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82話 ジョニー達と戦略

「――言いましたよね。召喚術士さん! 召喚出来ないのは仕方ないです。でも、そこから終わっても呼ばない理由はありませんよね!? 心配してたんですからね! それに、私が知らない間にゴブリンもスライムも進化して別物になっただとか、新しいダンジョンに行くだとか、知らない人が仲間になっているだとか、全部今聞きましたからね!? まず、召喚術士さんは反省をするべきなんですよ! 自分が全部分かっていたとしても、私たちにはそれは分からないんですからまずは言葉で――」

(……めっちゃ怒られてる)


 今までに無いくらいにバンシーは怒っていた。

 とりあえず、全く呼んでいなかったバンシーとザントマンを呼び出したのだが……呼び出した瞬間に、そこに座れといってからずっと説教をされている。ザントマンも何か言いたそうだったのだが、あんまりにもバンシーの剣幕が凄かったせいで何も言わず静観し始めてしまった。

 そのため、俺はひたすらに説教を聞いている事になっている


「……うーん、召喚術士くんに僕も言いたい事はあったんだけど、アレだと何も言えないねぇ」

「貴方もアレイさんの召喚獣ですの? 私は吸血種のラトゥ・グランガーデンと申しますわ。次のダンジョンでは私も同行しますの」

「ああ、これはどうもご丁寧に。僕はザントマンだよ。吸血種かな? 中々珍しいね」

「ザントマン? ……見た目が若いのは、召喚獣だからですの?」

「そうだね。契約をすると精神状態に肉体が引っ張られるみたいなんだよね。だから、他にも――」


 ……あっちは楽しそうだな。

 俺は怒られている横で和気藹々とした会話に格差を感じてしまう


「召喚術士さん! どこ見てるんですか!」

「ああいや……ちょっと、何を話しているか気になって」

「その注意を普段でも皆に向けるべきなんですよ! 全くもう! 自分のことでいっぱいいっぱいになるのは分かりますけど、まず私たちも召喚術士さんの仲間なんですから忘れられたりしたら普通に悲しいんですからね!」


 ……全部ごもっともなので何も言えない。

 そうして、一体何時終わるのか分からない説教を聞きながら俺はひたすら正座をして足を痛めつけるのだった。



「――分かりましたね!」

「はい」

「はぁ……久々にいっぱい喋って疲れました」


 ……ようやく終わった。あと、喋るというレベルではなかった。

 バンシーも言いたいことを言い切ったので怒りが収まったようで、息をついてから周囲を見渡してしまったという表情をする。


「ご、ごめんなさい! つい、不満が爆発しちゃって……他の用事があったのに、だいぶ時間を使っちゃいました……」

「ふふ、構いませんわ。私もアレイさんと同じように昔はよく怒られていましたので懐かしかったですわ……いえ、ちょっとだけ見栄を張りましたわ。今もたまに怒られますの……」


 嘘はつけないのか、言わなくていいことまで言ってしまったラトゥに場の空気が緩む。

 これは意図してやっているのか……いや、多分天然だな。腹芸なんかも出来るのだろうが、気を張ってない状況だとラトゥはどうもふわっとしている。


「それで、こちらがアレイさんの召喚獣ですわね?」

「ああ。バンシーとザントマンだ。後はグレムリン、シェイプシフター、アガシオンが俺の召喚獣だな」

「支援をするタイプが多いですわね……確かに、これなら私が前線を張るのが良さそうですわ」

「ああ。そうしてもらえると助かる」


 切り替えて真面目に、今後の戦術を話し合う。

 吸血種という種族の強さに俺は自分の戦術が広がっていくことを感じる。


(ラトゥという存在がいるだけで、戦略の幅が広がるな……それに、今まで切り札扱いだったバンシーも使えるかも知れない)


 魔力の使い方を教わってからバンシーとザントマンを呼び出していても負担が少ない……正しく魔力の使い方を学ぶのは大切だということを身をもって学んでいる。

 ラトゥは俺との契約のせいで本来の実力よりも相当低い状態になっている。最大出力をする場合には俺自身にも負担が大きい。だからこそ、戦術の組み立てや判断が重要になるだろう。


「それと、アレイさん。先程魔具で他の手段を見つけると言っていましたわよね?」

「ん? ああ」


 そんな返事をする俺に、ビシッと指を突きつけるラトゥ。


「先に、訓練が先ですわ! アレイさんはまだまだ魔力の使い方に変な癖が付いていますもの! 新たな手段を手に入れるよりも、そこを修正する方が先決ですわ!」

「変な癖って……そんなに癖とか分かるものなのか?」

「普通はそこまで詳しくは分からないんですけども、契約状態になってからアレイさんから魔力の流れが分かりますの。なんというか……アレイさんは凄く歪ですの」


 ……そこまでか?


「具体的にどういう感じで歪なんだ?」

「なんというか……親に手伝って貰って食事をしていた子供が初めて一人で食べ始めたようというか……無駄にボロボロと零していたり、まず食器の使い方を間違えているような……だから、そこを修正すればもっと楽になるはずですわ」

「……あー」


 多分だが……フェアリーだった頃に俺が魔力操作で補助をして貰っていたのが原因な気がしてきた。

 俺が魔力を使う事になれたので違和感を感じなかったのだが、あの時は俺は相当おんぶに抱っこで助けられていたようだ。


「心当たりはありますのね? なら、それを修正する方が手を増やすよりも重要ですわよ。一週間つきっきりなら、すぐに完璧とは行かなくても大分癖や治せる部分は修正出来るはずですわ」

「そうか……ん? もしかして、ラトゥが教えてくれるのか?」

「ええ。私の時間が許す限り教えますわ。むしろ、許可が下りるまでは魔力の勉強を優先した方が良いですわね! 先生として、アレイさんの成長を手伝いますわ!」


 そう言って張り切り始めるラトゥ。これも、俺との冒険に備えてのことなのだろう。

 今までセルフで縛りプレイをしていたわけだ。その苦労を修正出来るとすれば……未到達ダンジョンがどのような場所かは分からないが今後の俺にもプラスの意味で影響が大きいだろう。


「それに、他にも冒険者としての心得も教えて差し上げないと! ふふふ、こういった機会が無かったので楽しみですわ!」

「……あー、お手柔らかに頼む」

「任せてくださいまし!」


 ……冒険に備えてと言うよりも、普通に先生として教えるのが楽しいらしい。

 思ったよりも愉快なお嬢様に、せめて無茶振りだけはされなければ良いなと思うのだった。



 ――そして、一週間後。

 進展を聞くために冒険者ギルドにやってきた俺に気づいた受付嬢さんは、笑顔で俺に伝える。


「――召喚術士さん。申請が了承されましたよー。これで、未到達ダンジョンに挑む事が出来ますね!」


 短い休暇は終わり……新たな冒険が始まるのだった。

【解説 冒険者の教育】

冒険者は一般的に下積み期間に先輩冒険者からの手ほどきを受けることが殆どである

また、冒険者ギルドでは同じ職業の先輩冒険者を斡旋しての教育や引退した冒険者による講習など学ぶための機会を設けている。

そのため、余程の事情があり冒険者ギルドを活用できない人間でなければあらゆる冒険者には基礎が出来ている。

基礎を学ばずにダンジョンから生還した冒険者というのはほんの一握りであり、さらにそういった冒険者は間違った癖や考え方によって死亡率が上がる事が多い。

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