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お嬢はやけにぐいぐい来る  作者: 狐白雪
第二章 暇だったゴールデンウィーク
24/79

24.度重なる失言

(⋯⋯自分に自信を持ってほしい、か⋯⋯)


 遅れないよう、且つ速すぎないように歩幅を揃えながら、咲希(さき)は心の中で自問していた。


 そんなことを言われたのは初めてなのだが、咲希自身確かにそうなれたらと思ったことはある。


 けれども未だ実現は出来ていないのが現状。ただその原因も、それら全てが自業自得だということも分かっているのだ。


 あれから一年近く経った今も結局自分は過去に囚われているのかと自嘲しようとした瞬間、繋がれた左手がぎゅっと握られた。


 はっとして隣を見ると、口を引き結んで前を向く夏愛(なつめ)の姿が目に入る。


「⋯⋯大丈夫です。私が居ますから」


 目は合わさずそう言った夏愛に、咲希は慌てて頬に力を込めた。


(⋯⋯くそ⋯⋯また僕は⋯⋯)


 頭の中で自分に拳を入れながら思わず悪態をつく。


 暗い感情が無意識に表情に表れていたのだろう。普段は抑えているはずなのに夏愛の前だと妙に漏れ出てしまうのは何故なのか、咲希にも分からなかった。


「⋯⋯すみません、気が緩んでたみたいです」


「謝らないでください。⋯⋯私も、そういう気持ちになる時がありますから」


神原(みはら)さんも⋯⋯?」


「⋯⋯いつか、お話しします」


 表情を陰らせた夏愛に、おそらくこれ以上は踏み込んではいけないと察した咲希は何と返すか迷い、結局何も言うことができなかった。


「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


 たった数秒のはずの沈黙が何倍にも感じる重たい空気の中、先に口を開いたのは夏愛の方だった。


「⋯⋯こんな暗い話はやめにして、明るい話をしましょうか。折角ですから、今日のお話でも」


「そ、そうですね⋯⋯えっと、神原さんはどうしてあの店で僕が働いてるって分かったんですか⋯⋯?」


 夏愛が生み出してくれた会話のチャンスを棒に振る訳にはいかないと思った咲希はすぐさまずっと疑問に思っていたことを尋ねる。


 夏愛は何かを思い出すかのように視線を上に向けた後、ゆっくりと真相を語り出した。


「⋯⋯本当は昨日の時点で近くまで来ていたんです。でも、喫茶店と言っても周りにいくつもあるのでどれが正解なのかが分からなくて⋯⋯道の端っこで立ち尽くしていた所でたまたま傍武(はたけ)さんと出くわしました」


「⋯⋯え?」


 思わぬ登場の仕方をした親友の名に咲希は微妙な声を漏らしてしまったが、同時に頭の中で点と点が繋がったような感覚があった。


「⋯⋯それで、傍武に場所を教えてもらったんですね?」


「はい。丁寧にお店まで案内していただきました」


 そういえば傍武は店の手伝いに遅れてきた理由として『道案内をしていた』と言ったような気がする。


 夏愛にバイト先がバレていた経緯は分かったが、それはそれでもう一つの疑問が生まれる。


「あれ⋯⋯?じゃあどうして昨日じゃなくて今日になってから顔を出したんですか⋯⋯?」


 わざわざ一日後にする理由が分からずそう聞いたのだが、夏愛は何故か若干不服そうな顔になっていた。


「⋯⋯それくらい察してください⋯⋯っ!」


「え?⋯⋯す、すみません⋯⋯?」


 どうやら余計なことを言ってしまったらしいということだけは理解した咲希はつんと顔を逸らす夏愛にとりあえず謝罪する。


「⋯⋯河館(かわだて)さんはたまにいじわるです」


「いじわる⋯⋯!?」


 しばらくしてようやくこちらを向いた夏愛は白百合色の瞳を(まぶた)で半分ほど隠し、ジト目でそう言ってきた。


 どこをどう見てそう思ったのかは謎だが結果的に機嫌を損ねてしまったらしい。


「(⋯⋯折角、かっこよかったって言おうとしたのに⋯⋯)」


「⋯⋯何て⋯⋯?」


 何を言うべきかが分からずおろおろとしていた咲希は、夏愛の独り言のような小さな呟きを聞き逃してしまった。


 何とかもう一度言って貰えないかと夏愛に視線を向けると、諦めたように息を吐かれた。


「⋯⋯お店でクレーム対応してる河館さんがかっこよかったなって思っただけです」


「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯せめて何か言ってください⋯⋯」


「あっ、いや、その⋯⋯ちょっと驚いたというか⋯⋯神原さんにそんなこと言われるとは思ってなかったので⋯⋯」


「ど、どういう意味ですかっ!私だってそれくらい言う権利はあるはずです!」


 ちょっぴり涙目になり耳と頬を真っ赤に染めてそう反論する夏愛に咲希は軽く返答する。


「駄目って訳じゃないんですよ、ホントに、予想外だっただけで」


「うぅ⋯⋯本当ですか⋯⋯?」


「本当の本当に」


「⋯⋯なら⋯⋯もう、いいです⋯⋯」


 言い返す言葉が思い付かなくなったのか勢いを失いぷるぷると震える夏愛を見ていると、思わず笑ってしまった。


「かわいい」


「えっ、」


「え⋯⋯?」


 急に声を漏らした夏愛を不思議に思うと同時に、咲希は数秒前の自分が何をしでかしたのかを思い出していた。


(あれ⋯⋯もしかして声、出て──ッッ!?!?)


 そのことに気づいた直後、全身からは嫌な汗が吹き出し、心臓はばくばくと音を立て始める。


「いや!神原さん、何と言うか、えと⋯⋯と、とにかく違くて⋯⋯!」


 圧倒的な失言をしてしまった咲希は荒くなった呼吸のまま何とか弁明を図ろうとするが、対する夏愛は涼しい顔をしていた。


「⋯⋯ふふ。そうやって狼狽(うろた)える河館さんの方こそかわいいですよ」

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