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お嬢はやけにぐいぐい来る  作者: 狐白雪
第二章 暇だったゴールデンウィーク
20/79

20.GW4日目──バイトにクレームはつきもの(1)

「ん⋯⋯?」


 カウンター付近にいた咲希(さき)の鼻に届いたのは本来ここに存在しないはずの、最も苦手な臭いだった。


 軽く店内を見回すと壁際のテーブル席に一人で座った三十代くらいの女性が目に止まる。


 時間帯的にも客は少ないため限られた四人席を占領していることに関して咎めるつもりは無いのだが、問題が別にあった。


 その女性客は禁煙となっているはずの店内で煙草を吸っていたのだ。


 適度に換気を行ってはいるが季節はまだ冬の名残を残しているため基本的には密閉された空間だ。その分煙は充満しやすい。


 しかもよりによってその女性客の近くには咲希が案内した夏愛(なつめ)の席があった。


 夏愛は声こそ出さないが、こほこほと小さく咳くような動きを見せた。


(⋯⋯⋯⋯、)


 無意識に足が動いた瞬間、何者かに手首を捕まれ制止させられる。


「私が出る。⋯⋯流石に見過ごせない」


 見ると、普段の明るい雰囲気と違って静かな怒りを感じるひりつくような空気を(まと)った(かすみ)がいた。


 店長として、自らの店でルールを破り好き勝手やられるのは許せないのだろう。


 とはいえ咲希としてもここで霞に全て任せて引き下がるというのも釈然としなかった。


「僕も──」


河館(かわだて)くんはあの辺の窓半分開けて換気。大体二.三分くらいで。その間に私は説得してくるから」


 最初から咲希に手伝わせるつもりだったらしく、霞は指示を出すと返事を待たずすぐにホールへ出て行ってしまった。


「⋯⋯了解です」


 咲希も小走りで窓に向かう。途中で当然夏愛の視線を感じたが、もちろん無視して横を通り抜ける。


(寒っ⋯⋯!)


 窓を開けた瞬間一気に外の冷えた空気が流れ込んできた。店内は暖房によって適切な温度に保たれているため余計に冷たく感じてしまう。


 風が無いのが幸いだったと思いつつ霞が向かった元凶の方へ視線を向けると、案外落ち着いた会話をしているらしい二人の声が聞こえてきた。


「何度も言いますがルールは守って頂かないと困ります」


 テーブルの横に立った霞にそう注意されている女性の手には未だに火が()いたままの煙草が挟まれている。


「はぁ、あなたじゃ話にならないわ。それよりあの黒髪君を呼んでくれない?」


 その言葉に耳を疑った咲希だったが、霞と女性客の視線が同時に自分へ向いたためどうやら聞き間違いでは無いようだ。


「早くしてもらえる?」


「それは⋯⋯」


 霞が返答しかねている様子を見た咲希は即座に動いた。


 未だに不安そうにこちらを見ていた夏愛には「大丈夫ですよ、すぐに終わります」と笑顔で伝え、女性客の方へ向かう。


(わたくし)に何かご用でしょうか」


「(河館くん!ここは任せてって⋯⋯!)」


 お前は出てくるな、と暗に言われているのは分かっているが、自分が出ることで少しでも問題が解決に近づくのならやらせてほしい。


「君新人?前までいなかったと思うのだけれど」


「はい。昨日からバイトとして働かせて頂いております」


 もちろん相手を刺激しないよう営業スマイル全開だ。こういう輩は普段ならもっと雑にあしらうが、ここが友人の店である以上下手に騒ぎを大きくする訳にはいかない。


「やっぱり!道理で見ない顔だと思ったのよ!」


 合点がいったのか嬉しそうに手を叩きだした女性客に咲希は困惑する。


「⋯⋯あの、ご用件は⋯⋯?」


「ああごめんなさい、ちょっとお願いがあって⋯⋯」


 意外と話が分かるタイプなのか?と一瞬安堵しかけたが、直後に放たれた言葉に咲希は一瞬固まった。


「この女の店員さんが(うるさ)くて気が散ってしまって⋯⋯どうにかしてくださる?」

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