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お嬢はやけにぐいぐい来る  作者: 狐白雪
第三章 失った過去、守りたい今
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29.俗に言う修羅場ってやつ

「さっきも言ったけど、あたしは八代(やしろ)望冬(みふゆ)。そこにいるさっくんの幼なじみよ。⋯⋯ね?」


 てっきり二人だけで会話するものだと思っていた咲希(さき)は突然同意を求められたことに驚き今まさに飲もうとしていたカップを慌てて置く。


「そう、その通り⋯⋯です」


 夏愛(なつめ)は一度じっとこちらの目を見つめた後、小さく息を吐いた。


「⋯⋯本当みたいですね。分かりました。では八代さん、次の質問ですが──」


「待ちなさい、まだあんたの名前を聞いてないんだけど」


「⋯⋯神原(みはら)夏愛(なつめ)


 仕方なくといった感じで渋々そう答えた夏愛に望冬はむっと眉を寄せる。


「神原さん、ね。あんたこそさっくんとどういう関係?もしかして付き合ってるの?」


「望冬、それは」


「さっくんは黙ってて。今この子と話してるの」


 絶対に避けなければならないその誤解を否定しようとしたが、夏愛をじっと見つめたままの望冬に遮られ口を(つぐ)む。


「⋯⋯⋯⋯」


 白百合色の瞳がちらりとこちらを向くが、咲希に出来るのはただ黙って待つことだけだった。


「──もし」


 やがて口を開いた夏愛は最初にそう置き、続きを告げた。


「付き合ってるって言ったら、あなた(・・・)はどうしますか?」


「ッ⋯⋯!?」


 誰とも視線を合わせない夏愛の「あなた」が一体誰に向けての言葉なのかは咲希にも分からなかった。


「⋯⋯なんて、冗談です。ただの大学の後輩ですよ」


 目を細め、僅かに首を傾けながらそう言った夏愛に望冬は(いぶか)しげな目を向ける。


「まぁ、そうよね。ほんとは初めから分かってたけど」


「⋯⋯⋯⋯、そうですか。⋯⋯それで?だから何なんですか?」


 珍しく言葉に棘がある夏愛を鼻で笑った望冬はゆっくりと自らの口許(くちもと)に指を当てた。


「別に?さっくんはまだ私のものみたいだから良かったなって」


「⋯⋯河館(かわだて)さんは河館さん本人のものです。誰のものでもありません」


「ふーん⋯⋯『自分のもの』とは言わないんだ」


「⋯⋯⋯⋯言いません」


 夏愛が少し押され気味かと思った瞬間、望冬からトドメに近い一撃が加えられた。


「あ、そういえばあんたも手を繋いだりはしてたみたいだけど勘違いはしないでね。さっくん昔から押しに弱いからきっとあんたの無理なお願いを仕方なく聞いてくれてるだけだから」


「っ⋯⋯」


 そこで夏愛は言葉に詰まった。咲希が押しに弱いのは彼女もとっくに気付いていると思うのだが、仕方なく、という部分について本人的にも思う所があるのか否定できないでいるらしい。


「⋯⋯例え──」


 しかしそれでも夏愛は引き下がらなかった。


「例えそうだとしても、私は河館さんを信じています」


 力強い意志の宿った瞳は揺らがない。


 望冬は目を(すが)め、大きくため息をついた。


「信じてる、か⋯⋯。やっぱりわがままなのね、まな板は」


 その言葉に夏愛の動きがぴたりと止まり、ゆっくりと視線が下に落ちる。


 そして直後、ぼふんと湯気が出そうな勢いで一気に顔が赤く染まった。


「なんっ!?い、今胸の話は関係ありませんよね!!?何なんですかいきなり!!!」


「あ、気にしてたんだ。でもAって羨ましいわ、あたしはなぜかいつも肩が凝って⋯⋯」


「み、望冬っ!!」


 わざと胸を強調しながら肩を揉む望冬に咲希は思わず名前を呼ぶが聞こえている様子は無い。


「えっ、Aじゃないです!!Bです!!ちゃんとBありますもん!!」


「神原さんまで!?」


 互いに譲れないことらしくとんでもないマウントの取り合い(?)を始めた二人を止めようとした咲希だったが、悲しいことに完全に無視をされ構わず会話は続く。


「私は着痩せするタイプなんです!」


「なるほどつまりそのコートの下には少しの夢と希望とたくさんのパッドが詰まっていると」


「パッドなんて入れてません!!?」


「へぇ〜じゃあ証拠を見せなさいよ」


「う、うぅ⋯⋯っ!」


 涙目になりながらもいきなりコートのボタンを外し始めた夏愛に咲希は目を見開く。


「ちょっ!?ちょちょちょ神原さん待ってストップストップ!!!!落ち着いて!?!?!?」


 慌てて椅子から立ち上がりテーブルの上に身を乗り出しながら両腕を掴み静止させると夏愛ははっとしたようにこちらを見た。


 咲希は望冬の方にも視線を送り、出来るだけ優しく諭すように告げる。


「お互い流石にやり過ぎなのでいい加減落ち着いてください。話が逸れてますから」


 本来はこんな痴話喧嘩をするためにここに来た訳では無いのだ。完全にいないものとして扱われていたが、咲希としても望冬に聞きたいことは山ほどある。


 しかしその前にやっておかなければならないことがひとつ。


「まずは仲直り、できますか?」


 そう提案すると望冬は嫌そうな表情を浮かべて顔を逸らし、夏愛は無言でカップに口を付けていた。


 どちらも被害者であり加害者でもあるが、どうやら謝る気は無いらしい。


 ため息をついた咲希は頭を抱えたくなるのをなんとか抑え、口を開く。


「⋯⋯それじゃあ勝手に喋りますね。⋯⋯望冬に質問をいくつか」

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