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27話 ジョニーは出会う

「うう、食べられるかと思った……」

「反省しろバカ。知り合いだったから良かったけど、これが本当に流れてきた冒険者崩れなら死んでたんだからな!」

「あいたっ!」


 そう言って、ゲンコツで子供の頭を殴る狩人。言葉こそは強いが、その表情は本気で心配している表情だ。

 痛いのか頭を抑えて涙目になりながらも、狩人に対して子供は言い返す。


「……だって、最近はまたみかじめが高くなってるんだよ……俺だって、頼ってばかりじゃなくて稼いでちゃんとみんなのためになりたいんだよ」

「だとしてもだ。結局、スリとかで稼いでも死んだら意味が無いだろ。ほら、さっさと帰りな。オレはこっちの兄ちゃんと話しがあるから」

「うん……えっと、さっきはごめんな、冒険者の兄ちゃん! ねーちゃんの事は怒らないで!」

「怒ったりしないから、こういうことは辞めとけよ?」


 そういうと、頷いてこちらを気にしながらも帰って行く少年。別に悪い子供じゃないのだろう。手際の良さを考えると、生きるためにはスリだって日常だったのかもしれない。

 それよりもと、狩人の方に視線を向けて顔を合わせる。狩人はバツの悪そうな表情を浮かべて謝罪から入る。


「さっきはごめんな、召喚術士の――」

「名前はアレイだ。別に気にしてないから大丈夫だよ。それで、そっちの名前は?」

「オレの名前はルイだ。まあ、悪いな。貧民窟に迷い込んだような挙動不審な奴がいるって聞いて、気になって見に来たんだよ。本当に悪いな。ウチのバカが盗もうとして。元々は外から迷い込んだ奴がいたら穏便に外に連れ出そうと思ってたんだけどな」


 ……フードで隠していたとはいえ、当然ながら部外者の空気感くらいは分かるか。

 しかし、ルイが貧民窟に居るということはここの出身だと言うことか。他のメンバーがいないのは、別行動なのか?


「まあ、被害はなかったからいいさ。あの子とはどういう関係なんだ?」

「ああ、貧民窟の子供同士の寄り合いの一員だよ。ここには捨て子が集まるからな。孤児院なんて洒落た場所はここにないし、クソみたいな奴らに使い潰されないように自衛するために子供同士で助け合ってんだ。そこの元一員って感じだな」


 孤児院がないのか……まあ、確かに孤児院というのは難しいかもしれない。

 貧民窟は、まず犯罪組織が擁立しすぎていることもあるが孤児院を作るための許可を取る相手が居ないのだ。自衛手段がない孤児院など、ただの獲物の詰まった宝箱としか思われないだろう。


「やっぱり、ルイも貧民窟出身なのか?」

「ああ、そうだよ。他の二人と違ってオレだけが貧民窟出身だけどな。それで、なんでアレイはわざわざこんな場所に居るんだ? 相当奥まで入ってきてるけど、ここから先には何もないはずだけど」

「いや、行きたい場所があるんだけど行き方が分からなくてさ。どうも迷子になったみたいなんだ」

「……行きたい場所? どこだ? 場所を教えてくれたら案内するけど」


 おお、嬉しい申し出だ。ここから更に迷子になる可能性は高い。

 しかし、何か用事などがあったかもしれないのに付き合わせて良いのだろうか? という疑問も浮かぶ。


「いいのか? ここに居るって事は何か用事があったんじゃないか?」

「別に大した用事はないから大丈夫だ。実家に帰省してたようなもんだからさ。時間はむしろ持て余してる」

「そうか……それなら頼らせて貰うよ。ありがとう、今度お礼をするよ」


 そういうと、不思議そうな顔をするルイ。

 ……何か変なことを言ったのか?


「……お礼って、変な奴だな。さっき被害にあったのはそっちだっていうのに。むしろ、こんなんじゃ足りないなんて言われると思ってたんだが」

「それとこれとは別だろ? それに未遂に終わったんだから別にどうこう言わないさ」

「……ん、そうか。まあ、あんまりアレイは貧民窟に行くのは止めたほうがいいぞ。ただでさえ、冒険者に挫折した奴が貧民窟で成り上がろうと考えてくるバカが多いからさ。勘違いされたらイヤだろ?」

「……あー、まあ確かに。勘違いされないように気をつけておくよ」


 まあ、貧民窟に来る冒険者なんてそう見られるのが当然か。やはり、冒険者であることは隠した方が良さそうだ

 しかし、借金取りからは問題ないと言われたが……面倒くさい依頼を受けてしまった気がすると思わなくもないが……まあ、拒否権はないようなもんだ。

 そんな風に考えながら、ルイに地図を渡す。


「見せてもらうぞ……ん? あー、この場所って……」

「もしかして、知ってる場所か?」

「知ってるというか……まあ、詳しい話は付いてから言うよ。じゃあ、オレに付いて来なよ。迷子になったりしないようにな」


 そう言ってから、ルイは入り組んだ建物の間をすり抜けるように通っていく。置いていかれないように歩き続けながら俺は貧民窟を歩いて行く。

 先ほどまでの道が歩きやすいのではないかと思うほどに入り組んだ道の中を進んでいく。しかし、ルイの歩みは淀みがない。ルイにダンジョンで先導されたらそれは動きやすいのだろうと斥候としての仕事に感心する。


「もっと、この地図の場所に行くためには分かりやすいルートがあるんだけどな。さっきの場所まで入り込んだら、そのルートを通るのは面倒だからこうして裏道を通ってる。もし、この場所に何回か行く用事があるならちゃんとしたルートを覚えないとまた同じように迷子になるぞ。貧民窟の住人ですら、知らなかったら迷うルートはあるんだから」

「なるほど、道理で辿り着かないと思った。俺が方向音痴というわけじゃないんだな」

「……それで、この場所にどういう用事があるんだ? 教えて貰ってもいいかな」


 聞かれて、ルイには案内をして貰ったので答えても良いだろう。

 とはいえ、込み入った事情まで説明するほどではない。


「貧民窟の、この地図の場所に手紙を届けて欲しいって頼まれてな。断りづらい頼みだったから受けたんだが……まあ、貧民窟に来る時点であんまり良い依頼じゃなかったとは思う」

「そうだな、オレが交友関係に何か言うつもりはないけど……繋がりを持つ相手はちゃんと選んだ方が良いと思うぞ?」


 あまりにもごもっともなことを言われる。そりゃ貧民窟との繋がりなんてない方が良いからな。


「とはいえ、この地図の場所にいる奴は貧民窟ではまとも寄りではあるけどな」

「まとも寄りっていうと?」

「別に理不尽なことは言ってこない。無駄に暴力を振るうわけじゃない。話をちゃんと聞くだけの知能がある。相手が誰であろうとも平等に扱うって当たりかな。これを全部持ってるのは貧民窟じゃ片手の指の数より少ないからな」


 それだけ聞くと、表でもわりかしまともに聞こえる気がする。とはいえ、貧民窟に住んでいるという時点でプラス要素をかき消すような何かがあるわけだが。

 と、唐突にルイが足を止める。目の前には、貧民窟には似つかわしくない一軒の家屋が建っていた。


「ん、ここだ」

「ありがとう、助かったよ。おかげでちゃんと来ることが出来た」

「別にオレも暇をしてたからいいさ。んじゃ、ついでに俺もここの奴に顔を合わせていくよ。先に入るな」


 そういうと、ノックもせずに中に入る。

 いきなりの行動に驚きながらも、俺も慌ててルイの後を付いていく。そして、薄暗くなっている室内に所狭し都並べられている品々を見て俺は思わず呟いた。


「……ここは……全部魔具か?」


 そこは魔具店だった。そこまで狭くないはずの店の中だが、置かれている魔具の量が膨大で物理的に室内を狭く感じさせている。

 所狭しと並べられている魔具をいくつか観察してみる。どれもこれも、丁寧にメンテナンスがされていてすぐにでも使えるような状態だ。下手をすれば街の大通りに面している魔具店よりもちゃんとしているかもしれない。

 ……しかし、魔具の販売や扱いは冒険者ギルドによって認可された上で選んで販売されていなければ出来ない。さらに、取り扱える魔具にも制限がある。つまり、ここに置いてある魔具は全て違法に売買されて並べられている品々なのだ。


(……つまり、ここは裏の魔具店ってわけか)


 魔具というのは、見ただけで性能が分かるわけではない。幾つかは性能が周知されているから知っているが、ダンジョンから生み出される魔具や、職人がオーダーメイドで作る魔具というのはそれこそ言ってしまえば一国の兵器に匹敵するような危険な物なのだ。

 もしも、魔力を持っている何者かがこの魔具店の道具を使えば街一つを大騒動にたたき落とすことも出来るだろう。もしも、裁かれるとしたら死罪になってもおかしくないような程だ。

 ルイから聞いた情報では人格者のように聞こえたが……一体どんな人間がこの店を経営しているのだろうか。そんな警戒をしながら魔具を観察をしていると声が聞こえてくる。


「やあ、珍しいお客さんだね。ルイ。ちゃんとノックをしないと迷惑だろう?」

「オレじゃねえよ。こっちの兄ちゃんが用事があるんだってよ」

「おや、それは尚更珍しいね。新しいお客さんだなんて」


 現れたのは、優しい表情を浮かべている眼鏡をかけた男だった。

【魔具店】

冒険者に向けて魔具を販売している店。

冒険者としての証を提示しなければ買うことが出来ず、取り扱っている魔具も暴走や悪用をした際の被害を考慮した安全性の高い魔具である。

魔具の利用というのは、魔力さえ用意できれば誰でも利用が出来る。

そのため、魔具の使用に関する法が定められており違反をした人間は私財の没収から収監が待っている。

最悪の場合は私刑や追放系などの重たい系に処罰されることがある。

しかし、その魔具の力を求める人間は止まず数え切れない程の危険な力を持つ魔具が世界中の誰かに所有されていると言われている。

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