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56話 ジョニー達は出会ってしまう

「……ふむ、このスープは確かに美味しいね。使われている材料も大した物はない……そうすると、これの味の秘密はスパイスかな? 料理の腕前というのもあるだろうけども、それで誤魔化しきれない要素も多いからね。ふむ、創意工夫がなされているのはとてもいい」


 スープを優雅に飲みながらそんな品評をする彼女をどうするべきか、俺達は判断に困っていた。

 見た目は麗しい白髪赤目の美女だが……それは、銀等級冒険者という雲の上の存在であり……何よりも、その血のように赤い目は吸血種。この世界でも高位の魔種なのだ。

 吸血種は、他の種族の血を吸う。血に含まれている魔力を糧とする事で生きる生物だ。そして、その権能は地上に存在しているのにダンジョンのモンスターにも引けを取らないほどの魔力を行使出来る。竜人やエルフなどに近い、スペックそのものが他よりも高い存在だ。


(……どうする? 敵対はしないっぽいが)

(僕が声をかけてみるよ)


 まずは、対話をしてみるしかない。

 俺達を代表して、リートが声をかける。


「……それは良かった。仲間の自慢のスープですので。それで、何のご用で――」

「君はいいや。ふむ、そっちの君」


 そう言って指を差したのは……俺?

 周囲を見渡すが、他に誰もいない。リートも、俺を見て頼むとアイコンタクトをしている。仕方なく応答する。


「俺、ですか?」

「うん。君の匂いは珍しいね、血統種かな?」

「血統種って……」

「薄いけど……ん? 混じってるね、匂いが。君からなのか、それとも……調べるか」


 そう言って近寄ってきて……その赤い瞳に見られた瞬間、俺はまるで蛇に睨まれたかのように動けなくなる。

 ――聞いたことがある。吸血種の目は魔の力を持つと。そして、エリザと名乗った彼女は俺の首筋に顔を寄せ、そのまま――


「おっと、危ないな」


 牙が届く前に、エリザに向かって一本の矢が飛来する。エリザはその一矢を、首を捻って回避した。

 撃ったのはルイで……とんでもないほどにキレていた。普段のルイは、怒っているときは感情が動いて分かりやすいのだが……今は表情が抜け落ちている。怒りが一周回ると無表情になるのか。俺のために怒ってくれているのだが……正直、めちゃくちゃ怖い。


「仲間から離れろ。殺すぞ」

「ふむ、味を見た方が分かりやすいんだけどね……とはいえ、仲間なら申し訳ないことをしたね。すまないね」


 素直に謝罪をして、俺から離れるエリザ。

 ……なんというか、あんまりにもマイペースだ。銀等級冒険者というのは、どいつもこんな感じなのだろうか? そうだとしたら、出来れば会いたくない部類だ。


「しかし、珍しいね。召喚術士か。これを見るのも何時以来だろうね」

「ん? ……おい! 俺の召喚符!」


 いつの間に! さっき俺の血を吸おうとしたときか!?


「返せ!」

「ああ、すまないね。中身はバンシーかな? この辺りでは見ないモンスターだったからつい興味を引かれてね。しかし、変わっているね」


 召喚符を見ただけで、中身を当ててさらに俺の近くで震えているアガシオンとスライムを見てそんなことを言う。


「バンシーを持っているのに、アガシオンにスライムを使役して使っているんだね。使う召喚獣に愛着をもつタイプだったりするのかな?」

「……魔力量の関係だ」

「魔力量? ……ああ、なるほど。それなら納得だ。確かに、召喚術士にしては魔力量が少し低いね」


 そんなことを言いながら、座ってスライムに触れようとするのを手で制する。不満そうな顔を見せられてもスライムに触れてうっかり潰されたらたまらない。

 ……というか、何の目的なのか未だに分からない。


「……それで、何の用事でここに来たんだ?」

「ん? ああ、他の攻略者がいるから情報共有でもしようかと思って寄ってみたんだよ」


 その言葉は普段なら裏を感じるように聞こえるが……ここまで好き勝手した後に言われると、不思議とそういう目的なのだろうと納得してしまう。


「……(とばり)を張っていたのに、よく分かりましたね」

「安物だよね? 下級のモンスターなら誤魔化せるだろうけど、もうちょっと上だとちゃんとした方が良いよ。それで、ダンジョンの情報についていいかな?」


 リートの質問に、そんなことを言うエリザ。(とばり)は視覚的に誤魔化す魔術が施されているのだが……このレベルから隠れるにはもっと上があるのか。値段なんて聞くだけで恐ろしいレベルだろうな。

 しかし、情報と言われてもだ。


「情報っていっても……【血の花園】は迷宮の攻略中なんだよな? 最下層にはまだ行ってないのか?」

「いや、最下層にはもう辿り着いているよ」


 最下層に辿り着いている?


「それなら、攻略が終わって帰っている最中って事か?」

「いや、最下層に辿り着いたけど最奥に辿り着けなかったんだよね。ただ、最下層だけどうにも違和感があったからね。それで、僕たちはそれぞれに別れて迷宮を散策しているんだよ。ここくらいなら、別に単独でもなんとかなるからね」


 ……最奥には誰も辿り着けなかったと言うが、銀等級冒険者の【血の花園】も無理だったというわけか。

 しかし、それでも諦めずに手がかりを探していると。


「違和感っていうのは?」

「勘だけど、多分あれは違う場所なんだよね。迷宮をちゃんと道なりに進んだ上で辿り着く最下層への入り口は。多分、普通に進むだけだと最奥への道は解放されないんじゃないかな?」


 ……おい、何か凄い事言ってるぞ。

 リート達も、その発言に思わず目を白黒させている。


「ダンジョンで、そんな嘘の道があるんですか?」

「あるよ? 珍しいけど、ダンジョンだって魔力が一定以上溜まったダンジョンは色々と変な進化をするからね。冒険者を騙すタイプや、冒険者をひたすらに罠にかけようとするダンジョン。中には、ダンジョンに取り込もうとするのもあったかな?」


 そこから出てくる話は、俺達の知っている常識とは違う世界の話だった。

 ……なんというか、それを聞いて思わずワクワクしてくる。未知というのは、冒険者にとっては魅力的な餌なのだ。


「銀等級にならないと、そういうダンジョンには挑めないのか?」

「探せばあるんじゃないかな? それよりも、ダンジョンの地図はあるかい?」


 視線は全員ルイに向く……だが、ルイは嫌そうな顔をしていた。


「……コイツに見せたくねえんだけど」

「気持ちは分かるけど、不利益にならないと思うから……」


 リートが説得をする。

 ちなみに、エリザは我関せずで興味深そうにアガシオンとスライムを見ている。魔術師だから、興味があるのだろうか。


「……ちっ、分かったよ。リートから渡してくれ」

「うん……えっと、エリザさん。これでいいですか?」


 そう言って渡した地図を受け取って見るエリザ。


「ああ、ありがとう。ふむ……」


 そして、地図を確認しているエリザ。

 ……沈黙。すぐに読み終わるわけではないらしい。そのまま、俺達はエリザが読み終わるまで気まずいような妙な時間を過ごす事になるのだった。

【解説 高位冒険者】

冒険者の中でも銀等級以上の冒険者は癖の強い人間が多い。

命を掛け金にして有り余る成功を受けてなお、冒険を辞めずにダンジョンに潜り続ける彼らは何かしらの目的を持っていたり、冒険という物に対する哲学を持っている。

常人であれば、踏み込まない一歩を踏み出すからこその高位冒険者であり、故に外れた異常な存在でもある。

そのため、高位冒険者との付き合いには注意が必要となっている。

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