ですから、当主に軽んじられていると周囲に思われるような扱いはしない、だからリキュール家からも頼む、という事でしょうか。


 実はロジン様の入学式に私自身が参加できなくて、少し安心したところもあります。

だって、私もう25だわ。

行き遅れも行き過ぎて行かず後家と呼ばれても仕方ない……いいえ、リキュール家の娘として、お兄様やお姉様の妹として招かれるお茶会や夜会で口さがない方々がそういっているのも耳に入らないではありません。

もっとひどくなると実家の権勢を盾に年若い愛人を侍らす少年趣味の変態、などという声も聞こえます。

仕方ない事、どうしようもない事、そう諦めて、受け入れようとして、でもやっぱり辛くて。

でも折を触れて触れ合うロジン様の笑顔に癒されてまた立ち上がる私は卑しい、陰口通りの人間なのかもしれません。




 ロジン様が学園に入学してから数週間が過ぎた。

こんな近くにいるのに会いに来てくれない、という事実は私を少し拗ねさせるけれど、どんなに短くともその日あった出来事で印象に残ったことを手紙に認めて送ってくださるロジン様の、子供らしからぬ気遣いに胸が温かくなる。

例え書く理由が、プロヴァール家から付けられた従者の指示によるものだとしても、手紙を書く労は本物ですし、その文字がロジン様が手ずから書いたものであることを教えてくれます。


 だからその手紙も私はどんなことが書かれているだろう、この間お友達になったという方との遊びの話かしら、それとも勉強について?と胸を高鳴らせて開いたのだけれど。

そこには、時候の挨拶もそこそこに「マアナ姉を婚約者として学友に紹介したいのですが、ご予定は空いていますか?」と書かれていたのです。


 迷いました。

ロジン様のご学友に婚約者として認識されるのは嬉しい、喜ばしい事だ。

でも……ロジン様があんな年増の婚約者がいるなんて可哀そうだとか、憐れまれたりしたら、自分の心も、これまで純粋に私の事を慕ってくれていたロジン様の心も踏みにじられてしまいそうな気がして。

どうしようもなく返答を考えることを足踏みしてしまう。


「ねえカクテル」

「はい、なんでございましょう。マアナお嬢様」

「ロジン様が、私をご学友に婚約者として紹介したいと手紙に書かれていて……この話、お受けしてもよいのかしら」

「よろしいのではないですか?」

「でも、でも私25なのよ……?普通こんな年まで嫁入りもせず婚約者でいる女性は居ないわ」

「それがどうしたというのです」

「どうした、って……」


 ベテラン侍女のカクテルはふてぶてしいと言っていい鉄面皮で私の言葉を切って捨てました。


「お嬢様が結婚なさっていないのはロジン様の成人を待たれての事。それを何故恥じる必要があるでしょう」

「……私のような女を宛がわれていると、ロジン様が憐れまれたりしないかしら」

「そのようなことになったらロジン様がそのご学友とのお付き合いを考えるべきでしょう。お嬢様の考えることではございません」

「例えそうだとしても、それでロジン様が……いえ、欺瞞ね、ロジン様の苦しみを通して私自身が苦しむのはきっと辛いから。それを避けたいのよ、私は」


 カクテルは私ではないからそう思いきれるのだと思うけれど、やはり私は自分自身の事なのでそう簡単には思いきれない。

どうしてもためらいが先立ってしまう。


「そうはいいますがお嬢様。ロジン様が学園に入ったからにはどこからロジン様の婚約者のマアナ様が25歳という、年の離れたお相手であることが伝わるか分かりません。それならどんなねじれた情報が混ぜられるか分からない他人の口からではなく、マアナ様ご自身の口から婚約者になった経緯をご学友一同に説明しておくのも、マアナ様の婚約者としての誠意ではございませんか?」

「それは……そうかもしれないけれど」


 正しいと分かっていても、人はそれを成せるとは限らない。

これはそういう話だ。

だから、迷っているとカクテルは言った。


「お嬢様。強くおなりなさいませ。お嬢様が臆して引けば何か余計な瑕疵があると周囲はこれ幸いとお嬢様とロジン様を弄ぼうとするでしょう。ですがお嬢様が自ら率先して機先を制し、状況を操ろうとすればそうそう手を出そうとする人間は現れなくなります。お嬢様ご自身と、何よりロジン様の為に強くおなり遊ばしませ」

「……」


 目を閉じて、息をつく。

そう、そうね。

ロジン様の年齢に対して私が年増になるのなんて、最初から分かっていたこと。

いい加減その現実と折り合いをつけて、私自身が立ち向かうようにしないとね。

キャナルお姉様に補正下着とかいろいろ手助けして頂いていても、肝心の私の精神が委縮していては見た目もそれにつられて暗いものになってしまう。


「解りました。ロジン様には紹介していただける日を楽しみにしていますとお手紙を書きますから、届けてもらって」

「畏まりました」


 私の言葉に、慇懃に腰を折るカクテルには上手く乗せられたものね、と思うものの。

この自らの結婚もせずに25年仕えてくれている老練と言っていいメイドは本当に頼りになりますね、と思うのでした。




 そしてしばらく経っての休日に予定を合わせて、学園外でロジン様と、そのご学友と待ち合わせたカフェに向かいます。

ロジン様とは彼とご学友が早めに現地に入っているから時間通りに来てくれればという話が出来ていて、改めて本当に12歳なのかしら、とカクテルに言ったら。


「ロジン様はプロヴァール公爵様にかなり厳しくしつけられているようですからね。それはマアナ様への扱いも例外ではないのでしょう」


 と言われてしまった。

うう、12歳のロジン様が女あしらいが出来て当然だなんて……少し、そう、ほんの少しショックです。

だって私、あの方が頑是なく私の指に吸い付くような姿まで知っているのよ。

そんな相手がリードしてくださるなんて……。

そう思う一方、年甲斐もなく少女のような心地になってしまう私もいる。

ロジン様は私の事を女性として扱ってくださっている。

そう思えるから。


 さておき、待ち合わせのカフェでカクテルが待ち合わせの旨を従業員に告げると、店のテラス席に通される。

そして私とカクテルが周囲を見渡していたロジン様の従者を認め、頭を下げると従者はご学友の皆さんと歓談していたロジン様に耳打ちして私達の到着を知らせた様子でした。


「マアナ姉様!ここです!」


 ご学友との歓談を一時切り上げ立ち上がり、笑顔で手を振りながら私を呼ばわるロジン様。

他の皆さんも話すのを止めて視線を私に集める。


 私とカクテルは静かに彼らの座るテーブルに近づき、しゃなりとカーテシーをしてご挨拶を申し上げる。


「どうも皆さま。私、ロジン・ド・ラ・プロヴァール様の婚約者。マアナ・ド・リキュールでございます。よろしくお願いいたします」


 その挨拶にご学友の皆さんも立ち上がり、礼をしながら名前を名乗ってくださった。

そして、他愛のない会話が始まった。

かつての学園の卒業生である私に当時はどんな様子だったのかお聞きになったり、今の学園の雰囲気を教えてくださったり。

それは有意義な時間でした。

そして。




「ところで、リキュール様」

「はい、なんでしょう」

「なぜロジンと婚約を?」


 場もほぐれてきて、少し効きにくい話も切り込めるという雰囲気になったと思ったのか。

ご学友の一人がそう切り出した。

ああ、とうとうこの話になってしまった、と思いました。

でも、私はここで堂々としていないといけない。

ここで臆してはロジン様の為にならない。


「そうですね。始まりは完全な家の都合でした」

「家の都合?」

「私の家……リキュール家のアルヴィンお兄様とキャナルお姉様の名前はお聞きになったことがあるのでは?」

「リキュール家のアルヴィン様…?」

「あ、キャナル・ド・リキュール様の話ならうちの母上と姉上達がよくしてるのを聞かされてる」

「まった、アルヴィン様ってもしかして8年前に王家の第四王女であらせられたマレーヌ様に婿入りしてアルヴィン・バストゥーユ公爵になった方じゃないか?」

「え!?じゃあリキュール家ってすごい家じゃないか!」

「リキュール!そういえば王家の近衛の矛と盾と呼ばれるベア様とダイ様の家名もリキュールだ!」

「大魔導士のアルベール様の旧姓もリキュールじゃなかったか?あの方はかなり以前にメンドリール伯爵家に婿入りしてるんだけど、僕ファンだから知ってるんだ」


 一番知られていそうなアルヴィンお兄様とキャナルお姉様の名前をだしたら、ぽろぽろと結局私以外の兄弟全員の名前が出てしまいました。

そしてその名前を出したご学友の皆さんの目は、憧れに輝いています。


 でも、だからなのでしょう。

一人の少年が疑問を瞳に宿らせて私に問いかけてきました。


「そんな家の方がなぜこんな年の離れた婚約を?ほかに見合った歳の婚約があったのでは?」


 ズキン、と胸が痛んだ。

だって、その理由を語るのは、私自身の無力を認めることに他ならないのだから。


「……それは、私がお兄様やお姉様達に比べるとどうしようもなく凡庸だったからです」

「凡庸……?できなかったとかではなくですか?」


 まだ、歯に布を着せるという事を知らない子供の率直な疑問が私を責め立てます。

ですがここで言葉に詰まる訳にはいきません。


「ええ、出来ないわけではなく、凡庸であることが劣っているものとして扱われる。それが優れた兄弟を持つ私の立ち位置でした」


 ロジン様のご学友たちが、ざわりと揺らめく。

劣っていたわけではないのに、劣等者として見られる。

その理不尽さは若い彼らにも、なんとなく恐ろしさが伝わったのでしょう。


「そんなわけで私は他家からの婚約話を薦められることもなく13歳を迎え、省みられることなく行くのかと思っていたところで。プロヴァール公爵家の主筋の血を持って生まれたロジン様と婚約させていただいたのです」

「それは……」

「なんというか……」

「ええと……」


 人生経験の少ないご学友の皆さんは、言葉が出ない様子でした。

私も、ここまでダイレクトに困惑させてしまうと何と言ってフォローすればいい変わらず、言葉に迷っていました。

でも、ロジン様はそこにあっさりと踏み込んでこられました。


「でも僕はマアナ姉様を娶ろうとしなかった皆さんに感謝しているよ」

「え、なんで?」


 ご学友の一人が発した当然の疑問を、お茶を一口飲み下してからロジン様は何でもない風に解決してしまいました。


「だってそのおかげでマアナ姉様は僕の妻になるんだからね。こんなに優しくて美しい人を放っておいてくれなかったら、僕が生まれるのがもう少し遅かったら。完全にマアナ姉様は他の人のものになっていたかもしれないんだから。感謝するのが当然だろう?」


 そういって、周囲に陰りのない笑顔を見せて、私に対してはウィンクをして見せた赤子のころは茶色かった髪が育つにつれて金髪に変じていった金髪碧眼の王子様に、私は無事に死亡させられたのだった。

ロジン様……それは反則です……。

そう思っていると、ロジン様の周囲のご学友も改めて私の事を品定めする視線で見始めて。


「確かに今日のお話の仕方は優しかった……」

「理想のお姉様って感じだった」

「年の割に若い……いて!褒めてるんだろ!?ロジン!」

「そういえば肌が綺麗だ……」


 なんて言い始めたものだから、立ち上がったロジン様がご学友皆さんの頭をこつんと叩いて回って。


「こら。この人は僕の婚約者。横から手を出したら容赦しないからね」


 と釘を刺して回ってくださった。

うう、幸せすぎる……こんな年増に優しい天使なロジン様好き……。

語彙力がなくなっちゃう……。




 そしてあの後もしばらく歓談して、陽が落ちる前に解散、という事でご学友の皆さんとは別れて、私とカクテルをロジン様と従者の方が自宅に送ってくれたのだけど。


「ごめんねマアナ姉。ちょっと無神経な奴もいたけど、そいつらは後で僕がしっかり言っておくから」

「そんな、いいんです。私が皆さんに比べて年を取っているのは本当の事ですから。それよりそんなことでロジン様がお友達とぎくしゃくする方が嫌です」

「マアナ姉様がよくても、僕が嫌なんだ。僕の美しい人を貶されるのがね。マアナ姉様が僕を好きでいてくれるなら、僕も姉様のように貴女を好きだっていう事を解って欲しい」


 そういって、別れ際に私の頬にキスを贈ってくれて。

もうもうもうもう!としかしばらく考えられなくしてくれたのは別の話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ