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21話 ジョニーは逃走する

「まあ、意図的に色々と情報を伏せてたんだよね。【渡り】とはいえ、あんなに一介のモンスターであるワームが巨大になる事も地下から動かないのもありえないんだ。その理由は言っちゃえば、あのワームが食欲に任せたままダンジョンの核を食べた事が原因なんだよね。普通なら食べてもダンジョンの核なんて拒絶されるんだけど……まあ、あのワームは特殊な個体だったんだろうね。そのまま飲み込んだダンジョンの核をベースに魔力を大食らいし始めたんだ。そうして、核の魔力をゆっくり消化しながら今も巨大化してるんだよね」


 必死に俺達はワームから逃げながら、ザントマンの説明を聞いていた。

 背後から追ってくるワームは、巨体故に壁に体を擦り続けているため減速してしまっている。だからなんとか追いつかれていないという状態だ。


「だから、ワームは最下層から動けなかったんだよ。飲み込んだ核を消化するために常に魔力を消耗している状態だからね。だからこそ、あのモンスターは最下層から動きたがらなかったんだ。で、問題はついに核の魔力を消化しきってきて、ワームが活発になっちゃった事なんだよね。餌を求めて、あのワームが上層に動けるようになったのが最近でさ。今まで生存してきた冒険者っていうのはアイツが消化中で動けなかったのが答えだね。そして、動き始めたって事はこのままだとこのダンジョン自体があのワームで完全に食い荒らされて最悪の末路を通る未来が見えてるから、あのワームを殺す必要があったんだよ」

「――なるほど! だから、契約内容を! ダンジョンの核の破壊っていったのか!」

「そうそう。騙すようだけども、召喚獣と召喚術士の契約はお互いに同意の上で騙さずに履行する必要があるからね。だからまあ、僕との契約を守らない選択肢はないように色々と隠した上で契約をしたんだよね。君が命は惜しいから諦めた場合はどうしようかと思ったけど、その心配は無かったみたいだったから助かったよ」

「そうだな! 俺は、どっちにしても、成功しなけりゃ、終わりだったからな! 良い契約をしたよお前は!」


 必死に叫びながら、こちらを挽き潰そうとしてくるワーム横飛びで回避する。

 先ほどまで走っていた道を飲み込むようにワームが抉っていく。


「ザントマン! 幻惑魔法は効かないのか!?」

「あ、無理だね。あれも砂で目を介さないと能力効かないんだ」

「そりゃそうだよな!」


 オークエリートに使った当たりでそれに関しては察していたさ!

 必死に逃げながら、上階へと。ワームは床をぶち抜きながら上がってくる。


「おい!? そんなのありかよ!?」

「いやー、完全にターゲットされたね。ダンジョンの核の魔力も、相当少ないだろうからダンジョンの壁自体も脆くなってるのかな? こういう登場をしてくるとは予想外だねぇ」


 冷静に解説するザントマン。必死に俺と逃げているはずなのに、結構余裕あるなこいつ。

 召喚獣になった場合、召喚術士が死ねばそのモンスターがどうなるのか? 契約を解除された時点で召喚獣はモンスターとなり、野に放たれることになる。その際に魔力を貯めていなければ消滅することになる。つまり、契約した時点で一蓮托生なのだ。


「まあいい! アイツを倒す! それは確定だ!」

「いいけど、どうやって?」


 ザントマンのその言葉に、色々と考えていた案を話してみる。


「まず、ワームの内部に侵入してそこからぶっ殺す!」

「あの口の中に飛び込むの?」


 背後をみる。口の中はなんというか……掘削機というか、粉みじんになりそうな牙がうごめいていた。うん、無理だな。


「次の案は、毒になるような何かを食わせる!」

「まあ、効果はあるかも……ワームはダンジョンの核を消化して、魔力を消耗し続けているからそういう状態異常に対する耐性が低くなってるだろうし」

「よし!」

「でも、あの体格のワームに有効な毒をどうやって用意するの?」

「次の案だが!」


 案を取り下げた俺を、なんともいえない顔で見るザントマン。

 こういった物はとにかく案を出すことが大切だ。検討は後でも良い。ひたすらに有効な手を考えなければジリ貧なのだから。

 そんな風に話しながら角を曲がり、なんとか逃げ回りながら他の作戦も話していく。


「壁を越えられないから、地形を利用して一方的な攻撃はどうだ!」

「地面には潜れるんだよね」

「罠に嵌める!」

「どうやってそんな罠を用意するの?」


 よし! 色々と考えていたけど手持ちだとちょっと無理だな!

 というか、地面に潜れるという特性が予定外だった。せめて、状態異常に対する耐性が低い予想通りになんとかアイツの状態異常をする方法があれば……


「うおあっ!?」

「わっとと!」


 地鳴りを聞いて、飛び退くとザントマンと俺が居た場所からワームが地面から飛び出してくる。

 ……というか、やけにこちらを狙っている。この精度で追いかけてこれる理由はなんだ?


「ザントマン! あいつはどうやって俺達の場所を判別してるんだ!?」

「魔力だろうね。オークエリートを倒した当たりで多分魔力を覚えたんだろうね。まあ、動けるようになってやっと食べられる上等な餌だから逃がす気はなさそうだね」

「なるほどな!」


 つまり、大雑把にだが常に位置を把握されている。このまま逃げ続ける事は困難だろう。


(一度ダンジョンから出るのは……無理だな。ここから仕切り直すプランはないし、契約不履行になる)


 召喚術士の契約はそこまで融通の利くものではない。どのタイミングで契約不履行判定になって罰が下るのか分かったものではないのだ。

 ここで倒すしかない。しかし、何かが足りない。そのまま上層に上がる階段を駆け上がり4階に逃げ込む。ここから先は多少は曲がりくねっているので逃げやすいがこちらの体力的な問題もある。


「とりあえずこのまま狭い道を通って階段を抜けていって……」

「あっ、ヤバいかも」


 ザントマンの声に、何も考えずに横っ飛びで回避。すると、ワームが突っ込んできて……

 轟音がして天井が崩れてしまい、行くつもりだった細い道が塞がれてしまった。


「……嘘だろ!? そんなのアリか!?」

「いや、まだダンジョンの機能は喪失してない! しばらくすればダンジョンが自己修復するはずだよ! ただ、しばらくは無理だね!」


 つまり、この4階でさらに大きな道を逃げ回る必要があると言う事か。


「クソ! さらに逃げ回る難易度が跳ね上がったって訳か!」

「そうだね! このままだと、もっと崩されていく可能性は高いからマズイね!」


 真っ直ぐに、ダンジョンの大通りであるような道を走っていく。

 必死に逃げながら、右へ左へと走り続ける。背後から迫ってくるワームはもはや道など関係ないと言わんばかりに崩壊させながら迫ってくる。


「左の道が潰れたよ! このまま横道に逃げると回り込まれる!」

「クソ! このままひたすら逃げ続けるのにも限界があるぞ!」

「ひえええええ!」


 ワームの巨体に助けられている。もう少し小さければ、体がダンジョンの壁を擦って減速することもなく俺達に追いついていた事だろう。

 不幸中の幸いだが、現在不幸の真っ只中だから差し引きはマイナスだ。


「クソ! そろそろ、上の階に行ける、階段はあるか!?」

「……そろそろなはずだよ!」

「ひゃあああああ!」


 その言葉通りに、上に上がる階段が見えた。

 しかし、このまま外に出るだけでは無理だ。どこかで息を整え……ん?


「おい! 一人、多く、ないか!?」

「あー、それは……」


 そう言ってザントマンが横を見る。俺も走りながら視線をそちらに向ける

 今日、指輪について聞いていたアガシオンがいた。


「なんで、いるんだ!?」

「なんでもかんでも! 自分の隠れていた場所がワームに壊されたんですよ!」


 ああ、なるほど……それは悪い事をした気もするが、まあ仕方ないだろう。

 どちらにせよ、アガシオンの住処は潰れることになったので早いか遅いかの違いでしかないな。


「それは、運が、悪かったな!」

「うう……コレクションが半分は無くなっちゃいました……貴重な道具も色々と有ったのに……」

「残りの、半分は、まだ隠してるのか!?」

「いえ、自分が直接持ってます。コレクターとして当然ですよね!」


 当然かどうかは知らないが、アイテムが持てるのがアガシオンの個性だろうか? 収集癖といい、面白いモンスターだな……

 そんな中で、アイテムのはなしを思い出して俺の脳内で閃く物があった。


「もしかして……いや、これなら……いけるか?」


 3階に上がる。追撃はない。階段は上れなかったのだろう。恐らく、しばらくしたら地面を突き上げてくるがそれまでの猶予がある。

 なら、可能性はある試すしかない。だから、俺は一緒に走りきったアガシオンに向き直る。そう、この作戦で重要になるのは……アガシオンだ。


「アガシオン!」

「な、なんですか!?」

「お前が必要だ! お前が欲しい!」

「え、え……ええええええっ!?」


 ……勢いに任せて、なんか凄い事を言った気がする。

【解説 ワーム】

体が細長く、脚のない(あっても短い)動物を指す便宜上の総称である。ファンタジーにおいてはそのワームが巨大化し、捕食者としての立場になった存在の呼称として扱われる事が多い。

また、竜の呼称として言葉が使われた時代があるため一種の竜として扱われる事もある。

この世界におけるワームは、竜種の一種として扱われる。翼竜などに近い存在であり、知性よりも肉体や能力に優れている。

手足や眼などの感覚器官は存在せずに、昆虫の幼体に近い見た目をしている。しかし、その姿が成体であり捕食によってその肉体を巨大化させる事で成長する。

独自のセンサーを備えており、それによって外部を認識している。その悪食さと、見境のなさによってあらゆる物を捕食するが自分よりも強い相手に挑み返り討ちに合うことが多い。

もしも、天敵や強者に遭遇しないままに捕食を繰り返したワームがいた場合には、「国喰くにくい」と呼ばれる災害として成長する事がある。

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