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86話 ジョニーと未知の敵と

「くるるるる……」

「ぐわう!」


 確かに、シェイプシフターが判断に困るといった理由が分かる。

 ……それは、集団で火を囲んでいた。顔には文様の書かれた仮面をかぶり、そして何かを叫びながら踊り叫んでいる。何かを探しているわけでもなく、ただそこで踊っている奴らにバンシーは困惑しながら聞いてくる。


「……アレ、モンスターなんですか?」

「間違いなく、モンスターですわ。食事もなく、魔力を消費する生き物はダンジョンの中に生息出来ませんもの。……ですが、ああいったように踊ったり叫んでいるようなモンスターは私も見た事ありませんわね」

「……とりあえず、準備をするか。グレムリン、シェイプシフター」

「アア」

「!」


 俺の一声で、二人は立ち位置を変える。

 先行していたシェイプシフターは後ろの安全な場所、そして、グレムリンがラトゥと同じ矢面に立つ位置へ。


「じゃあ、グレムリンから開戦する。それを見てから、ラトゥは援護をしてくれ」

「分かりましたわ」

「ソレジャア、行クゾ」


 そして、音もなく集団へと向かっていくグレムリン。

 ゴブリンから進化したグレムリンは、種族が変わった事で手先が器用になり体も身軽になったらしい。

 グレムリンというのは、主に鍛冶に関連するモンスターの一種であるらしく細かな細工……中には複雑な魔具を作る事も出来る様な種族だとか。


(ドワーフに比べて細かい細工が得意らしいから、それが種族の特徴に出ているわけだ)


 忍び足で進んでいくグレムリンは、騒いでいるモンスター達に気付かれる様子はない。

 そして、モンスター達の近くによってからポーチの中から取り出した物を投げつける。


「ぐぎゃる!?」

「がわあ!」


 それは、小さな爆弾だ。あくまでも、その威力は大した事は無い。爆竹程度の威力だが、それでも突然死角から突如として爆発が起きれば意識は持って行かれる。

 斥候技術とは違う隠密。言わば、暗殺者に近い様な動きだ。グレムリンには必殺の攻撃はない。だが――


「――続きますわ!」


 そこに、切り込むのはラトゥ。

 魔力を送り込み、吸血種としての能力を取り戻したラトゥは赤い目を開かせながら、手前に居たモンスターを一匹切り裂く。


「ぎゃう!」


 悲鳴を上げて魔石となって消えていくモンスター達。

 そして、自分たちが襲われた事を理解してすぐさま鉈のような武器を構える。


「ぎゃるぐわああ!」


 叫びながらモンスター達はラトゥとグレムリンに飛びかかっていく。

 グレムリンは直接的な戦闘能力は低い。そのため、突っ込んでくる敵を回避しながら返す刀で手に持っているナイフで切りつける。

 ラトゥも正面から飛びかかるモンスター達を切り裂いて迎撃して――


「なっ!?」

「ウオッ!?」


 ラトゥに体を爪で引き裂かれたモンスターも、グレムリンに急所を突かれたモンスターもその傷をまるで感じていないかのように襲いかかる。


「くっ! これでどうですの!」


 反撃したラトゥによって、真っ二つに両断されてモンスターようやく消滅する。

 能力の制限が掛かっても、すぐさまに反撃に転じる事が出来るのはやはり経験と実力が成す物だろう。

 しかし、進化したばかりのグレムリンは今まさにピンチを迎えていた。


「グオオオ! ヤバイ!」

「ぎゃるわああ!!」


 ギリギリとナイフで鉈を防いでいるが押し込まれている。

 背後からシェイプシフターが矢を放つ。模倣した魔力の矢だ。しかし、それが突き刺さってもモンスターは止まらない。ラトゥも、残った二匹に襲われている。このままではグレムリンもラトゥも危険だ。


「シェイプシフターはラトゥを援護してくれ! 動きを阻害するように! バンシー、やれ!」

「はい!」


 そして息を吸い込んだバンシーは、叫ぶ。その叫ぶは物理的な衝撃となってモンスターに襲いかかる。

 グレムリンに襲いかかっていたモンスターは吹き飛ばされる。


「助カッタ!」

「いえ、それよりもまだ来ます!」

「は? 嘘だろ!?」


 魔力を分配しながら、戦況を見極めて指示を出していたが敵の状態までは見れていなかった。

 確かに、バンシーの叫びによって仮面の隙間から血を垂れ流しながら腕は弾け飛び間違いなく骨や関節もねじ曲がっている。間違いなく、普通のモンスターなら戦闘不能で消滅するはずだ。

 しかし、それでも戦意は()えていない。もう一度、こちらに向かって這いずるように襲いかかってくる。


「バンシー!」

「分かりましたっ!」


 もう一度、超音波をぶち込む。

 今度こそ、動けなくなったモンスターは消滅する。しかし、思ったよりも魔力の消耗が大きい。多少は魔力の使い方には慣れたとは言え、バンシーの攻撃自体は消費が大きい。


「ラトゥ!」

「――片方、頼みますわ!」


 二体を相手取っているラトゥ。片方はもう少しで倒せそうだが二体目が原因で攻めきれない。

 シェイプシフターによって、矢が刺さり針鼠のようになっているというのに、動きは止まらずラトゥをひたすらに狙い続けている。


「グレムリン!」

「ワカッタ!」


 今度はグレムリンの本領を発揮出来る。グレムリンがポーチからとり出して手に持ったのは……導火線の付いた筒状の物体。

 ――走っていったグレムリンは、一瞬で飛びかかるとモンスターの口の中にそれを押し込んで、魔力を送り込んで蹴り飛ばす。


「むぎゅぐぅ!」


 そのままバランスを崩したモンスターだが、気にせずにラトゥに突撃しようとする。だが、その瞬間に――口の物体は魔力によって光り……爆発した。

 グレムリンが自作した魔力による爆弾らしい。1週間の間に準備をして作ったのだとか。それはそうと、流石に頭部が消え去った事でモンスターは消滅する。


「――こちらも終わりですわ!」


 そして、ラトゥが最後の一匹を消滅させた。

 ――初戦闘は、大きな被害もなく終わったがそのモンスターの異常性に素直に喜ぶような戦果とはならないのだった。

【解説 グレムリン】

小鬼の一種であり、ドワーフに近い性質を持った存在。

主に身軽で巨大な構造物の内部に潜り込んで改築したりする技術にも優れている。

ダンジョンでグレムリンを見た場合には注意が必要である。

魔力を使った細工によって、本来は改造する事の出来ないダンジョンの構造や仕組みなどを変化させる事が出来る。

その性質から生物に対して友好的な一面もあり、ダンジョン外でもグレムリンの集落があると言われている。

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