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179話 ジョニーと、致命の一撃と

『――くっ』


 リンの攻撃を防ぎ続けたことで、堂々巡りにして迷わせていた木々はついに正しい道を指し示した。

 視線の先に広がる広場。あそこにティータが捉えられている。


「ラトゥ!」


 しかし、返事はない。

 振り向くと、そこには血に塗れ、傷だらけになっているラトゥが力なく座り込んでいた。


「……けほっ、大丈夫、ですわ……いって、ください……」

「――ああ」


 おそらく、防ぎきれない槍を無理やり自分の体で受け止めたのだろう。

 そこまでの覚悟を見せられて、無為にするようなことは俺にはできない。


『……いか、せるかぁ!』


 背後から、血を吐くような声が聞こえる。

 振り向けば、リンは片手に今までに見たことのないような鋭い槍を構えて、俺に向けていた。


『【守護】の名に賭けて……! いかせる、わけには……いかない……!』

『うそ!? リン、死んじゃうわよ!? 縛りを無視して、そんな無茶をしたら!?』

『……かくごの、うえ、だ……!』


 体が崩れ、顔のあらゆる場所から血を流しながらも、今までよりも鋭さを持ち光り輝く槍を生成した。


『アレイ! コレまずい! アレは、妖精でも多分死んじゃう!』

「そう言われてもだなぁ!?」


 そして、リンは崩れ落ちながら俺に向かって槍を投擲をした。

 燐光で軌跡を描きながら、俺へと向かってくる。


「――バンシー!」

「は、はいっ!」


 バンシーは俺の前に音の壁を作りだろうとする。

 ――だが、それはまるで紙を破くかのように引き裂かれた。


「嘘っ!?」

「嘘だろ!?」


 バンシーの防御は無効化されたということは、あの槍は生半可な方法では防げない。

 可能性があるかも知れないラトゥは、もはや体を動かすことは出来ない状態となっている。。

 ――必死に横に飛び、射線をずらそうとする。だが、その瞬間に槍は曲がって俺の方向まで追尾してきた。


『狙われたらその程度じゃ逃げられない! 命を奪うまで、あの槍は止まらないの!』

「無茶苦茶だな!?」

「……!」


 シェイプシフターが気づけば俺の前に飛び込んできていた。

 模倣をした、俺と同じ存在であることから身代わりになろうと考えているのだろう。


「っ!」


 そして、リンの放った槍を迎え撃とうとして。


「っ!?」

「シェイプシフター!?」


 槍は、まるでお前は違うとでもいうかのように、シェイプシフターを輝く燐光で弾き飛ばして俺の元へと向かってくる。

 あれだけの魔力が込められた槍であれば、確かに魔力によって生半可な攻撃を弾き飛ばすことは可能だろう。だが、どうやって俺とシェイプシフターを見分けたのか。


『あの槍、アレイの存在そのものを記憶して狙ってるの! だから、騙そうとしても無理よ!』


 妖精が叫ぶようにそういう。

 もはや呪いも同然だ。シェイプシフターは破壊されてはないだろうが、高濃度の魔力によって弾き飛ばされたで行動不能に陥っている。


(まずい、このままだと――)


 考えて、考えて、考える。

 持っている手札はどれだけあるか?

 あの槍を防ぐ手段はどんなものが残っているか?

 抜け道を探せ。抜け道を――


(……まずい、思いつかない)


 俺の持っている手札で、この状況を切り抜けるなにか。

 その一手が、必要なのだ。


(何か! 何かがないか!? まだ、あと少しなんだ! だから、あと一手! この状況を切り抜ける方法を――)


 だが、無情にも時は待ってくれない。

 俺の目の前に槍が到着しようとする。


「くっ!」


 そして、破れかぶれに懐に手を当てて、取り出した。

 それは、一枚の召喚符。


(……魔力が、形になって通る!?)


 復活までは霧散していたはずの魔力が、形をなしている。

 ならば、どうなろうともこの召喚符に頼るしかない。そして俺は、魔力を込めた。


「――頼む!」


 そして、俺の目の前に召喚されたのは――。


「って、誰だ!?」


 鎧に身を包んだ騎士のような誰かだった。



 突然の謎の存在を召喚したことに驚きながらも、俺は現状を思い出して必死に指示を出す。


「あの槍を、防げるか!?」


 俺が言うと、その騎士は頷いて槍の前に立ちふさがった。そして、槍による攻撃を盾で受け止める。

 ――そして、あっさりと盾は破壊された。


「壊れるのかよ!?」

『ええー!?』


 あまりのことに叫ぶ俺に驚く妖精だが、槍が一瞬動きを止めたのを見てから、騎士は冷静に鎧の中に手を入れて何かを取り出す。

 それは、不思議な文字が書かれた一本の直剣だ。そして、それを槍に向かって振る。


「うおっ!?」

『きゃあっ!?』


 その瞬間に、突如として爆発するかのような衝撃が走って俺と妖精が吹き飛ばされそうになる。


「お、落ちるかと思った」

『あ、でも見て! あの剣で、槍の動きを止めてるわ!』


 確かに、見てみれば直剣と光の槍はガリガリと音を立てながら拮抗している。

 この硬直している状況に、何も出来ずに固唾を飲んで見守る中で、騎士の周囲に魔力が渦巻いていく。


「……何をやってるんだ?」


 俺の疑問に、妖精が答えた。


『……あれ、魔法を解析してるわ。リンの槍が、だんだん分解されていってる! すごい、すごいわ! 魔法に詳しくないと出来ないのに!』


 確かに、徐々に魔法の槍は形を崩していく。


(……魔法に詳しくて、武器を持っている……いや、武器というかアレは……魔具か?)


 様々な要素が、答えに導こうとしている。

 ……そして、俺の脳裏に思い当たる存在が生まれた。


「まさか……お前、アガシオンか!?」


 その言葉に、完全に槍を破壊しきった鎧姿の存在は、照れくさそうにこちらを向いて頷くのだった。

【解説 致命の呪い】

魔法に長けた種族の使う呪いの一種。その形は様々だが、呪いをかけた本人が最も頼りとしている道具の形を取る。

術者が呪った相手に対して、死するまで追跡して殺す呪いであり、致命の高さや確実に対象を狙う精度は呪いの中でも一級品である。

しかし、莫大な魔力に複雑な術式、そして、使い手自身に対する制約や代償が大きく、呪いであるため解呪される可能性もあるため使われる事は殆ど無い。

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