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お嬢はやけにぐいぐい来る  作者: 狐白雪
第四章 初夏の訪れ
62/79

62.ウォーキング大会 開幕!

『──こちらからの伝達事項は以上だ。⋯⋯おっと、もう時間だな。予算の都合上大層な号令や演出なんてものは無いが、全員準備はいいか?⋯⋯よし。いくぞ──『第三回ウォーキング大会』開幕だ!!』


 リアルタイムで中継される映像とともにスマホのスピーカーからその言葉が放たれた瞬間「うおおおおお!!!」という雄叫びのような歓声が沸き起こり、それと同時に集まっていた多くの人が一気に動き出す。


 まず最初に元運動部らしい屈強な体格の男達が先陣を切るように門の外へ飛び出すと、それに続いて男女ごちゃ混ぜになった集団がぞろぞろと歩き出した。


「今年は五百人か⋯⋯多いな」 


 土曜日、午前九時。


 彼らのいた正門付近からは少し離れた位置にある食堂の窓際の席にて、新品のスポーツウェアに身を包んだ咲希(さき)はガラス越しにその光景を眺めながらそう呟いた。


 『ウォーキング大会』とは読んで字のごとく、二十キロメートルの長距離を歩く大会だ。


 元々は運動不足になりがちな大学生の心身をリフレッシュして健康を維持するという名目で企画されたものらしいが、考案者兼総責任者である例の暴力養護教諭が「ついでに道中のゴミを拾えば社会奉仕活動にもなる」ということで地域全体を巻き込むようにして半ば無理やり実現したとも言われている。あくまでも噂であるが。


 ちなみに大会と付いてはいるが別に他者と競うのは一部の人だけで、枠組みとしては十月にある学園祭などと並べて『百合浜(ゆりはま)大学三大イベント』と呼ばれるひとつの催しだ。


 この大会は今年で三回目とまだ歴史は浅いのだが、それでも参加した学生からは意外と楽しいと好評らしく自由参加にも関わらず年々参加者は増加し今年は遂に五百人を突破したのだという。


 先程開会式を中継していた養護教諭の優奈(ゆうな)の口からこのことを自慢げに聞かされた時はとりあえず秘技おめでとう連呼でやり過ごしたが、在籍している学生の十分の一近くが参加していると考えれば割と普通に凄い事なのだと改めて思った。


「そろそろ行くか⋯⋯」


 およそ五分が経過し、正門前に残っていた参加者がほぼ全員出発したのを確認してから立ち上がり、机に置いていたリュックを背負って出口に向かう。


 空調の効いていた室内から一歩外に出ると、一気に初夏特有の暑すぎないカラっとした気持ちの良い空気に包まれる。


(すごいなこの服⋯⋯長袖なのに全然暑くない。⋯⋯終わったらお礼言っとくか)


 優奈から「経費で落とした」という言葉とともに支給されたスポーツウェアの性能に感動しながら頭上を見上げれば、雲一つないとまでは行かないにしてもよく晴れた空色の中で輝くお日様が目に入った。来週には梅雨入りするらしいのでこれがほとんど最後の晴れかもしれないな、なんてことを考えながらストレッチ代わりに両手を上げて伸びをする。


「──さーて、今日はにっくきリア充どもの間を背後から全力ダッシュで突破しまくるかー!」


 伸びの体勢のまま、咲希は満面の笑みでゆっくりと後ろを振り返った。


「⋯⋯他人のセリフを勝手に捏造するのはやめようか。そんな最低なこと微塵も考えてないんだが。なぁ──ショー」


「おっと、それは失礼」


 いつの間にか背後で食堂の壁にもたれるようにして立っていた金髪糸目に冷たい視線を向けるが、返ってきたのは笑い声だった。


「⋯⋯いいのか優勝候補さんがこんな所にいて。三連覇懸かってるんだろ?もう先頭集団はだいぶ先走ってると思うけど」


「おおう声に静かな怒りが滲んどる⋯⋯まぁ俺の事は置いといて、サッキーも知っとるじゃろ?ウォーキング大会の最後尾付近はゆっくりいちゃつきながら二人で歩きたいリア充しかおらんってこと」


「⋯⋯、」


 わざわざ話を逸らしたのに見事に修正して来る傍武(はたけ)に心の中で舌打ちしつつ、話が戻ってしまったからには乗るしかないと諦めて流れに身を任せる。


「だとしても僕にはリア充の間を突破する意味が分からない。⋯⋯って、何だよその憐れみの視線は」


「⋯⋯いや別に。ただ年齢=彼女いない歴のサッキーは常人とは感覚が違うなって思っただけじゃけん気にせんで」


「失礼な、それじゃ僕が変人みたいに聞こえるだろ。⋯⋯だから何なんだよその目は!!」


 もはや傍武は穏やかな表情を浮かべるだけで、咲希が何を言っても口を開くことは無かった。



「マーくん待って〜!」


「あはははは〜!追いついてごら〜ん!」



「⋯⋯。で、結局ショーは何でこんな後ろに来たんだ。わざわざ僕に合わせる意味は無いだろ?」


 キャンパスを出てしばらく経ち、傍武の言っていた通りあちこちで手を繋いで歩く同じ大学の学生のカップルが目に入る中で咲希は隣を歩く傍武に向かってそう問い掛けた。


 すると傍武は一度驚いたように視線を外してから口を開いた。


「まぁそうじゃなあ⋯⋯なんて()うか、俺はお前に合わせとる訳じゃのうて流れでこうなったんよな」


「流れ?」


「おう。その前に確認じゃけどサッキー今日大学に来てから神原(みはら)お嬢に()うたか?」


 何の脈絡も無く突然傍武の口から夏愛(なつめ)の話題が出たことに一瞬心臓が跳ねたが、傍武にはバレないようになるべく平静を装って返答する。


「⋯⋯会ってないよ。学年違うしそもそも会う理由が無い。でも何でそこで神原さんの名前が出るんだ。何かあったのか?」


 傍武が何か情報を掴んでいるのなら咲希のこの判断は逆効果になると分かっているが、それとこの疑問とはまた別の話だ。それにどのみち聞いておかないといけないような気がする。


「おーん?知りたいんか?」


「何でそこもったいぶるんだよ、素直に教えろよ」


「分かった分かった、分かったけん一歩ごとに俺の足踏むのやめろ!⋯⋯ったく、サッキーはお嬢のことになると毎回ガチになるけん怖いわ⋯⋯」


「何か言ったか?」


「いんや、何にも。」


 後半何か言っていたような気がするが、声が小さくて上手く聞き取ることが出来なかった。傍武の方も言う気は無いらしく疑問符を浮かべる咲希に構わず話を続けてしまい、完全に聞くタイミングが消失する。


「今日の八時半くらいに集合場所でお嬢を見かけたんじゃけどな、なんかあちこち歩き回って誰かを探しとるように見えたんよ。んでたまたま俺がおる方向に歩いて()ようたけんそれとなく聞こうとしたんじゃけど⋯⋯」

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